2・公女、馬で旅立つ
いいからとっとと発行しろゴルァ!と通行手形を発行させた。
小さくとも一応、国は国。
ヘルゼンの国からの使者とあれば、そう無碍な扱いもうけまい。
「いや、そんなことしなくともフェーレちゃんは公女だから」
「ばーか。だからその公女が行くとマズいんでしょ」
正式な公式の文章をまさかの人間違いで発行した挙句に無事到着しているとか、インドゥアーグの事務体勢どうなってんだよコレ。
「内部の統率がちゃんと取れていない証拠ですわお父様」
「ってことは、偽造する……ってコト?」
「人聞きの悪い。ちょっとばっかり仮名を使うだけですわ」
「それを書類でやると偽造っていうんだよぉ」
「なるほど、それをつかったらどこがなにを罰するので?」
「……我が国が我が国の」
「で、誰が誰を?」
言わなきゃバレねえよ。そもそも罰を与えるのはわが国だ。
「うーん、無罪?」
「そう、結果として無罪!」
形式上の適当な名前なんか、どっかから引っ張ってくりゃいいんだよ!
「だって本名で出たらかえってマズいのあっちじゃん?」
「じゃんっていうのやめて。でも確かにそう。あっちの間違いなら、むしろ今頃は騒ぎになっているはず」
書類が届くべき場所へ届いているのなら、その返信もあるはずだ。
幸いこの国、ヘルゼンはインドゥアーグから馬車でも遠いほどではない。
いや、遠いっちゃ遠いが。
「想像するに、多分割とデカい規模の国の姫さんあてだと思うんすわ。だとしたら、取引先はなんとなく想像がつく」
ということは、どの国も勿論、このヘルゼン国を通らなければ向かう事はないわけで。
(だったら、まだ手紙は届いていない、とあっちは判断する)
フェーレは計算する。
(つまり、本来の相手に届くはずの手紙は、到着するのに一週間はかかる。うちに届くのが馬車で五日。返信がすぐあるにしても、インドゥアーグに到着するには二週間。まだまだ余裕はある)
「お父様!いまからすぐに参ります!すぐに手形の発行を!」
「いやでもね」
「バートリー!」
優秀な部下の名を叫ぶと、さっと初老の男性が現れた。
「ここに」
「いますぐ私のパスポートを!勿論偽名でよ!」
「すでにご用意してあります」
さっとバートリーが差し出したのはヘルゼン国のパスポートだ。
「よくやったわ」
「なお、当国の国賓であるという証明も中へ」
「有能だわ」
「インドゥアーグに住む我が国の外交官への手紙も一緒に」
「最高」
「なお経費はギリギリです」
「そこだけがダメ!まあいいわ。あっちで出稼ぎでもなんでもやってくるし」
公女にあるまじきバイタリティでフェーレは早速支度した。
「じゃ、お父様、行っていまいりますわ!金銀財宝、楽しみにしておいてくださいませ!」
「どう考えても盗賊のセリフだよフェーレちゃ……もう行っちゃった」
「フェーレ様はご苦労されておいでですから、行動はお早いのです」
「そうねえ、それは申し訳なく思ってるんだわ」
いくら小さな国でも公女は公女、本来ならちやほやと育てられたはずなのに、フェーレはやたらたくましい。
「フェーレちゃんもいまくらい、国が落ち着いた頃に生まれていればねえ、こんな苦労はさせなかったのに」
「仕方のない事です。我が国のような小さい国は、どうしても他国に振り回される運営ですから」
「だよね」
ふう、とフェーレの父、ヘルゼン国の公主はため息をついた。
「でさ、本当にお金貰えるとしたら、新しい水車が欲しいんだけどどうにかなるかなあ?」
「なるんじゃないんですかね、フェーレ様なら」
ただ、気になる事があるのだ。
公主も公女も気づいていないようだが、あのインドゥアーグのような大国が、そんなありえないしょぼいミスをしでかすのか?
(でも本当にあのフェーレさまを嫁にしたいのなら、予算はがっぽり頂けるのでそれはそれでありがたいのですが)
どうなるんだろうな、とバートリーはちょっと楽しみなのだった。
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