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【新人賞感謝です】国で一番かっこいい騎士の伴侶に選ばれてしまいました  作者:   *  ゆるゆ
 

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13/22

いとしい

 



「シァル……!」


 かわいくて、愛しくてたまらなくて、セィムはシァルを抱きしめていた。


 大きな身体が、鍛えあげられたたくましい身体が、シァルの尽力の結実が、とろけそうなほど、いとおしい。



「……きもち……」


『わるくない?』聞こうとしてしまったのだろう、あわてたように唇を引き結ぶシァルの髪をなでて、微笑んだ。



「いい子」



 ちゅ


 心配そうに揺れるシァルのまなじりに、あふれる気もちを抑えきれなくて、セィムは、そっと、くちびるを降らせた。


 ちいさな耳朶が、紅に染まる。



 はじめて、自分から口づけたことに、気づいた。


 頬が、燃える。



 ……いやじゃ、なかったかな。


 心配でのぞきこむシァルの空の瞳が、うっとり、あまく、うるんでる。




「かわいい、シァル」


 唇からこぼれた言葉に、青の瞳が見開かれた。



「…………セィム……」


 シァルの唇が、ふるえてる。



「最初から、言ってくれたらよかったのに」


 他の誰にも言えないことでも、『伴侶になってほしい』言ってくれた自分には、自分にだけは、打ち明けてほしかった。


 何も聞いていなかったから、シァルはずっと、やさしくセィムを導いて、あまやかしてくれていたから、抱きたい方なのだと思っていた。



 ……いや、違う。


 セィムはずっと、シァルに甘えていた。


 救国の英傑だから。大陸有数の強さだから。たくましいから。凛々しいから。

 勝手にシァルの性格も、性的なこのみも決めつけて、シァルのほんとうを、何も見ようとしていなかった。


 ただシァルの傍にいられることがうれしくて、とろけるように甘やかされて、与えられるさいわいを受けとるだけだった。



「……ごめんなさい。俺、シァルのこと、何も見てなかった」


 またうるんできたセィムの目に、シァルの瞳が揺れる。



「わ、別れ、たい……?」


 泣きだしそうな空の瞳を、ふるえる身体を、抱きしめる。



「それも、二度と聞かないで。

 言ったら、二度とちゅうしてあげない」


 おでこをくっつけて、ささやいた。


「……セィム……」


 すがる身体を、抱きしめる。



「与えられるばかりで、甘えてばかりで、ほんとうにごめんなさい。

 俺は全然シァルの恋人にふさわしくな──」


「そんなことない──!」


 シァルの叫びに、言葉が途切れた。



「……言えなかったんだ。

 セィムは俺に、頼りがいや、力強さや、包容力を求めてると思った。……あまやかしてほしい、抱いてほしいなんて言ったら、絶対恋人になんて、なってくれない。だからだますみたいに……俺のほうこそ、ごめん」


 首をふったセィムは、大きな身体をちいさくするシァルのつむじに口づける。


 恐れも、おびえも、自信のなさも、自分と同じなのかもしれない灰に染まった人生も、シァルの何もかもを、つつみたくて、だきしめる。



「シァルが俺の窓口に立ってくれた。『伴侶になってほしい』言ってくれた。

 夢みたいなしあわせが、はじまったんだ」


「……俺も。

 皆に微笑むセィムが、俺だけに笑ってくれるなんて、夢みたい」


 ──……あぁ、シァルはこんなにも、愛らしかったんだ。


 今までの自分は、何を見ていたんだろう。

 勝手に『救国の英傑』を創りあげて、偶像を崇拝していた。


 目の前のシァルを、ほんとうのシァルを、見ようとせずに。



 だから、シァルは、言えなかったんだ。



「ごめん、シァル……!」


 滝の涙で謝るセィムに、シァルは首をふった。



「『救国の英傑』を利用したら、セィムは引っかかってくれるかもしれないと思った。

 かっこよくセィムを甘やかして、俺を見てくれたら、俺をすきになってくれたら……セィムにだけは、言えるかもしれない、そう思って……」


 シァルの言葉が、セィムの胸に消えてゆく。



「伴侶になってほしいセィムにだけは、俺の、ほんとうを、知ってほしかった。

 それで、俺が、きらいになっても」


 ふるえる身体を、だきしめる。



「あいしてる」


 ささやいたら、シァルの瞳から、涙がこぼれた。



「だいすきだよ、かわいい、シァル」


 ちゅ


 ちゅ


 あふれる涙に、くちびるを降らせるたび、シァルの顔からおびえが、自信のなさが、消えてゆく。


 なのに逆に、たくましいシァルを支えるだけで、ぷるぷるする腕のセィムのなかには心配が生まれてきた。



「……でもシァル、俺の筋肉は家事と事務の分しかない。

 シァルを満足させてあげることが、できないかもしれない。

 抱いてほしいなら、俺よりもっと屈強でたくましい騎士とかのほうがいいんじゃ……」


 情けなく眉をさげるセィムに、シァルは首をふる。



「皆、俺より弱いんだ。

 むだな筋肉だ、と思うと、めちゃくちゃなえる」


 ………なるほど……?



「自分にないものに、あこがれるって、あるだろう?

 俺には細かい仕事、特に事務とかできないし、どんな人にも穏やかな笑顔とか絶対に無理だし」


 シァルの頬が、紅に染まる。


「……眼鏡とか、細い腰とか、長くて細い指とか、かっこよくて……セィムを見るたびに、きゅんきゅんしてた。

 こんな人に抱いてもらえたらって……俺……」


 ぎゅうぎゅう抱きついてくれるシァルに、きゅんきゅんするから──!



「あぁもう、シァル、かわいすぎる……!」


 ぎゅうぎゅう抱きしめたら、シァルの耳が朱くなる。



「……ほんと?やじゃない?」


 まだ頼りなげに揺れる瞳を、だきしめる。



「それも二度と聞いたらだめ。

 シァルは、めちゃくちゃかわいい」


 ぐりぐりちいさな頭をなでたら、くすぐったそうに、はずかしそうに、とろけるように笑ってくれる。



「……ずっと、唇に口づけてくれなかったから、やっぱり俺とは無理なんだろうと思ってた」


 ちいさな声でささやいたセィムに、目を見開いたシァルが首をふる。



「……俺、ずっとセィムに……して、ほしくて……」


 耳まで真っ赤になってうつむくシァルに、セィムの視界が涙で揺れる。



「ごめん、シァル。ほんとにごめん。

 俺、何にも聞かないで、シァルのこと決めつけた」


 シァルは首をふった。



「……俺も言えなかった、から……」


 胸に額をすりつけるように甘えるシァルを、抱きよせる。




 ほんの一瞬前までシァルと別れなくてはいけないと思いこみ、穿孔が開いただろう胃が急速に回復してゆく。



 はらわたを撃ちぬく痛みが、しあわせに変わってゆく。











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― 新着の感想 ―
はらわたを撃ちぬく痛み(笑) セィムさん、 なかなか独特な言葉のチョイスですね!(*´ω`*)
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