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女神の護符  作者: のはな
第四章 女神の呪い編(七年前)
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女神の呪い編2.兄はブタと罵るが、妹を秘かに溺愛している。

イーゴリたちは出てきませんが


同じく女神の護符に関わる3人の話になります。


タイトルの意訳があるとすれば

「兄はツンデレ」といったところでしょうか(笑)

収穫祭に出発後、王太子ミハイルの愚痴は道中止まらなかった。


そして、ポリーナのお守りには完全に非協力だった。


アレクサンドルは必死にポリーナを追いかけ捕まえるが、王太子は基本無視。


「さっさと、先に行け!なんで、俺がこんなガキ二人の世話なんて…!」


「ガキ…?俺も含まれていますか?」


「ガキだろう!?14のガキ!」


(貴方の護衛なのですが)


一番子どもっぽいのは誰だろうか…?


18歳の成人のふてくされた態度。



大人げないミハイルに無言となるが、心のなかでアレクサンドルは突っ込まずにはいられなかった。

ポリーナは、木綿のドレスに着替え庶民に変装している。

歌を口ずさみながらアレクサンドルの手を握っり、ずっと飛び跳ねていた。



「わぁーー!すごいすごい!!人がいっぱーーい!ねぇっ騎士様ぁ早く!!」


「…アレクサンドルです」


名前を何度も言っているがポリーナは覚える気がないのだろうか。

意地でも名前を覚えさせるために、少年騎士は歯ぎしりをして伝える。


王道の中央道は人でごった返し、両脇には露天商がすき間なく並んでいた。

豊穣を祝う収穫祭には、多くの食べ物が並び、歩行者天国と食べ歩きが解禁されている。


ポリーナは当然のことながら食欲と好奇心を爆発させた。


「お兄様ァーー!あれ買って!お花の飴細工!カボチャのパイと、甘いジュースと…!」


財布のひもを握っているのは兄である。


叱ることが面倒なのか歪んだ顔のまま、ポリーナが欲するものを次から次へとかたっぱしから買い与えていた。


「殿下…!いくらなんでも、買え与えすぎでは…!?」

「黙れ。じゃあお前が止めろ。泣き叫んでまた面倒だ」


ポリーナはジュースを飲みパイを食べ散らかし、飴細工のお花をバリバリ食べている。


よほど日々節制した生活をしているのだろうか。甘い物に飢えているようだった。


そんな妹の様子を白い目で見守り


「ブタめ」


と、一言。


だが、口の端がかすかに笑った。

妹を豚呼ばわりしたにも関わらず、なにげに甘い。

彼にとって、妹を愛でる術はいつも毒を混ぜることだった。



食べこぼしの激しいポリーナは頬に沢山カスをつけていたが、ミハイルは無表情でハンカチを押し当てて拭ってやっていた。


(…どうやら、仲が悪いわけではないようだ。とてつもなく捻くれた態度のお方だが)




アレクサンドルは、護衛に入る前に簡単にポリーナとミハイルの関係を確認していた。


ミハイルは今から8年前に、王室に養子として迎えられた。


国王陛下に男子がおらず、王室の存続のために取られた措置であった。



つまり、2人は非常に容姿が似ているが血の繋がりはない。


それは、この国の人間であれば誰もが知っている。



ミハイルは、王太子としての教育を受け、期待以上の優秀な頭脳と王族としての立ち振舞を身に着けた。


収穫祭に心躍る妹のポリーナとは異なり「くだらん」と言って、先を行く2人の後を長い脚で悠々と歩き一定の速さで付いてくる。


庶民的なジャケットに量産されたズボンとシャツ。どこにでもいるような出で立ちだが、洗練された所作や、品のある雰囲気は隠せない。


ただ歩いているだけで人を惹きつける美貌の青年に、アレクサンドルは時折振り返り安全を確認する。



未来の国王候補は、初めて体験する祭りの様子を冷静に観察していた。



「ねぇねぇ」


と、手をつないでいたポリーナが、大きな目で下から上目遣いでこちらを見て声をかけてきた。


常に周りを警戒し、神経を研ぎ澄ます騎士の様子に気づいている。


「何でしょうか?」

「貴方の事、サーシャって呼んでよろしくって?」


アレクサンドルの一般的な愛称である。

家族から時折呼ばれるくらいだったが、王女の頼みであれば断る理由もない。


「構いません。お好きに」


アレクサンドルは顔色一つ変えず、頷く。

群衆の波に乗り、ポリーナが目指していく神殿が近くなってきた。


幼いポリーナは嬉しそうに微笑む。


彼女はまだ他の大人達に混ざると大体胸の辺りくらいの背丈しかないため、混み合う人だかりの中にいると埋もれそうだった。


肩を抱き、安全のために引き寄せる。


アレクサンドルは無言でポリーナを自分の利き腕ではない左側に寄せ、ゆっくり歩くミハイルを待った。



「殿下。やはり先に行ってください。後ろにいては守れません」


「…好きにしろ」


気のない返事をして、ミハイルは群衆をかき分けながら先に進む。

アレクサンドルはその背を確認してから、横にいるポリーナへ視線を戻した。


「はぐれないように」


そう言って、彼女の肩を軽く抱いた。

大きな掌に包まれて、ポリーナは一瞬だけ顔を上げる。

金の髪が陽を受けて光っていた。


「……サーシャ」


呼ばれて見下ろすと、青い瞳がきらきら揺れている。


「はい」

「ありがとう。わたくし、きっとこうして外を歩くのは初めてなの」

「そうですか」


淡々と答えながらも、アレクサンドルは歩調をゆるめる。

子供の足に合わせて、自然と速度を合わせていた。



「サーシャは若いのに騎士なの?強いの?強いから私のところに来たんでしょ?」


絵本の騎士と重ねているのか、無邪気な質問には期待が込められていた。


「……俺より強い騎士は沢山おります。が、日々強くありたいと精進している過程ではあります」


「お兄様がさっき言ってたわ。第一騎士団の騎士でサーシャの年齢で入れるのは相当優秀ですって」


思わず、抜け目のない王太子の観察眼に苦笑した。


確かに第一騎士団に入団できるのは、毎年ごく少数の枠しかない。しかし、ポリーナの理想の騎士にビジュアルが似ていたから呼ばれにすぎないのだが。



「…お褒めにあずかり大変うれしく思います」


「だからね。サーシャにも護符を買ってあげます」


目の前に神殿の入り口が見えてきた。

白く輝く神殿は、何本もの巨大な柱に支えられて高くそびえている。


青空に映える美しい神殿に、昼を知らせる中の鐘が荘厳に音を奏で始めた。


ミハイルも思わず足を止め、うるさいくらいに鐘が響き渡る中で空を飛び立つ鳩の群生に目を留めた。



「女神の護符で、サーシャに危険が及ばないように守ってもらいましょう。ね?それがいいわ」


入口に入る扉の前に高い階段が少し長いくらい待ち構えていた。




夜明け前。

椅子に腰かけたまま、アレクサンドルはうたた寝から目を覚ました。

窓の外には、山の端を淡く染める黎明の光。


(……昔の夢を、見たようだ)


そっと伸ばした視線の先で、ポリーナは静かに眠っていた。

落ち着いた呼吸が、かすかにシーツを揺らす。


流行り病で体を弱らせた妹のために、王太子ミハイルは温泉街へ一ヶ月の滞在を決めた。

直接は言わないが、昔も今も変わらず妹思いの男だ。



が、ここへ着くなり「今夜は戻らん」と言い残して、さっさと出ていってしまった。

行き先は、アレクサンドルの永遠の宿敵――第二騎士団長、イーゴリ・メドベージェフの宿。


あからさまな行動に、苛立たないはずがない。

昔から、ミハイルには何度も言われている。


『クソ真面目でつまらん。何でも及第点しか出さない男だ』


イーゴリは、人を惹きつける天性の雄弁さと、恐ろしいほどの勘と頭の回転を持つ。

あの軽口も、放蕩も、すべて計算のうち。

馬鹿を演じて、他人を油断させているだけの男だ。


王太子は、その“賢い愚者”を気に入っている。

模擬戦の一件で、民の心を掴んだイーゴリを、まるで英雄のように語る。


(……くそが)


アレクサンドルは低く息を吐いた。

拳を握った手の甲に、血管が浮かぶ。

理性で押し殺しても、胸の奥で小さく燻る嫉妬の炎は消えなかった。


模擬戦で勝利を収めたのは、アレクサンドルだったはずだ。

なぜあの男は、いつも一部の人間に熱烈に気に入られる?


よりにもよって、この国の王太子…今後の道が変わるとも限らない。



「ん…」


小さく咳き込んだポリーナが少し声を出し、苦しそうに横向きに寝返りを打った。


薄い寝間着一枚で、少し開いた胸元から肌が見える。無防備な姿に一度大きく心臓が高鳴ったが、寝ている少女を襲う趣味はない。

布団をかけ直し、目を他へそらした。


一ヶ月の療養で温泉に浸かり、滋養のあるものを摂れば、ポリーナの身体は以前のように健康をとりもどすはずだと医師は言った。


そうでなくては困る。


病は肺をだめにした。

痩せて苦しそうにき込む彼女を助けたい気持ちは、アレクサンドルも同じだ。


自分は、第一騎士団の団長という立場がある。


そのため、一ヶ月も個人でポリーナと過ごすことはできない。

できて、あと一日。

そばにいて、少しでもポリーナの支えとなり、元気になっていく姿を見届けたかった。


次はいつ会えるか、わからない。



腕に抱くことも、それ以上のことも…二度とできないかもしれない。


戦場へ呼ばれれば、そこで何ヶ月も生きるのがアレクサンドルの仕事だ。



王都へ戻り物理的にポリーナと距離ができることで、一つだけ考えない様にしていた懸念がある。


王太子の事だ。


冷たい王太子の瞳がポリーナを見る時だけは、目の奥に温もりのようなものが灯る。


それは、幼い頃からずっと変わらない。


兄妹として確かな絆だと思い、さして気にしていないことだった。


だが…


(本当に…妹としてしか見ていないのか?)



1年ほど前からだろうか。

アレクサンドルがポリーナへの気持ちを自覚し、積極的に距離を詰めようと行動を起こした。


ミハイルは鋭い。

すぐに警戒したようにポリーナの前に立ちはだかり、アレクサンドルに対して「寄るな」と口に出したこともある。


最初は妹思いの行為かと思い、いかに真剣な思いがあるか伝われば分かるかと気にしていなかった。


しかし…


ミハイルの右腕の小指にはめられた、女神の護符の指輪。



そして、アレクサンドルの両腕に付けられたカフスの女神の護符。



あの日、ポリーナは2人の男のために神殿で祈りを捧げて護符を贈った。



純粋な愛を乞うポリーナの祈りは、呪いのように男達を縛る。



女神の伝説が再び息を吹き返すことになるなど、そのときは分からなかった。








次回は、護符を買う回となります。


まだ子どものため、恋には発展していませんが

よろしくお願いします。

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