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女神の護符  作者: のはな
第三章 温泉街編
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温泉街編2. 酒池肉林!!酒の湯で溺れろ!?

タイトルのとおりですが(笑)


ミハイルの人間性も載せております。お楽しみください。

ーーー生まれは、王宮ではない。


王太子ミハイルが現王の養子として迎えられたのは、10の時であった。


彼は北の山岳地に生まれた。

名ばかりの王族として、没落した一族の末裔だった。


かつては壮麗を誇った館も、今や屋根は崩れ、壁にはひびが入り、

広すぎる廊下に風ばかりが吹き抜けていた。


没落の理由は多くあった。


だが最も大きな原因は――父の浪費と愚かさだった。


父は美しいものを愛した。


宝石、絵画、花、そして……妻。


ミハイルの母は美しかった。


かつて国王の寵姫として後宮に上がり、

銀糸のような金髪と、雪のように白い肌を持つ女だった。


その声は小鳥のさえずりのようにかすかで、

微笑むだけで人を黙らせるほどの静かな力があった。


――そんな母に似た息子を、父は差し出した。


王は老い、男児を持たぬまま二十年を過ごしていた。

王妃も側妃も娘ばかり。

その中で、少年の姿を見た老王の目が細められる。


『……似ておる。そなたと、同じ瞳の色だ』


湿った手が、幼いミハイルの頬を撫でた。

吐息が生温く、息を詰めても動けなかった。


『本当に、よいのか? 一人息子であろう?』


問いかける王に、父は笑った。

衣のほつれを必死に直し、

胸元に残り少ない宝石を飾って見栄を張り、

かろうじて“王族の体面”を繕いながら、笑っていた。


『ええ……!ええ! 陛下に差し上げます! それが陛下のお望みならば……!』


母のドレスの裾を、ミハイルは小さな手で掴んでいた。

けれど、その手を母はそっと振りほどいた。

顔には、涙も怒りもない。

ただ、無表情のまま――微笑んでいた。


父は続けた。


『ミハイルは差し上げます。その代わり……我々を――』



――“私たちを…救ってください”。





『はじめまして。おにいさま』



王宮へ連れてこられたミハイルの前に、年の離れた血のつながらない妹が無垢な瞳で挨拶をした。


まだ3つにもなっていなかったが、仰々しくドレスに身を包みちょこんと腰を下げてお辞儀をする。


それが、妹のポリーナだった。


ポリーナとミハイルの髪色は不思議なほど似ていた。

豪華な金髪で、同じような波打つくせ毛。光に当たると美しく煌めく。


血の繋がりはないはずだった。

しかし、髪がよく似ていたせいで、ミハイルの生い立ちを知らぬ者からはよく似た兄妹とよく言われた。


ポリーナは末子ということもあり、特に父王には愛されて育てられていた。


国王によく甘やかされて膝の上で抱かれ、ミハイルには絶対にしない頬ずりをされる。


楽しそうに笑う親子を尻目に、ミハイルへの教育は苛烈であった。


日によっては何十時間も家庭教師に帝王学を叩き込まれ、学友もいない。


呑気にのびのびと外で遊ぶポリーナに対し、教育方針とのあまりの違い。


ミハイルは己の運命を嘆いて一人で泣き、部屋から出ていきたくない朝もあった。



子供の頃の話だ。



しかし、そういう時にかぎってポリーナが来る。



何に泣いているのかもわからない。

母が恋しいのか、ここにいることすべてが呪いのように思えているのか。


暗い闇の中で答えもなく泣いていると、幼い子供が無邪気に寄ってきて慰めてくる。


時には歌を歌い、時には頭をなでてくる。



『お兄さま…またないてるの?どこか痛いの?』


涙を拭かず顔を上げると幼い妹の手が、子供特有の温かな体温のまま涙を拭う。



『泣かないの。泣かない…』



何もわかっていない馬鹿な妹に慰められているにも関わらず、そうされるといつも不思議と涙は止まった。



ポリーナのことはちっとも愛していない。



それは、今も。



今も…愛してなどいない。



ちっとも…。





むせ返るような硫黄の匂いと、美酒の香りが混ざり合う。


通された巨大な宴会会場は、東洋式である。


敷き詰められた畳に、台に乗せられた華やかな和食の御膳。


「騎士団長様ぁー!」


選りすぐりの美女集団が外に備え付けの露天ぶろから、天女のごとく半裸で手招きをしてほほ笑んだ。


ケンジは恐ろしいほどの極楽浄土の光景に赤面し、目の前で仰け反ったイーゴリの雄たけびを聞いた。



「だ…団ちょ…」


「キタキタキタキタキタキタキタキターーーーーーっこの世の極楽じゃぁぁぁぁぁあーーーーーーっ!!」


歓喜の悲鳴は引き連れてきた他の騎士たちを巻き込み、地響きとなって爆発した。


漢共の声は破裂音となり、温泉へ飛び込む。酒を煽る。そして、女を抱き寄せて食を貪った。



(ひ…ひぃぃぃーーーーー!!ほぼ、酒池肉林を地で行く感じかーーーー!?)



「食えっ飲めっ歌えっ踊れぇぇーー!!」


着ていた甲冑ごと温泉に浸かっていたイーゴリは、ずぶ濡れになって酒を杯になみなみとつがせ、部下達をあおりだした。

そして、戦陣を切って強い酒を一気に大量に飲み干すと、騎士達が大歓声をあげた。


「っちょ・・・・何やってんですか!?」

「うるっせええ!!」


酒の量が尋常ではないため慌てて止めると、大声で叫んだ団長にそのまま湯の中に沈められた。

ケンジが溺れていると、イーゴリは酔いの回った目で高笑いする。


「はっはっはっ!!俺様に逆らう奴は皆成敗してくれるわ!!ここで恥じたり、臆したら騎士の名が廃るぞ!!」


咳き込んで温泉から顔を出すと、騎士団長はわざとらしく重い甲冑を荒々しく脱いだ。


甲冑の下から、男でも見惚れる筋肉の肉体美が顔を出す。

湯に当てられた蒸気と濡れた服が身体に張り付き、イーゴリの狙っていない色気が醸し出されている。


「いいかぁっ!!手加減無用で飲め!踊れ!楽しめええっ!!」


その叫びに、夜がどよめく。

地獄と極楽の境目で、イーゴリ・メドベージェフは笑っていた。


湯に浸かりながら、ケンジの周りに半裸の美女達がイーゴリに命じられるまましなだれかかる。


「ちょ・・・ちょ・・っと!?」


破裂する音楽とむせかえる酒の甘い香りに、ケンジの理性までもがぐらつく。

普段から理性的な生活を送る若い書記官にとって、初めての極楽である。


宴席でしらーっとした白けた顔のヴェーラが、ウラジミールと静かに乾杯している。


本来ならば、その横であきれているのが自分のポジションのはずだ。


「逃げんなぁぁぁぁっこらぁぁーーー!!」


顔をトマトのように真っ赤にさせる初心な反応に対し、イーゴリは笑いながら無理矢理ケンジの口に酒を注いだ。


「ケンジィィ!!ヴェーラを気にしている暇があるなら、俺の相手をしろぉぉぉ!!お望み通り、童貞を卒業させてやるからなぁぁぁぁ!!」


「は・・・はぁぁぁ!?やめろぉぉぉ!!このクズ野郎ぉぉぉ!!」


もはや敬語など使えず、酒を吹き出しイーゴリの顔にかけて抵抗した。


酒が目に染みたのか「てんめぇぇぇぇ!!」とイーゴリは再びケンジを湯に手で押し込めた。


「選べぇぇぇぇ!!このまま童貞のまま俺に沈められて死ぬのかっっどのお姉さんと体験するのか選べええええええ!!!」


「それしか無いのかぁぁぁ!!」




湯の中でもつれ合い、じゃれ合う二人を尻目に、冷静な書記官二人は座敷にいる。

そして、初めて舌鼓をする懐石料理に感動していた。


「ほう。この世にこんな繊細な料理が存在するとは」

「・・・とても美味しいです」


ヴェーラは最早イーゴリ達を見ないようにしている。


刺身も初めて食べたが、醤油をつけて食べると口の中でとろけた。


ウラジミールはわざと大騒ぎをするイーゴリの意図を理解しているかのように「よいガス抜きですな」とこぼす。


騎士団の志気を維持するためにも、団長が率先して馬鹿を演じれば周りも遠慮無く羽目を外せるというものだ。


運ばれてきた魚の肝の吸い物はよい塩加減で、酒にも合う。


料理の繊細さも分からず酒をあおり、芸者と踊りながら絡んでいる大多数の騎士達。

しかし、その中でも幾人かは大人しく料理を食べて、酒をなめるようにたしなむ者もいる。


少年騎士のオレグも本当はイーゴリの横ではしゃぎたいのか、何度か露天風呂に視線を動かしている。

しかし、ウラジミールは無言で彼を手招きした。


「残念だが。君は、まだ成長段階の身体だ。ここでジュースでも飲んで今日は大人しくしたまえ。・・・と、イーゴリ様からの言付けだ」


「・・・もう働いています」


子供扱いを最も嫌うオレグが杯を取り上げられ、オレンジジュースを注がれたことにむっと眉だけつり上げた。


「もう少し、身長が欲しいのだろう?身体をいじめると伸びるものも伸びんぞ」


やんわりと痛いところを突かれ、それもイーゴリの言付けなのだろうかと視線をイーゴリにまた移した。

イーゴリはケンジを羽交い締めし、大笑いして美女の身体に近づけて遊んでいた。


「それに、こういう席ではあえて何人かは素面にしておかんとはな。要請があっても使い道にならん」


杯を置いたウラジミールの目には、冷静な炎がともり続けている。

そして、その勘は直後に恐ろしい程当たったのだった。




「――― 第二騎士団の宴席はこちらか?」


宴席のふすま越しに冷静な声が通ったのは、宴会が始まり半刻も経ってない時だった。


仲居が開けた横開きのふすまから、一人の美男子が顔を出す。


オレグはその顔に見覚えがあった。


明るい灰色の髪は夕暮れ時となり淡い部屋の灯りに照らされ、金髪のようにも見える。


彼はまだすこし大人になれ切れていないあどけなさを顔に残していたが、その顔面はひどく整っていた。


甲冑こそ身につけていないが、第一騎士団の青い制服を身につけ立ち姿だけでも隙が無く洗練されている。


「ウラジミール様・・・お使いの方が・・・」


話を聞いた仲居がそう告げると、ウラジミールはオレグを連れてすぐに男の元へ寄った。


「君の方が詳しそうだ。名前は?」

「第一騎士団のイワンです」


こちらを見つめながら顔色ひとつ変えずに見つめる騎士について、オレグは簡単に耳打ちした。


同じ騎士団に所属しているが、第一と第二はライバル関係が継続しており、完全に打ち解けているというわけではない。

互いに腹の探り合いをする雰囲気はあった。


イワンもそれを意識しているのか、こちらへ来る二人にニコリとはするがそれは表面上の笑顔であった。


オレグは何度か合同演習で、イワンと手合わせをした経験があった。


たしか、年齢はオレグより3つ上の19歳。第一騎士団では、若年層の部類だ。


しかし、卓越した馬術と剣術の腕があり、最強の騎士と誉れ高いレオニードとは同じ階層の精鋭である。


年令が近いということもあり、2人の間には強烈なライバル意識があった。



「第一騎士団所属のイワン・レベジェフです。王太子殿下の伝令で参りました」



出された名前のあまりの大きさに、ウラジミールも思わず息をのむ。



「メドヴェージェフ団長に謁見を申し込まれております。殿下のいる宿へお越しいただきたい」







もともとはもっとバカ騒ぎをしている予定だったのですが(笑)

それはまた次回へ!


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