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【新人賞感謝です】国で一番かっこいい騎士の伴侶に選ばれてしまいました  作者:   *  ゆるゆ
セィムが窓口にいない日

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16/22

セィムのいない朝




 窓口に、セィムがいない。


 カィザ選王国、国務院は、朝から緊迫に包まれた。



「どうするんですか、ロイ部長」


 聞かれたロイは吐息する。



「今までもセィムが急病や有給休暇でいないときはあっただろう。皆で頑張ってくれ」


 健闘を祈る。


 しゃっと手をあげて、階上の自席へと向かおうとするロイに、部下がすがった。



「1週間ですよ!? 今までは『セィムさん、明日には出勤してくれると思います』で乗り切ってきたんです!」


「『1週間後に、また来てね♡』って国務院、業務放棄だと思われませんか!?」


 腕をつかまれたロイは、陳情に口を開けそうになった。



 セィムがいないからって、1週間も仕事しない気かよ!



「……え、いやだから、皆で窓口業務をやればいいんじゃ?」


 ごくごくまっとうな、正当な突っこみだったと思うのに、部下たちは悲鳴をあげた。



「無理です!」


「ムリィイイ──!」


 泣いてる。



「え、いや、なんで? いちおう新人さんにもやらせる仕事なんだけど」


 窓口業務というのは、来院者に用件を聞いて、適切な部署に取り次ぐ係だ。

 新人さんにもできる。



「じゃあロイ部長、座ってみてください」


 ふんと部下に鼻を鳴らされた。



 ………………。


 ……部下に鼻を鳴らされる部長って、どうなのかな?


 ちょっと心配になったが、まあいい。



「いや、最初から部長が窓口に座ってるとか、おかしいだろう。

 最初は新人さんに座らせて。ちゃんと研修して、丁寧に教えてから配置するんだぞ」


 部長らしく指示したのに、ちょっと腹具合と顔具合がぽっちゃりしてきた部下はふくれた。


 ……いや、いい年をした男がふくれたって、可愛くも何ともないぞ。

 セィムがふくれると、ちょっとかわいいけど。



 ──……あぁ、セィム、はやく帰ってきてくれないかなあ。



 窓口を通るたびに


「おはよう、ロイ」


「ああ、ロイ、おつかれさま」


「先に帰る。またな、ロイ」


 いつもの穏やかな、やわらかな微笑みを浮かべて名を呼んでくれた。




 セィムは、ふしぎだ。


 闇をとかしたような、さらさらの短い髪も、鏡のように世界を映す闇の瞳も、四角い眼鏡をかけた瞬間、まるで凡庸の海へと突き落とされるかのように色を失くす。


 艶と色をなくしたセィムは、凪いだ海のように穏やかだ。


 わめき散らす者が来ようが、泣き叫ぶ者が来ようが、セィムのやわらかな微笑みは揺るがない。



 四角い窓口の向こうでセィムが微笑んでくれたら、何もかも、だいじょうぶな気がするんだ。


 落ちこむときも、むしゃくしゃするときも、うれしいときも、セィムの微笑みは変わらない。



「おつかれさま、ロイ」


 セィムが言ってくれるだけで、ほんとうに疲れが、ふうっと抜けてゆく気さえする。



 16年もの間、ずっと変わらず窓口に座ってくれるセィムは、国務院で務める者すべての精神安定剤であり、癒しだった。


 それは国務院にやってくる人たちにも、同じだったらしい。



「……え、セィムちゃんは?」


「どうしたの、病気!?」


 国務院に入ったばかりで何も知らない新人が、窓口に座らせられることになったらしいが、『本日のご用件をうかがいます』さえ言わせてもらえない事態に、戸惑ってる。



『皆、何しに来てるんだ、まさかセィムに逢いに来てるのか!? ここは、お堅いお役所、国務院だぞ!』


 来院者に向かって大声で叫びそうになったロイは、むぐむぐ口を閉じた。



「なんとか業務が遂行できるよう、支えてやってくれ」


 ロイの指示に、部下たちがうなずく。



「まあ、新人なので」


「国務院の業務はこんなものだと思ってくれるかもしれません」


「がんばれ、新人!」


 ほんとに応援するだけだよ。



 ……だいじょぶか、国務院。











 ずっと読んでくださって、ありがとうございます!


 インスタでセィムとシァルの動画をつくりました!(笑)@siro0088

 https://www.instagram.com/siro0088/

 でもログインしないと動画が動かないみたいです……アカウント持っていない方、ごめんなさい……!

 もしよかったら楽しんでくださったら、とてもうれしいです。


 お話は、しばらくロイ部長の涙のターンです(笑)


 皆で、セィムのありがたみを噛みしめるとよいのです!(笑)



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