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【新人賞感謝です】国で一番かっこいい騎士の伴侶に選ばれてしまいました  作者:   *  ゆるゆ
セィムが窓口にいない日

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17/22

ごめんね、セィム




 国務院の業務体制が心配になってきたロイを後ろに、奮闘を続けていた新人が折れたのは、一刻後だった。


「だから税金を払う金がないって言ってんだろォオオ──! 耳ついてんのか、ごるァア──!」


 広やかな白亜の国務院を揺るがすような叫び声が響き渡る。


 納税を司る国務院あるあるの『税金が払えなくてキレる来院者』だ。


 めちゃくちゃ来る。

 毎日来る。



 セィムは毎日毎日、穏やかな笑顔で応対し、事情を聴き、減免が行えるときは申請手続きまでしてくれる。


 が


「ごるぁあアァア──!」


 は新人には荷が重すぎたらしい。



「ぼ、僕もう無理です──!」


 泣いてる。


 新人さんなのに、いきなり叫ばれたら泣いちゃうよね。わかる。ごめんよ。



「ほら、代わってやれ」


 ロイが指示すると、とっても厭々そうに、熟練さんが出てきてくれた。



「税金は前年の稼ぎに応じてかけられるものですので……」


 セィムみたいに穏やかに話し始めたけれど、お金のないらしい来院者の激おこは止まらない。



「金ないっつってんだろおがァアァ──!」


「……っ!」


 熟練さん、ぷるぷるしてる。



「……鼓膜痛い……無理……」


 泣いてる。



「代わってやれ」


 仕方なく課長を指名したロイに、課長が仰け反った。



「え、お、おおお俺ですか──!」


 窓口に座る前から泣いてる。



「あ、ああああの、どうか、落ちついて、お話を──」


 身体が引けてるぞ、がんばれ、課長!

 今こそ、課長の力を発揮するときだ!

 役職手当の真価を見せつけるんだ!



「金がないのに金払えって、お前ら悪徳業者かよ! 財産を差し押さえるって何だよ、ふっざけんなァアァ──!」


 拳まで出てきた。



「ムリ──!」


 泣いて戻ってきた課長のうえの役職は、ロイしかいない。


 ため息をついたロイは、仕方なく窓口に座った。



 泣くかと思った。



「ごるぁアァアア──!」


 正面から受ける圧は、隣で見ているのと、全然ちがう。


 冷や汗が出て、指がふるえる。


 暴力を振るわれたときの電撃魔道具に、手がのびた。



 セィムがしていたことを、思いだす。


 最初は、傾聴だ。


 こちらの言い分『前年の稼ぎに応じて税金がかけられているので、払ってもらわないと困る』を伝えるんじゃなく『今、どういう状況で、なぜお金がないのか』をきちんと聞く。


 たいていは借金して商品を仕入れ、売り上げても、返済に消えるので、手元に資金がない人が多い。

 そこに、売り上げに応じて税金をかけられたら『金がないんだよ、ごるぁアァ!』になる。わかる。


 セィムからもたびたび陳情されているし、これは宰相閣下に上申案件だ。


「宰相閣下に陳情します」


 伝えると


「おぉ? おぉおお、さ、宰相に!」


 ちょっと感動してくれたらしい。うれしい。


 陳情を丸のみすると、実際と違うことがままあるので、ほんとにお金がないかの調査をしなければならない旨を伝えると、理解して帰ってくれた。


 激おこ来院者の背を見送っていたら、皆から拍手が起きた。



「やりましたね、ロイ部長!」


「さすがロイ部長!」


「さすが役職手当!」


 だよな。最後は自分が出るしかない。


 わかっている。


 でもセィムは毎日毎日、こんなのの相手を、あの鉄壁の穏やかな微笑みでしてくれてたんだと思うと、涙が出た。



「え、ロイ部長、泣いてる……!」


「国務院って、ほら、国の精鋭ばっかだろ。皆、打たれ弱いんだよ。打たれたことないから!」


「ロイ部長って、一回も打たれることなく部長でしょ」


「そりゃ泣くよな」



『ちっがぁあぁあうぅううう──!』


 叫びたいのを我慢した。


 来院者が他にもいっぱいいるからな。




 ……ああ、はやく帰ってきて、セィム──!


 思ったけれど。



 それは、この辛い仕事を、セィムひとりにすべて押しつけて、自分たちが楽をしたいだけなんじゃ……



 ──自覚した。


 今までセィムひとりにすべてを押しつけてきたことに、申しわけなさに、涙がにじむ。



「ロイ部長、泣いてる──!」


「そっとしといてやれって、かわいそうだろ」



「だから、ちがう──!」


 思わず叫んだら、セィムを思ってたまっていた涙が、こぼれた。



「うわ、泣いてる……!」


「いつも決めすぎ部長、激おこ来院者に涙か」


「意外にかわいーじゃん」


「ぷ」


 そこ、笑うな──!





 こうして、窓口にセィムがいない日がはじまった。


 1週間も続くとか、ほんとに泣く。











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