8・デカい女性(?)があらわれた!
しばらく二人がくっついているのをフェーレはため息をつきながら見ていた。
多分に、男の相手かなにかだろう。
所がだ。
大柄の女は男を羽交い絞めにしたかと思うと、男に尋ねた。
「いま、どうしてこうなっているんだ?」
「も、申し訳ありません、これには事情が」
「言い訳は店でゆっくり聞こうか」
うん、どうやらフェーレはお邪魔みたいだ。
そう思って男へ言った。
「ねえ、わたしどっかに宿を勝手に取ろうかと思うんだけど」
すると大柄なヴェールをまとった女性は、答えた。
「その必要はありませんわね。あたくしのお店にご案内いたしますわ」
そういって頭を下げた。
「この度はあたくしの―――――男がご迷惑をおかけしたようで、お詫び申し上げます。あたくしはキャラバノ、そこの店の責任者ですの」
指さすほうを見ると、派手な看板が出ていた。
「女郎宿に泊まる趣味はないわ」
「ご安心を、系列店はまっとうな宿よ。多分、この町で一番寝心地が良いベッドを用意できると思うわ。しかも、うちのがお世話になったんですもの。無料でどうかしら?」
「乗った!」
無料と聞いては乗らない訳にはいかない。
フェーレが答えると、ヴェールの大女は「そう、よかったわ」と微笑んだ。
「じゃ、行きましょうか」
フェーレは頷き、ヴェールの女に従う事にした。
それにしても、この女性、えらくデカいのだが。
そしていくら全身を隠していても、流石に骨格に女性は無理がありすぎる。
(ひょっとして、あちらの方、だろうか)
声のしとやかさ程度なら、ちょっと低い声の女性と思わないでもないが、このデカさは女性なら珍しすぎる。
いくら陰の世界の女とはいえ、それなりに話題になりそうなものだが。
(あと、なーんか引っかかる、んだよなあ)
別に女郎宿に住んでいるオカマさんだろうが、ただの変質者だろうが、ひょっとしたら本当にただのデカい女性なのかはともかく、なんとなくだが、どこかで会ったような気がするのだ。
声、いや、覚えてない。
体格、知っていたらすぐにわかるはず。
目の色、はヴェールの向こうでよくわからない。
髪の色も見えない。
ということは、なんとなくの雰囲気しかないのだが、その雰囲気が思い出せない。
(誰かに似ている、とかなのかな)
しかしこんな判りやすい外見を、一体どこで見ているのだろうか。
男性なら、軍人では珍しくない体かもしれないが。
店に入り、ヴェールの大女、キャラバノが怒鳴った。
「アストが戻ったわ!」
すると、わあっと声が上がった。
「どうしたのアストちゃん~心配したのよぉ」
「やーん、無事でよかったわあ」
「お使い、ちゃんとできたのかしらあ」
思い切り熱い歓迎を受けて、フェーレと一緒に居た男、アストは店の人々に顔中にキスされまくりという状態になった。
これがもし、普通の女郎宿であれば、綺麗なお姉さんたちにキスされるのは嬉しいのだろうけれど。
(女郎宿、というよりは、男性の女郎宿、か?)
はあ、とフェーレは溜息をつく。
確かに、そういった趣味性癖の人がいるのは知っていたが、目の前に現れると圧巻だ。
次々に出てくる(多分)女装の男性たち。
しかもみんな、いい体をしている。
「あら、アストちゃん、おかえりなさぁああああい!」
やっと明らかな女性陣が出てきたが、やはり全員派手だ。
(なんだ、こいつは?宿の坊ちゃんかなにかか?)
フェーレの疑問を読んだのか、隣に居た女性が笑って教えてくれた。
「アストちゃんはねえ、この店の護衛に入った人なの~、とっても紳士だから、わたしたちにも人気なの~」
なるほど、確かにこういう店で、紳士であるなら信用はあるだろう。
(あんなにヘタレなのに?)
ピクルス嫌いの紳士かあ。
ま、今日のところは宿代が浮きそうなので、それは良かったな、とフェーレは思った。
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