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女神の護符  作者: のはな
第四章 女神の呪い編(七年前)
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女神の呪い編1.美少年騎士、嵐のような王女ポリーナと出会う

いつの間にか恋人になっていた

ポリーナとアレクサンドル

温泉街編3話でそんな描写を描きましたが、今回はそんな2人とミハイルの話が主な新章です。


もう一つの女神の護符に絡む3人といった感じでしょうか?


なかなか激しいポリーナを楽しんでもらえたら

嬉しいです。


〈プロローグ:女神の呪い〉



イーゴリが酔い潰れるより少し前――時は、静かに遡る。


湯けむりが白く立ちこめ、硫黄の匂いがほのかに鼻を刺す。


湯の熱と夜の冷気が交わる空気の中で、ふたりは探るように視線を交わした



イーゴリは湯に浸かるミハイルの右手小指に注目した。


シグネットリングに似た女神の護符がはめられていた。


王太子が身につけている装飾品は他にもあったが、それだけが少し古いのか指になじんでいる。


しかし、純金製なのか温泉でも変色なし。

さすがに高級品だった。


「おそろいですなぁ、殿下」


イーゴリはニヤリと笑って、首に下げた大きめの護符のペンダントを指でつまんで見せた。


「…ふん。貴様のは銀か?変色してるぞ」


「後で磨きますので、ご心配なく。信心深いので?」


「……貢物だ」


指を見つめ、ミハイルは濡れた髪をかきあげた。


どこか瞳がいつもより優しい。


王太子にそのような瞳の色を与えるのは、ただ者ではない。

イーゴリは観察しながら、笑顔でうなづいた。



「どんな女神か知っているか?」


「癒しの泉に宿った女神でしょう?」


南部に長年住んでいたイーゴリは勝手知ってる伝説を、その場で簡単に暗唱した。


イーゴリの声は、騎士団のざわめきの中でも不思議と遠くまで届いた。


艶と厚みのある低音。言葉の端に微かに笑みが混じり、聞く者の心を緩める。


唄うように語る声は、鍛えられた兵士たちの耳にも心地よかった。


その声は、発声練習を学んだミハイルよりもよく通った。



伝説が終わると「よっ!団長!!」「流石に上手ぇ!」とヤンヤと酒に酔った騎士達が拍手と指笛で喝采を上げた。


イーゴリは酔って気持ちよくなった顔で笑い、手を挙げてそれに応えていた。


ミハイルは、イーゴリの人を惹きつける才を見つめ、ニヤリとする。


悔しいくらいに、この男は良い声とカリスマ性がある。

利用しがいがあった。


「そうだ。だが癒しは、同時に惑わしだ。女神は男を狂わせ、争いを生んだ。…罪深い女だ」


イーゴリは苦笑して、湯の岩肌に腕をかけた。


女神を神ではなく、女と言い切った王太子の声に妙な色っぽさがある。



「そんな女神、殿下の好みじゃないですか?」


「……誰だって一度は祈る。救いを求めて、狂うまでな」


ミハイルは金の指輪に軽く口づけを落とした。

湯の面に揺れる月が、金の環に静かに溶け込む。


――その女神の加護は、時に呪いになる。






幼い少女が、祈りを込めた女神の護符を渡してくる。


彼女の体温で温められた護符は鈍く光り、アレクサンドルの掌で程よく重さを感じた。



『これ!サーシャの分ね!お願い事してきたから!』



子供じみた、まじないに似た迷信…


渡されたその時ですら、そうとしか思えず苦笑したというのに。


今はもう、自分だけのために祈ってくれたことが愛しい。


女神の護符が、あの時から確かに俺たちを縛った。




今をさかのぼること8年前。


秋も深まり、王国が年に一度の収穫祭に沸き、数日間の祭り期間に入っていた時の事だ。


アレクサンドル・モーリャは入団したばかりの第一騎士団で信じがたい任務を受けていた。



それは、国王直々の重大任務であった。




「やぁぁぁだぁぁぁあああ!!!行きたいのぉぉぉぉ!!!」


王城の回廊に、王女の悲鳴が木霊した。

メイドが慌てて散り、執事が天を仰ぐ。


床には純白のドレスのまま寝転ぶ少女、ポリーナ。

当時10歳。

手足をバタバタとひっくり返った虫のように激しく動かし、泣き叫んでいる。


その横で書類を抱えた王太子ミハイルが額を押さえていた。

まだ若く、彼も18と十代特有のあどけなさを顔に宿し、忍耐力もそこまで備わっていない。



「五月蝿い!!下民の祭りなど見て何になる!」

「女神の護符がもらえるの!恋愛成就のやつ!!」

「くだらん!!」



血の繋がらない妹のわがままに心底うんざりしており

「何が恋愛成就だっっ乳臭いガキのくせに!!」と凶器のような言葉で吐き捨てている。


兄のきつい言葉にポリーナはますます癇癪を激しくさせ、奇声に似た悲鳴をあげてわめき出した。



(……なんだここは?本当に王室に俺は呼ばれたのか?)


廊下の端で立っていた少年騎士、アレクサンドルは、遠い目をした。


年は14歳、来月ようやく15歳となる。


美しい金髪に整った顔。

王国のエリート騎士学校を卒業し、花形の第一騎士団に入団してからまだ一ヶ月も経っていない頃のことである。


彼は、特別任務といわれ突然で王宮の王室へやってきた。


そして、2人の前で挨拶をする前にこの大騒ぎに巻き込まれ硬直していた。



ポリーナの泣き声がさらに大きくなる。



「行きたい行きたい行きたぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!!お兄様の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁぁぁぁーーー!!髪の毛ワカメえええええーーー!」


「貴様ぁーーー!!」


「いやぁぁぁあーーー!!」


気にしているくせ毛をいじられ追いかけてきた兄に、ポリーナは泣いて部屋をぐるぐる逃げ始めた。


アレクサンドルは埒のあかない騒ぎに、意を決してポリーナの前に飛び出した。


突然現れたような少年騎士に、ポリーナは絶叫して止まる。


窓辺の光が彼の髪に反射し、白金の糸が風に散るようだった。

笑ってもいないのに、唇の端にわずかに影ができて、それが笑みのように見えた


止まったポリーナはきょとんとし、涙目で見上げてきた。


静かになると、彼女は大きな青い目で好奇心を携えている。



年下の少女に顔を覗きこまれた瞬間、ポリーナの青い瞳が自分の映り込んだ光を跳ね返した。


彼女の瞳に映る“金髪の騎士”は、自分でも知らない誰かのように見えた。


「ポリーナ様…はじめまして」


アレクサンドルはなんとか形式的にお辞儀をした。


「ええ…?誰ぇ?かっこいい…」


「無駄に顔がいいな」


ミハイルもポリーナもマイペースにしげしげと顔をみてきた。


(無駄に?)


気になるところはあったが、ようやく気づいてもらったことにホッとする。


初めての単独任務。しかも、国王陛下から直々に指名されてのことだ。

失敗はできない。


アレクサンドルは胸を張り、背筋を伸ばして堂々と言い放った。


「アレクサンドル・モーリャと申します。本日は、ポリーナ様のお付きを国王陛下から命じられました」


後に、第一騎士団の団長にまで登りつめる男は、この時はまだあどけなさの残る線の細い美少年であった。



「わぁ!お父様にお願いした金髪の騎士様だぁ!!わぁー見てみて!お兄様!」


美しく背筋を伸ばし雄々しく決めたアレクサンドル。

しかし、ポリーナの言葉にそのまま倒れそうになる。


「……は?」


アレクサンドルは目を瞬かせた。


金糸のような髪は陽光を受けて白く光り、青い瞳は氷を閉じ込めたように澄んでいた。


王都でも、この年頃でここまで整った少年は滅多にいない。



「お兄様!見てください!絵本の騎士様にそっくり!」

「見りゃ分かる。黙れ」


てっきり美しく会釈され「本日はよろしくお願いします」とでも言われるかと思っていた。


しかし、ポリーナは玩具でも見つけたような感想をぶつけてきた。

持ってきた絵本には金髪の美しい騎士が跪き、淑女の手の甲にキスをして忠誠を誓っていた。


絵を見て固まるアレクサンドルは、察した。


おそらく、ビジュアルで選ばれた…


ポリーナは子供らしく飛び跳ね、アレクサンドルの美しさに喜んでウデに絡みつき「かっこいいーー!」と父の計らいに喜んでいる。


お人形かなにかだと思っているのか、アレクサンドルの顔をツンツンした。



「ねぇねぇ!遊んで!かっこいいからウィンクして!」


謎のリクエスト。

そんなこと生まれてから一度もしたことはない。

どう対処していいか分からない純なアレクサンドルに、ミハイルは「それくらいやれ!」と怒鳴った。


「も、申し訳ございません……こう、ですか?」

無駄に真剣な顔で片目をつぶると、ただの痙攣してるように見えた。


「……目が痛いの?」

「違う!!」


「そいつをさっさとまつりへ連れて行け!朝から五月蝿くてかなわん」


「は…はぁ」


ウィンクが不発し、羞恥心で頬を赤くして絡みつくポリーナからなんとか距離を取ろうと構えた。

しかし、喚いているばかりで全く言うことを聞いてくれない。



「まったく…っ口の中に饅頭でも詰めて祭りを観戦させればいいんだ!」


「し、しかし…」


「ねぇ~ねぇ~!お姫様抱っこがいいの!!抱っこ!抱っこ!」




と、ついにアレクサンドルはこのわがまま放題の兄妹に挟まれて堪忍袋の緒が切れるのを聞いた。



「うるっせええええええーーー!!!」


突然、若き騎士の怒号が王室の回廊に響いた。


「祭りに連れてかねぇぞこのガキ!!!」

「ひ、ひどいぃぃぃぃ!!!」


ポリーナは大粒の涙をぽろぽろ流し、床にぺたんと座り込んだ。

メイドが慌ててハンカチを取り出し、ミハイルは額を押さえてため息をついた。


「……おい、アレクサンドル」

「はっ!申し訳ございません殿下!」

「お前が泣かせてどうする。慰めて黙らせろ」

「えっ、慰め……?」

「早くしろ」

「え、えぇぇ……」


仕方なくアレクサンドルはしゃがみこみ、泣く王女に手を伸ばした。


下に妹のナターリヤがいて、ちょうどポリーナと同い年。

しかし、男勝りな妹は滅多に泣かず、本日も剣を振り回しているだろう。

今頃、収穫祭の剣術大会にでも出ているに違いない。


妹とはまるで違うポリーナは、涙と鼻水でぐしょぐしょの顔を晒している。


「……泣くな。もう少し静かにしてくれ」


頭を撫で、メイドから受け取ったハンカチで顔を乱暴に拭った。

もはや“王女”ではなく、嵐を呼ぶ小動物にしか見えない。


「……うっ……じゃあ……抱っこ……」

「…………」


青ざめた顔で正面から抱きとめてやると、まるでコアラの親子のようになった。


(……なんだこの展開は)


十四歳の少年は魂が抜けたような顔で立ち上がり、泣き止んだ王女を抱いたままミハイルの前に進む。


ミハイルは顔を手で押さえ、静かになった回廊にため息を落とした。


その音だけが、やけに重たく響いた。




そこへ執事が駆け込む。


「殿下。国王陛下より、殿下も祭りへ行くようにとのお達しです」

「……はぁ!?俺が!?」

「民の暮らしを見てくるように、とのことです」


「ふざけるな!!なぜ俺がこんな――」


その怒鳴り声をかき消すように、ポリーナの歓声が上がった。


「わぁーー!お兄様も行くの!?やったぁ!お兄様ぁ!!私、わたあめ食べたいの!!」


「……誰がそんなものを買うか!」

「わーたーあーめぇぇぇぇーーー!!」

「五月蝿い!!!」


ミハイルとポリーナの声が響き渡り、王宮の回廊に鳥が飛び立つ。


アレクサンドルは何も言えず、その場で立ち尽くした。

兄妹の言い合いは嵐のように続き、止む気配がない。

王族の私的な口論に、下手に口を挟むわけにもいかない。


回廊を吹き抜ける風が冷たく、彼は無意識に背筋を伸ばした。


(……この任務、俺にとって最大の試練かもしれん)


その時の彼はまだ知らなかった。


この日、女神の加護が“呪い”に変わる始まりになることを――。


と、いうわけで

若い頃のアレクサンドル達が書けて本望でした(笑)


今や鉄仮面の無表情で美貌の完璧超人に近いですが、内面はとても人間臭い男でもあります。


ミハイルの内面にも迫り

ポリーナもますます暴れるので

次回もまたよろしくお願いします。

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