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女神の護符  作者: のはな
第三章 温泉街編
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温泉街編10.イーゴリの大罪 ー愛してはならぬ女

温泉の翌朝、イーゴリの視点です。


短いですが、どうしてもここで挟みたかった場面。



見知らぬ宿の天井を見つめ、イーゴリは激しい頭痛と恐ろしい倦怠感で体がしばらく動かなかった。


何度同じ夢を見たか分からない。


しかし、今見た夢はあまりに生々しく、つい今しがた経験したものと結びついていた。




(…酒の飲み過ぎ…か)


心臓が爆発しそうなくらいに高鳴り、一度天井が視界の中で歪む。


かすかに震える手で、そのまま顔を覆った。


闇の中で、見た夢の声が何度もこだましている。それは、自分の声だった。



『好きだ…ヴェーラ。抱きたい…』



声はなおも言った。



『俺のものに…なれ』



酒にやられたにしても、恐ろしく愚かな言葉だった。


しばらくしてようやく身体を起こすと、汗で寝衣が張りついていた。


湯の熱気とは違う、内側から焼けるような熱。

頭の奥で、まだあの夢の感触が残っている。


ヴェーラの肌。声。息づかい。



そのどれもが、自分の記憶と夢の区別を曖昧にしていた。


一人洗面台へ行き、冷たい水で顔をいじめるように激しく洗った。


頭痛のせいで吐き気すら催し、一瞬咳き込む。

割れるような痛みを抱える頭で、鏡に映った自分を見た。


いつぞやは、窓ガラスに写った自分を見たが、あの時はまだ己を律して睨む余裕があった。


こんな事は単なる肉欲に過ぎないと、ヴェーラへの気持ちを完全におおい隠す気概があった。


だが……



(…汚らしい奴め。お前なんかが、夢の中でヴェーラを抱いてもいいと思うな)



虚ろな目。青白く生気を失った顔色の男が、こちらを見ている。


首から下げた護符は、温泉でどす黒く変色していた。



そう


心に嘘がつけず、潜在意識が解放された夢の中でしか、好きにできない。


ヴェーラが欲しいと夢の中でしか叫べない。

抱けない。


そんな、悲しく汚らしい…哀れな男の顔だ。


しかし、そんな事はイーゴリにとってどうでも良いことだった。


どんなに痛めつけてられも、ヴェーラを思うことは許されないことなのだ。


この男は、大罪を犯している。



三年前のあの時…



イーゴリの脳裏に焼き付く、一つの情景を、決して拭い去ることなどできなかった。



ーーー血を滴らせた剣を震えた手で保ち、イーゴリは横たわる男を荒い息の中見つめた。


溢れ出る血が止まらず、段々と大地に広がり伸びていく。


血を吸った大地と、男の腕輪の女神の護符が紅く染まっている。


見開いた目はすでに魂を宿さず、イーゴリを射抜いたまま止まっていた。



第七騎士団の偉大なる騎士団長の遺骸に、イーゴリはあの時からずっと見つめられている。



イーゴリを救ってくれた上司。

人生の師。



ヴェーラの父親を殺した己は、決して許されない。



ヴェーラを愛することなど、許されないのだ。





ようやく


イーゴリの罪と、なぜヴェーラへの感情を殺しているのか書けました。


第二章の一話でも同じような夢をみております。

が、特に内情は語りませんでした。


かなり長いこと心を明かしてくれないひねくれた主人公ですが、今後もよろしくお願いします…。


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