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女神の護符  作者: のはな
第二章
17/83

夢と現実


ヴェーラ


名前を呼んで夢中で唇を奪い

頭の中が沸騰する。


危険だとわかっている。

この夢は、抑えていた激情を焦がし、そして再燃させる。


それでも、やめられずイーゴリは華奢な彼女の身体に夢中になった。


淡い青い目が、氷のような透き通る美しさで見てくる。

他の女では味わえない最高の快感と絡まる痛み。愛情。

心に嘘がつけない。


好きだ。全部俺のものにしたい。

愛し合いたい。

溶け合って一つになり、離れられない。


縛り付けて壊してしまいたかった。



「…っ!!」


ビクリと身体がはねあがり、イーゴリの快感は身体を突き抜けた。


荒い息の中で覚醒し、けだるさが身体を包む。

目の前の見慣れた天井と本の散らばる部屋の様子に、すぐ察した。


(夢か…)


痛む身体は戦い後の熱をまだ帯びている。

身体全てが濡れたような汗で気持ち悪い。

張り付くシャツが発汗の激しさを物語っていた。


息を整えながら目を閉じ、今見ていた夢が憎たらしかった。


どうやら、模擬戦のあとに痛めつれた体が夜の間に発熱したようだった。


床に散らばる本を脚で器用に避け、部屋の机に無造作に置いてあった痛み止めを服用する。


イーゴリは窓からゆっくりと夜が明けていく朝焼けに目をやった。

窓ガラスに成長した大柄な男が映る。


女神の護符を首から下げ、ガラスごしに睨む。

すぐに見た夢を打ち消した。


あれは、肉欲が見せたもの。

動揺などしてやるものか。





「ちょ…待ってください!待って!」


情けない声を上げてケンジが床に突っ伏し、ビキビキと音を立てる脚の間に悲鳴をあげる。


イーゴリは笑顔でオレグに追加命令した。


「オレグ!」

「はい」


忠犬オレグは押さえつけた力を緩ませず、淡々とケンジの悲鳴を受け流していた。

小さい体にもかかわらずケンジの体は完全に掌握され、身動きできない。


「とりあえず、股割りさせろ」

「っぎゃああああああああーーーー!?」


悲鳴を上げたケンジの声は執務室に響き渡り、廊下にまで届いたという。



模擬戦の激戦から早2週間が過ぎようとしていた。

季節は夏から秋に変わり始め、過酷な王国の冬の音連れに準備を意識する者も多い。

北の王国の秋はとても短かった。


完全に開脚からの股割りという地獄を味わい、ケンジは執務室の床を涙で濡らしている。


「なんだぁ?お前。つぶれたカエルみたいなポーズで」

「ヨガのポーズみたいに言わないでくださいっっ!!」


昼休みに柔軟の必要性について雑談をしていたら、この仕打ちである。


騎士団長イーゴリ・メドベージェフと共に働いて、もう三ヶ月近く。ケンジも遠慮がなくなってきた。

隣で淡々と柔軟の手本を示すのは、忠犬のような弟子騎士のオレグ。まだ十六歳だが、第二騎士団最強の戦闘力を誇る怪物である。


(ああ……股が痛い。なんか変な音した。やばい、裂けけたかもしれない。労災降りるのか?これ)


涙目でなんとか起き上がったケンジは、声を荒げた。

「なんなんですか…!いきなり押さえつけて脚を開かせて!本当にもう…!」


イーゴリは眉をわざと下げ、次の瞬間ハッと顔を変える。


「え……!?お前……すごいな。完全に下ネタ発言じゃないのか!?」

「言葉だけ切り取って変換するなっっ!!」


オロオロと芝居を打つイーゴリに、オレグが真顔で淡々と同調した。


「だいぶ大胆でしたね」

「だよなぁ?押さえつけられて脚を開かされたなんて、もはやセ――」


「淀みなく言わないでくださいっっ!!!」


ケンジは顔を真っ赤にして絶叫。セクハラ発言はもはや日常茶飯事で、この男から飛び出すのを止められない。


「まだ十代のオレグくんがいるんですよ!? あなたは団長として、もう少し相応しい言葉遣いとか!道徳心とか!騎士道精神とか!」


イーゴリは肩をすくめ、にやりと笑った。

外の木の葉が色づき、暖かな景色が広がる。

いい季節になってきた。


「そんな…たった一回俺に股開いただけで説教するなよ、ケンジ」

「股は開きましたけどっ!説教はします!!こっちを見ろっっ!!」


執務室は、今日も騎士団長の笑い声とケンジの悲鳴で満ちていた。



「失礼いたします」


イーゴリがケンジで楽しく遊んでいると、軽くノックして中へ入ってきたのはヴェーラだった。

はっはっはっ!と笑い声は響くが、イーゴリのセクハラ発言は一旦終了している。


中へ入ってきた彼女を見て、少しイーゴリの声が弾む。


「おっ、ヴェーラ。久々な感じだな!」

「…先ほど戻りました」


涼やかな声で応えるヴェーラの髪は、外から戻って来たということもあり少し乱れている。

今日は風が強く、それに煽られたのかもしれない。

ヴェーラの頬が紅潮し乱れた髪に、どことなく色香をかんじてしまった。


ケンジも3日ぶりに会えたヴェーラに、軽く会釈する。見慣れているはずの可愛い顔に、少し見惚れた。


(…相変わらず甘いなぁ)


保護者の様な目で迎え入れる団長に対して、彼女は伏し目がちでいる。

やはり、元気が無い。


もしかして…ーー


「ヴェーラさん…疲れてます?」


不意に聞いてしまう。

振り返ったヴェーラと正面のイーゴリがきょとんとして見つめてきた。

ヴェーラの目は泳ぎ、なぜか後ろのイーゴリの反応を気にした様子でいる。


「なぜですか?」


諌める声には余裕が無く、ふだんは感じない苛立ちを孕んでいた。

怒らせたと感じ「あ、いや…」と何とか言葉で説明しようとしたが…


(…ひ、久々ということもあって、顔を見ると凄く可愛い!いや、そういうことではなくてなんというか、あれ?なんだって睨まれてたんだっけ!?)


事故で水の外へ出てしまった金魚のように口をパクパク開けて慌てた。


そのまま何も言えずにいると、こう切り替えされた。


「私には上級書記官は、無理ということでしょうか?ーーー失礼します」






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