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【新人賞感謝です】国で一番かっこいい騎士の伴侶に選ばれてしまいました  作者:   *  ゆるゆ
セィムが窓口にいない日

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ほんとうは




『16年も、新人が担当する窓口業務しか、できない』


『才覚がない』


『仕事ができない』


『落ちこぼれ』



 ……皆が、そう思っていると思っていた。



『国務院で、最も仕事ができない』


 16年も窓口業務しかできない自分を、皆がそう思っていると、思い決めていた。



 他の誰でもない。


 ──……自分が、自分を、おとしめていたんだ。




 シァルが国務院の叫喚を見せてくれなかったら、ロイや職員だけじゃない、宰相閣下が『ありがとう』『たすかるよ』ねぎらってくれていたこと、評価してくれていたことを思いだしても、窓口手当をもらっていることに気づいても、それでも


『自分が、誰かの役に、立っている』信じることは、できなかっただろう。



『16年、同じ窓口業務をするしかなかった』事実が、自信も、感謝も、ねぎらいも、すべてを、押し潰したから。




「…………シァル……」


 声は、ふるえた。


 シァルのたくましい腕が、セィムを後ろから、つつみこむように抱きしめてくれる。



「セィムは、言っても信じないと思ったから。

 見れば、わかるでしょう?」


 やさしい声で、笑ってくれる。




「…………俺……」


 涙声を、シァルが、抱きしめてくれる。



「うん」


「……仕事が、できない、と、思って……」


 ふるえる声を、ふるえる身体を、ぜんぶ受けとめるように、あたたかな腕で、抱きしめてくれる。



「うん」


「……皆、いつも、ありがとうって、言ってくれたのに……」


 涙が、こぼれた。



「うん」


 シァルのぬくもりが、沁みてくる。


 皆の『ありがとう』が、よみがえる。



 ……国務院に、自分の居場所は、あったのかもしれない。


 自分は、誰かの役に、立てていたのかもしれない。



 誰にでもできる窓口業務は、絶対に、誰かがやらなくてはならない。



 誰にでもできる仕事でも、16年、ずっと自分は求められていたのかもしれない。




 世界が変わるような衝撃が、セィムを貫いた。


 いつだって、セィムの世界を変えてくれるのは、シァルだ。



「もうごあいさつも済んだし、俺、休暇を終わりにする。

 明日から窓口業務に戻るよ、シァル」


 求められているなら、応えたい。


 やる気に満ち満ちて伝えたセィムに、とろけそうにやさしく、シァルは微笑んだ。



「だめ」



「…………え……?」


 顔と言葉が、あっていないよ、シァル……?



「皆、セィムに感謝が足りなかった。

 だから、おしおき」


 国でいちばんの輝かしいかんばせで、シァルが微笑む。



「セィムのいない国務院は1日でもこんなだけど、1週間だと屍になるでしょう。

 セィムのありがたみを、骨の髄まで噛みしめるといい」


 救国の英傑の瞳が、冴え凍る。



「俺の最愛のセィムの自信を、ここまで叩き潰した罰にしては、かわいいものだろう」


 声は、氷だ。



 ──……ああ、そうだ、シァルは連合王国軍を灰滅させた。


 たったひとりで。



 その狂気のような強さも、冷徹も、シァルで。


 知るたびに、愛しさが、あふれてく。



「シァル、だいすき」


 腕をまわして抱きしめたら、シァルの空の瞳が、まるくなる。



「…………え……あの……セィムは、俺のこと……こわく、ない、の……?」


 いつも涼やかで、自信に満ちたシァルの声が、ふるえてる。



 シァルが、セィムのぜんぶを受けいれるように、抱きしめてくれたように。


 頼りなげに揺れるシァルの瞳を、つつみこむように、抱きしめる。




「どんなシァルも、あいしてる」



 誓うように


 ちゅ


 口づけて、ふるえる身体を抱きしめる。




 扉の向こうで、国務院の大混乱は続いているみたいだけど


「帰って来てぇえぇぇ──! セィムぅうう──!」


 ロイの泣き声が聞こえた気がしたけど


「皆、ごめん。……今まで、ありがとう」


 叫喚を背に、セィムはシァルを抱きしめる。




「伴侶旅行しよう、シァル。

 めいっぱい、かわいがってあげる」


 ちいさな耳に、吐息をそそぐように、ささやいた。



 ぽん! 愛らしい音をたてるように真っ赤になったシァルが、ぎゅうぎゅう抱きついてくれる。


 こくりとうなずくシァルの耳が、紅い。






『伴侶になってほしい』



 きみが言ってくれたから、世界は変わったと思ってた。


 きみが国務院を見せてくれたから、世界はまた、ひっくり返った。




 でもきっと、ほんとうは


 自分が世界を見る目を変えられたら


 今、この瞬間から、世界は、変わってゆく。




 いつだって、自分のきもちひとつで


 おんなじ仕事が、とびきり不幸になったり、とびきりしあわせになったりするように


 おんなじ世界が、絶望の地獄にも、さいわいの楽園にもなるように



 いつだって、自分の気もちで、すべてが、変わってゆく。



 


 きみが、教えてくれたんだ。



「……ありがとう、シァル」


 抱きしめたら、涙がこぼれる。




 きみが、愛を、教えてくれた。


 

 きみがいないと、終わる世界を。




「あいしてる、シァル」


 あふれる愛と、くちづけを。





 きみが、見つけてくれたから


 きみが、愛をくれたから




 生涯かけて、愛をかえす



 ……ああ、ちがうな



「死んでも俺は、シァルだけを、あいしてる」





 国で一番かっこいい騎士の伴侶に選ばれて、世界でいちばんしあわせになりました。




 かわいくて、かわいくて、たまらない伴侶を


 めいっぱい、かわいがって



 ずっと、ずっと、愛してゆくのです。









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