1話 やりこんだゲームの自キャラになっていたボクは草原にいた
本作は、TRPGの設定を生み出したウスバー先生、そしてAI(ChatGPT)とのセッションを通じて構築された世界観・登場人物・演出をもとに、筆者が独自の観点で再構成した“共創作品”です。
アイデアが浮かばない時、言葉に詰まった時、思考が迷走した時。AIの知性は、たいていは冷静に、時々かなりバグりながら、光を照らしてくれました。
それでも、この物語をどう進めるかを最終的に決めたのは筆者自身です。
ボクは気がつくと、
草原に立っていた。
四方を見渡す限りの緑の絨毯。
風は優しく、草原を撫でるように吹き抜けていく。
そこで、今の自分の身体が、現実世界の物でないことに気づいた。
――気がつくと、
ボクは、VRゲームである
MMORPG『ホーリーランド・ストーリー』で、
「能力値と装備だけは最強格」と謳われたプレイヤーキャラ――
リュカ=エルフェンになっていた。
ボクは、ゲーム時の記憶から、
ここは『ホーリーランド・ストーリー』の世界――
イルセの草原ではないか、と推測した。
試しに、ゲームの時のように念じたり、指を動かしてみると、武器やアイテムを取り出せた。
意識すると、視界には自分の今のステータスが浮かぶ。
どうやらゲームのUI機能が使えるようだ。
UI機能は、インベントリやステータスウィンドウ、
アイテム鑑定、モンスター鑑定、人物鑑定、
好感度チェック、クエストログなどの機能がある。
当然のように、ログアウトボタンは灰色になっていて、
ログアウトはできなかった。
つまり、ボクはゲーム世界の中に転生したのだ。
パッとしない人間だったので、
元の世界の未練はあまりない。
それよりも、若返り、自分が育てた最強格の美少年に生まれ変わっていて、軽く高揚しているくらいだった。
ログアウトを諦めたボクは、
かつてのゲーム世界の記憶から、エルセリオ王国の大都市「王都アーレン」に向かうため、
東の地平線へと足を向けた。
リュカ=エルフェン。
Lv.200の伝説職【ゴッドブレイド】。
――世界でただ一人だけが到達できた、
MMORPG『ホーリーランド・ストーリー』最上位の“唯一無二の伝説職”。
最強格の能力値に、神話級の装備。
この世界において、彼は既に「神話級超人」と言っていい存在だった。
草原を歩きながら、リュカは考える。
スライムや野犬などの雑魚モンスターが、勝負にもならない。
身体能力、反応速度、思考の速さ――どれを取っても、常識の枠を超えていた。
ゲーム時代と変わらぬ剣筋。
UIも使える。スキルも発動する。
全てが“完全に動く”。
――これは、もはや人間ではない。
計算、予測、判断――そのすべてが、ほとんど光速に達していた。
かつて、彼が素直に凄いな、と驚嘆していた人工知能(AI)やマシンたち。
1年間で人間が行う処理を、わずか0.3秒で終える“神話級超人”たち。
今の彼の頭の中は、それと同じ速さで回っていた。
「……ああ。なるほど、あいつらもこんな感じだったのかもしれないな」
リュカは呟いた。
自分の身体の性能チェックを済ませたリュカは、
エルセリオ王国の王都、「王都アーレン」へと続く街道に出ると、
その街道に沿って歩きだした。
草原の空気は清浄で、朝の陽射しは柔らかく、
リュカの銀髪を優しく照らしていた。
その歩みは静かでありながら、確かな威圧感を大地に刻み込む。
この草原において、リュカの存在はまさに“神話級の超人”――スライムや獣たちが遠巻きにリュカを避けていく様子すら見える。
風の中に、微かな違和感を感じた――
……その時だった。
「ーーきゃあああっ!」
草原の向こうから、若い少女の悲鳴が響いた。
その方向には、倒れかけた小さな木と、その傍に蠢く黒い影が見えた……。
――魔物が、誰かを襲っている!?
現実の自分の身体なら、迷いなく逃走を選んでいた。
だが、今の自分はMMORPG『ホーリーランド・ストーリー』のプレイヤーキャラ「リュカ=エルフェン」だ。
今の自分なら、戦闘は不意を打たれても、なんとかなるという根拠のない自信があった。
ゲームでイベントに遭遇した時と同様に、
リュカは、助けに向かった。
悲鳴が消えぬうちに、リュカの身体は既に駆けていた。
その速さはーーまさに“超人”。
草が弾け飛び、土が悲鳴を上げる中、
銀髪の少年は一筋の閃光となって突き進んでいく。
倒れかけた小さな木の傍で、数匹の魔物が少女に迫っていた。
【モンスター:スケルトンハウンド ×3】
腐臭を放ち、骨だけの獣の形をした魔物。
通常は群れで行動し、倒れた獲物を喰らい尽くすまで離れない。
リュカのUIの鑑定スキルが作動し、情報が視界に浮かび上がる。
【モンスター鑑定】
種族:スケルトンハウンド
Lv:22
HP:138 / 138
弱点:光属性、聖属性
状態:獲物を捕食中。背後への注意が甘い。
そして――その獲物となりかけているのは、
まだ若く、旅装すら整っていない――村娘のような少女だった。
「た、助けて……っ……いやあっ!」
スケルトンが振り上げた爪が、今まさに振り下ろされようとしていたその瞬間――
――リュカの影が、少女を覆った。
[スキル:絶対神域] 発動
リュカを中心に、淡い光の障壁が展開される。
キィィィィィンーー!
スケルトンハウンドの鋭い爪が障壁に弾かれ、砕け散った。
[スキル:絶対神域]は、一定時間、
自身に対する物理攻撃を無効化する強力なスキルだ。
魔物が怯む。
それは“格”の差を感じ取った獣の本能。
ここにいるのは、「獲物」ではなく――”食べる側の強者”だと、魔物は本能で察した。
少女を守りながら、通常攻撃で一体ずつ片づけるには、
この身体になりたての自分にできるか分からない。
リュカは、強力な範囲攻撃スキル【神技・終天断】でまとめて一掃する、ことを選択した。
「――まとめて消えてくれ」
リュカが静かに呟いた瞬間、世界が張りつめた。
右手に携えた神剣アールマティが、煌めく光を放つ。
【神技・終天断】発動
――神速の斬撃。空間を裂き、すべてを断ち斬る三連の刃。
その斬撃は、音すら追いつかない。
視認できるのは、ただ――結果だけだった。
ズバアァァンッ――!!
次の瞬間。
スケルトンハウンド3体は、骨ごと浄化され、跡形もなく消え去っていた。
助けられた村娘の少女の瞳に映ったのは、静かに剣を収める、ひとりの少年。
「……え?」
少女は、助かったことも、目の前の銀髪赤目の美少年の姿をした超人の存在にも、まだ理解が追いつかないようだった。
助けられた村娘風の少女は、恐る恐る近づいてきた。
その瞳には、助けられたという事実と、リュカの“規格外の力”への驚愕が宿っている。
「あ、あのっ……! ありがとう、ございます……。わたし、アリシアって言います……。助けて、くれて……」
彼女の声は震えていたが、確かに――好意がこもっていた。
アリシア。
名前を聞いた瞬間、UIが反応した。
【好感度チェック】:アリシア → ★
「恐怖の中で救われ、信頼の芽が芽生えた」
リュカの人物鑑定スキルが作動し、視界にステータスウィンドウが表示された。
名前:アリシア・カレスタ
Lv:1
職業:ノービス
性別:女
年齢:16歳
種族:人間
信仰:村の土着信仰(詳細不明)
装備アイテム:
- 武器:木の棒
- 防具:布の服(手製)
所属:エルセリオ王国の東の村「ワイルス村」の村人。ワイルス村1番の美人
属性:村娘/善性
美貌ランク:B(銅:素朴な美少女)
関係性:初対面・リュカに命を助けられた恩義あり
好感度:★(リュカに命を助けられた)
特記事項:
・両親を救うため、王都へ独力で旅立った
村娘らしい素朴さの中に、磨かれれば花開く魅力を秘めた美少女だと、リュカは思った。
風が静かに吹き抜ける中、リュカはアリシアに向き直る。
その瞳は鋭くも、どこか優しさを秘めていた。
「……なぜ、こんな場所に一人でいたの?」
リュカの問いに、アリシアは一瞬戸惑ったように視線を彷徨わせたが、やがて、ポツリポツリと語り出す。
「……家族が、病気なんです。お父さんも、お母さんも……村の薬じゃ治らないって言われて。だから……」
「だから、アーレンの街まで、薬を買いに行こうと……。でも、草原の道がこんなに危ないなんて、知らなくて……」
少女の瞳に滲む涙。
その声音からは、怖さだけでなく――家族を想う、強い決意も伝わってきた。
「でも……あのままじゃ、きっと……」
あのままなら、彼女は死んでいただろう。
だが、リュカには関係のない話だ。
ゲーム時代の力があったから、
ゲーム感覚でイベントをこなすように、
ついアリシアを助けてしまっただけで、
現実のリュカは金や権力のような見返りがなければ、
本来は動かない人間だった。
アリシアは、リュカを見上げながら言った。
「……あの、よかったら……一緒に行ってもいいですか? わたし、まだ……怖くて」
「金と権力が欲しい。
護衛の依頼なんだろうけど、
ただ働きはごめんだ。
ボクは、報酬なしでは動かない。
君には何が払える?」
とリュカは尋ねた。
実は、リュカは1,000,000,000Gもの大金をインベントリに所持していたので、
このゲーム時代の通貨がこの現実となった世界でも使えるなら、大金持ちで金には困っていなかった。
しかし、リュカはただ働きをする気はなかった。
――風が、止まった。
草原に、張りつめた空気が走る。
リュカの問いは、静かだった。
だが、その言葉の一つ一つが、剣戟のように鋭く突き刺さる。
アリシアの表情が、一瞬で凍りついた。
その瞳に走るのは――戸惑い、驚き、そして恐れ。
……しかし、彼女は逃げなかった。
小さな手をぎゅっと握りしめ、震える声で言葉を紡いだ。
「……わ、私には……何もありません。でも……!」
彼女の声が震える中にも、確かな意志があった。
「……今すぐには無理でも……いつか……必ず、お返しします。命を救ってくれたお礼も……それ以上の恩も、ぜったいに……!」
リュカの前に立つ少女は、か弱いながらも、魂だけは折れていなかった。
その言葉は、誓いだった。
そしてその言葉に、リュカの視界に――“UIの光”が浮かぶ。
【好感度チェック】:アリシア → ★★
「あなたを恐れてもなお、信頼の芽が芽生えた」
「報酬への誓約と“借り”が成立。後の展開で有効なフラグに変化します」
(…?
なんで、今ので、好感度上がったの?
ゲームのNPC、ニセモノだから?)
リュカは内心で首を傾げた。
(まあ、でもこの娘は絶望の化身ではないな。
希望(真我)を信じようとする弱者、か)
彼女はリュカを見上げ、まだ怯えながらも、しっかりと口を開いた。
「……お願い、します」
その声は、凛としていた。
「――このリュカ=エルフェンは金と強さを持っている。
護衛のために、君に、何が払えるかを聞いただけだ。
ボクは、ただ働きはごめんだが、
“いいことをしていると後で運が回って来る”、
というジンクスも案外信じている。
だから、いいよ。
君の恩返しには価値がありそうだ」
草原の風が再び吹き始める。
空は高く、陽は清らかに照りつけ、リュカの銀髪を揺らす。
「特に目的がある旅でもない。
この身体は強く、今のボクには余裕があるから――
王都アーレンまで護衛しよう」
現実の身体だったら、そんな依頼など断り、
逃げているに決まっている。
それは、Lv.200の伝説職:ゴッドブレイドの力を持ち、神話級の装備を装備しているので、
どんな敵やモンスターが現れても、自分が死ぬことはないだろう、という自信とゆとりからくる物だった。
「……っ!」
アリシアの瞳が潤む。
けれど、そこにはもう恐れはなかった。
ただ、救われたという実感と、“この人に守られている”という安堵と――そして、憧れ。
アリシアがリュカの横に並ぶ。ぎこちない足取りで、それでも一生懸命にリュカについてこようとする姿は、かつての“ゲームの住人”にはなかった“生きた人間”の証だった。
遠く、王都アーレンの尖塔が霞む空の向こうに、ぼんやりと浮かび始める。
エルセリオ王国の中心。冒険者の集う都市。
かつての“リュカ”の拠点だった場所――
物語は、確かに動き始めていた。
これは絶望を希望に塗り替える物語だ(予定)
これは絶望方程式に抗う主人公の物語(予定)