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女神の護符  作者: のはな
第三章 温泉街編
37/84

温泉街編9.イーゴリの嫉妬と葛藤

修羅場の展開ですが

楽しく描けました(笑)


割とこの展開は早く考えていたのですが。

ていねいに書いていたら温泉に入ってるだけでここまでの長さに。



混浴の脱衣場に、見覚えのある小さな書記官の制服と、銀の女神の護符のネックレスが置いてあった。


騒がしい数名の部下は、それにまだ気づいていない。


嫌な、予感がする。


イーゴリは瞬時に、それがヴェーラの入浴と察し行動にでる。


ただ広い露天風呂に人の気配は無いが、湯の中へ入ると微かに岩陰から声が漏れ聞こえてくる。


(…逃がしてやるか。どうせ間違えたんだろう)


あらかじめ持ってきた大きめのタオルを肩に担ぎ、ヴェーラの身体を隠すことだけを考えていた。


酒は飲んでいたが、脱衣場で服を見つけてからはひどく冷静で動揺などもない。



無い…はずだった。


湯の表面を裂くように歩く。


湯気の奥、月の光がひと筋。

その下で――ヴェーラの白い肩が、岩に押しつけられていた。


彼女の前には、若い男。

ケンジが両腕で逃げ道を塞ぎ、覆いかぶさるようにしている。

湯の中で、二人の身体がほとんど触れ合っていた。


一瞬、何が起きているのか理解できなかった。


指が、ヴェーラの頬をなぞる。

濡れた髪がその白い肌に張りつき、息が乱れている。


(……触れている? あいつが?)


胸の奥で何かが弾けた。


理性が、音を立てて割れる感覚。

その姿は、救いを求めているようで――同時に、欲望の絵そのものだった。


あの頬。あの唇。

自分ですら、触れたことのない場所。


湯気の向こうで、ケンジの顔がヴェーラの唇へと近づく。


ほんの数センチ。


その距離を見ているだけで、視界が赤く染まった。


「……ケンジ」


声は、思っていたより低く、冷たかった。


その名を呼んだ瞬間、身体はもう動いていた。

腕が、若い男の後頭部と首を掴む。


湯が爆ぜ、月の光が千切れる。


泡と怒号の中、己の手が何をしているのかも分からない。


ヴェーラの悲鳴が遠くで割れ、湯の中へ沈んでいく音がした。


頭の中では、ただ一つの声が反響していた。


(誰の許しで、触れた)




お湯にケンジが無理やり沈められ、溺れていた。

ヴェーラが慌てて駆け寄って庇う。


「やめて、イーゴリ!ケンジさんは…私を守ってくれただけ!」



イーゴリが一瞬黙る。


そして――ニヤリとも怒りともつかない笑みでヴェーラを見下ろす。


薄い頼りない小さなタオルだけを持ち、裸体をさらすヴェーラ。


その身体は…イーゴリはもちろん、ケンジですら比べようもないほど華奢で細く、柔らかな肌が濡れて光って見える。


始めて見るヴェーラの裸に、脳が沸騰した。怒りにも似た、熱い衝動が走る。


ケンジは一体どれほどの時間、この体を見ていた。


いや、いつから触れた?


守ると言ってなぜ、襲おうとしていたのだ。



「…守った?」


低く呟いて、手を伸ばしてヴェーラの手首をつかむ。


ケンジが咳き込みながら浮上したが、そのままにした。


イーゴリは乱暴にはしなかった。

しかし、強く岩壁にヴェーラを押しつけた。


湯気の中で、イーゴリの髪から滴る雫が肩に落ちる。

その目に獣のような荒々しい息遣いがあった。


「おい…やられてぇのか?あ?」


ヴェーラは耳元で囁く声の熱さに、呼吸が止まる。

吐息が耳を触り、例えようの無いゾクリとした者が背中を這った。


びくともしない腕の力に震え、イーゴリの怒りに満ちた顔がすぐ目の前にある。


体をかがめ、ヴェーラを押さえ込む男。

ほとんど力は込めていなかった。


だが…


「お前なんて、簡単に押さえられんだよ。…ふざけんな」


ケンジと同じくらいの距離で、ヴェーラの唇が目の前にある。


そう言いながらも、目が逸らせない。


怒っているようで、震えてるのはどちらなのか分からない。


ヴェーラの胸がイーゴリの胸に当たる距離。

彼女の唇がわずかに開いた。



けれど――

イーゴリは一瞬で顔を逸らして、


「……着ろ。もう出る」


とだけ言って離れる。


持ってきた広いタオルをヴェーラの頭から荒々しくかぶせた。


これ以上、触れない代わりに。




それは、実に深く長い沈黙であった。


湯冷めし兼ねないほどの脱衣所の気温差。

いや、イーゴリから放たれる殺気の渦は恐ろしいほどの冷気。



「…何か言い残すのことはあるか?婦女暴行野郎」


「あ…ありません。めちゃくちゃ誤解ですけど」


ケンジは、全裸のまま正座していた。

頭から湯が滴り、まるで罰を受ける修行僧のようだ。


イーゴリは腕を組んで仁王立ち。

眉間に深い皺。


前置きに「ヴェーラの保護者として見逃せねぇな」と言われた。


保護者というような年齢差とは思えない。


しかし、ケンジは半年間共に働く中、常に2人の関係についてはそのように説明されてきた。


突っ込めず、青い顔のままうなだれる。


「商売女と素人女とやるのは、色々倫理的に違うからな……? あ?」


「……あ、あの……俺、やってません。………やる前に沈められたんで……」



しかも、キスすらしていない。

飛躍していく罪状になんとか訂正を試みたが…


激しく舌打ちされて睨まれた。


「黙れ。お前が言うとやったみてぇに聞こえるんだよ」


「理不尽ぃぃぃ!!」



イーゴリはタオルを肩にかけ、にっこり笑ってしゃがみ込む。

そのまま顔をのぞき込み、絡む。


「なぁ、ケンジ。 あ? なんだ? 商売女で童貞は卒業したくねぇのに、ヴェーラとはやりてぇのか?」


「ち、ちがいます!!!」


後ろで青ざめてみまもるヴェーラの手前、必死に否定するしかなかった。


このままでは、襲っていたという事実に変えられてしまう。



「違う?へぇ〜、どういう了見だ、そりゃ? 俺、頭悪いからさ、教えてくれよ?」


ニコニコしながら、ケンジの顔の横に手をついて覗き込む。


(頭悪い… って)


ヴェーラは、イーゴリのいじわるに震えた。


イーゴリは、13歳で国立大に飛び級して入学しようとした過去がある。


もちろんケンジはそれを知らないが、普段から頭の回転の速いイーゴリをみているため、皮肉は通じているようだ。


ケンジはわかりやすく赤面し、イーゴリの追求を受けながらもヴェーラの反応を気にした。


ほぼ、好きだと告白したようなものであるため、落ち着かない。



(…ヴェーラさん。俺の気持ち…わかってるよな?さすがに)



しかし、その視線をイーゴリは笑顔で遮った。



「ん? 大学飛び級で2年で卒業した“すげぇ頭脳”なんだろ? 俺にも分かるようにさぁ〜?」


「めちゃくちゃ怖い怖い怖い!!笑顔が怖い!!!」



ヴェーラの反応は分からないが、笑顔で刺殺されかねないイーゴリに悲鳴をあげた。

と、その時だった。



オレグがそこに何も知らず、混浴とワクワクして脱衣所に乱入した。


そして、異常な空間に固まる。


「…何してるんですか?」


正座してふるえるケンジ。

腰にタオル巻いたまま仁王立ちでほほえむ悪魔みたいな団長。

そして浴衣に着替えて青ざめた顔でみまもるヴェーラ。


恐ろしい三角関係はジゴクの縮図であり、混浴に心をときめかせていたオレグは血の気が引く思いがした。


笑顔がやけに怖い団長は言った。


「おう…ちょっとな。天才様にご教授願ってるところなんだよ…?いろいろとなぁ?」


「……団長、なんか着替えたら…」


「うるせぇ。このまま裸で睨んでたほうが頭に入りそうな気がしてんだよ。黙れ、オレグ」


「………めっちゃくちゃキレてますね」


始めて見た烈情に感想を漏らす。

オレグは基本淡々とした無表情のまま、無言でその後もケンジを見守った。


しばらく膠着状態が続いたが、このままでは埒が明かないと思ったのはイーゴリだった。


「ヴェーラ。お前は先に部屋に帰れ」


「は…はい」


「ケンジ、オレグ、一緒に入るぞ」


逆らえないキレ具合に3人がそれぞれ従った。



長い夜は、まだ明けていなかった。


露天風呂にイーゴリが気まずい部下2人を先に入れ、温まらせている間に身体と髪を洗った。


イーゴリが無言で、水を何度か頭からかぶって溜息をついている。


(…っやばい。なんとか怒りを鎮めようとはしてくれているけど…)



このまま私刑執行で半殺しか、最悪懲戒免職だろうか?

頭のいいイーゴリが私的なリンチより、社会的制裁を行う可能性は充分にあった。


「…事故…いや、確かに…オレが悪いかもしれない…けど!!」

「ケンジさん…」


半泣きのケンジが頭を抱える中、オレグが冷静に「聞こえてます?」と指で肩をつつく。


無垢な少年騎士の目は、3人の間になにがあったのかおおよその予想はついていると語る。


少し同情するような感じで、ケンジに頷いた。



「オレグ……さよなら、かもしれない」

「……よくわからないですけど。あの、恋愛は自由ですよ?」


鋼のメンタルできっぱり言い切られた。


のそのそとこちらに熊のようにやってくるイーゴリを背景に、なおも語る。


「俺にはイーゴリ様と張り合うの無理ですけど」

「い、いや…張り合うとかそういうことでは…!」



「ーーーケンジ」



湯の中へ入ってきたイーゴリの声は、恐ろしいほどに低かった。


湯の中に押し込まれた恐怖の出来事もあり、つい身構える。


青ざめたケンジをよそに、イーゴリので顔は先ほどとは打って変わり穏やかさを取り戻していた。


堂々とした余裕のある雰囲気に、大きな身体もゆったりと岩肌に背中を預け、腕をくむ。


そして、温泉の湯を顔にかけ、イーゴリが淡々と言った。



「ヴェーラが好きか?」



直球にオレグとイーゴリに挟まれながら、ケンジは何かを吹き出しそうになった。


改めてて聞かれると、すぐにヴェーラの凛としてうつくしい横顔と、先ほどの無防備な裸の姿が思い出される。


推し黙って顔をわかりやすく赤くするケンジ。


それをイーゴリは横目で確認したが、目が合うと気まずそうにケンジは視線を外す。


「怒らねぇよ。…ウソついたら別だがな」


睨むでもなく、イーゴリはそのままぬれた髪をかきあげて聞いてくる。


「え?三角関係ですか?」


空気も読まずにオレグは二人に問いかけた。


「おい。それだと俺もヴェーラとやりたいみてぇだな…殺すぞ」


「殺されたくはないので、すみません」


殺気を放たれ、オレグは前回撤回と手を挙げて降参した。



(まだ…完全に、怒りがなくなったわけじゃないのか…)


ケンジはオレグすら白旗を上げさせるイーゴリの迫力に、胃が痛んだ。


喉元にナイフでも突きつけられて「正直に言え」と言われているようなものだった。


異性に対して、好意を持ち…その感情が抑えられなくなったのは、ケンジにとっても初めての経験だった。


恋というものを知らなかったわけではない。


しかし、どの恋も幼いものだった。


ヴェーラに対して湧き出る、男女間の深い交流まで行いたいと思うものではなかった。



(ああ…恥ずかしいな。でも、もう無理なんだろうな…ヴェーラさんのこと何とも思わないなんて言えない)



冷静ではいられないほど、彼女が可愛いと思う。触れたいと思う。



「…好きです」



恥ずかしさより、認めたほうが楽になれる気がして言葉を落とした。


イーゴリの問いに対して、ケンジは真っ向から答えた。



「ヴェーラさんが好きです。本気で…」



彼女の何処か寂しそうな、あの淡く青い瞳を初めて見たときから


どうしようもなく惹かれてしまっていた。


「……そうか。」


湯面に、小さな波紋が広がるだけだった。


イーゴリはしばらく黙って外を見つめ、──視線の先には遠い記憶があるように見えた。


「ヴェーラのことは、あいつが十一のガキの頃から知ってる。

…俺にとっては、亡くなった大切な人の忘れ形見みたいなもんだ。」


言葉は淡く、しかし重かった。


胸の奥で、昔の誓いと今の義務が固く結びついているのが伝わる。



「そのへんの安っぽい女みてぇに扱ったら許さねぇ。分かった上で、手を出せ。」



そう言い放つと、イーゴリはゆっくりと背を向け、湯けむりの向こうに姿を消した。


誰もすぐにはその沈黙を破れなかった。





イーゴリはその後、仮眠をとった中で夢を見た。


イーゴリは気づかない。

これは夢だと。


湯けむりの中、ケンジの腕の中にいたヴェーラを奪い取る。


彼女の驚いた瞳が自分を映した瞬間、イーゴリはその細い身体を抱きすくめ、唇を奪った。


深く、激しく。


舌を絡めると、ヴェーラは一瞬身をこわばらせたが、やがて応えるように唇を開いた。


湯の熱と彼女の体温が混ざり合い、理性が溶けていく。


「ん…っ」


甘い声が漏れた。


イーゴリはその音にさらに貪欲になり、彼女の口内を貪った。


湯の中で脳が痺れ、指先が勝手に動く。

濡れた髪を撫で、肩に手を回し、肌の感触を確かめる。


(気持ちいい…もっと、もっとだ)


首筋に唇を移し、吸いつくように何度もキスを重ねる。彼女の名を呼ぶたび、胸の奥が焼けるように疼いた。


「ヴェーラ…ヴェーラ…」


この身体が欲しい。

全部、自分のものにしたい。


ケンジなんかに渡すものか。


「好きだ…ヴェーラ。抱きたい…」


抱きしめたまま、叫んだ。



「俺のものに…なれ」



その瞬間、目が覚めた。





次回また色々動く予定です。


余談ですが

イーゴリは同じような夢の内容を何度も見ていて

第二章の一話でもほぼ同じような内容をみている描写があります。

良ければまた読んでみてください。


よろしくお願いします。

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