1・銭ゲバの公女
鏡よ鏡
世界で一番美しい男はだあれ?
はい、お答えします。
それは【インドゥアーグの国、薄氷の王、ジェオフィーノでございます】
「喜べ、我が娘、フェーレよ。お前の政略結婚が決まりました」
「なにをどう喜べと言うのです」
こんなクソ田舎、もとい、辺境の小さい、ちょっと隣国が本気出したら吹っ飛ぶような国の公女と政略結婚したがる意味がわからんわい。
絶世の美女ならともかく、フェーレの外見はそこまででもない。
なにせ小さい国なので、国民はほぼ顔見知り。
王宮は兼、役所と学校と図書館。たまに学校。
飲みすぎて家に帰れない国民、もとい、農民のおっちゃんが王宮の庭で寝っ転がって一晩過ごしていたりもする。
平和と言えば聞こえがいいが、要するにおおきな庄屋さんなのである。
名ばかりの国の名ばかりの王の立場である、フェーレの父が公主であった。
「お前の言いたいことももっともだ。うちみたいな、もはや国と言うよりちょっと大きい村かな?みたいな存在にわざわざ政略結婚したがる国なんかあるわけないってことであろう。あったんや」
「多分それ詐欺ですわお父様」
「うん、いやまあわしもそんな気がしてたんだけどね」
ほら見て!と父親がカードを見せた。
上等の透かし入りの美しい紙に、金の飾り、そして王にしか使う事が許されない紋章。
「マジやん」
「マジなんよ娘」
「おかしいな。うちの国、ひょっとして資源でも出た?」
「残念ながら出るのは山羊のミルクくらいなもんでしてな」
そう、国と言う体はあるものの、あまりに小さすぎ、無力すぎて周囲の国からもろくに国として認識されていない、どころか多分どこかの国の一部と思われているんだろうなーという小国こそ、フェーレの生まれ育った公国・ヘルゼンであった。
「で、お前を妻にしたいと」
「酔狂な国もあったもんですわ。よし、条件を出して断らせましょう。丁度国外れの村が災害で予算を組む必要があったんですよね。全額負担しろって言ったら断るでしょ」
「言わないと思うし、払っちゃうんじゃないかなあ」
「なぜですの?割とお高くなりますわよ」
「だってよく見てフェーレちゃん。それ、インドゥアーグからのご指名なんよ」
「は?」
しまった、手紙の細工のご立派さに目を奪われて、内容までしっかり読んでいなかった。
インドゥアーグといえばこの辺りの国では一番の敷地と財力と戦力を併せ持つ、とんでもない大国じゃないか。
一応、国ではあるので、フェーレも社交界デビューの際にはインドゥアーグに挨拶には行ったことがあった。
だが、この国ヘルゼンと同じような小さな国々とまとめて形式だけの挨拶で、つまりは十把一絡げの社交界デビューだった。
小国と付き合ってもろくに良い事もないし、父は友人や知り合いと話はしていたが、フェーレにはそんなことはなく、ひたすら
インドゥアーグのうまいものばかりを食べていた記憶しかない。
まあいい、わざわざ結婚の命令なんか送って来るということは、向こうにも策略があるに違いない。
いや、多分ない。
「お父様、多分ですけど、これ、なんらかのミスだと思うんです」
娘に言われ、父は、はっとして「やっぱりそうかあ」とがっかりした。
「当然ですわ。こんなちっさい国の、ワイみたいな小娘に、わざわざインドゥアーグが正式なカードを送るはずがありません」
思うに、多分、作成のミスだ。
どこかの国の王女に送るつもりでも、情報がばれるとまずい。
だったら適当な小国の名前を使えばいいし、正式な書面に起こす場合は書き直したらいいし。
その書き直しをせずに送った可能性が高い。
「フフフ。これは搾り取れるぞ」
公女にあるまじき下衆な笑顔でフェーレはニヤリとした。
なぜなら、小国とはいえ正式な王の文書を送るのなら、それなりの手続きが必要なはずだ。
その手続きを全てミスった挙句にマジでこんな国の公女に嫁に来いなどと、失態にもほどがある。
小さいとはいえ正式な国相手の失態。
立派な国際問題である。
「これは思い切り吹っ掛けられますな」
どうせ断られる前提なら、おもいきりふっかけりゃ、結婚を断ってくるだろうし、ひょっとしたらお金を払いたくないとはいえ、なんぼかお金をくれるかもしれん。
ニヤリとフェーレが笑うと父が首をぶんぶん横に振った
「正気になって!多分、うちの国乗っ取るくらい、本気でできちゃう国だよお!!!」
「別にいいんじゃないですかね」
「いいわけないでしょお!一応緩衝地帯なのようちの国は!」
そうでした。
小さいとはいえ、複数の国をまたぐ形で存在しているので、各区にはこの国を通らなければ互いの国を行き来できない。
そしてその国同士は割と大きい。
「乗っ取るには規模が大きいし、維持費もかかる。大国同士の戦争になれば、間違いなくうちは巻き込まれるというか、一番最初の前線になるんやで」
山々に囲まれた麓の、削られた盆地のなかにある小さな国なんて、管理するには面倒だし、かといって栄えるには力がない。
「めんどい。どこかの国に所属しましょうよ」
「フェーレちゃんそれでも公女なの?」
「公女だからこそ、いつでもその覚悟はしておりますの」
小さな国はあっという間に乗っ取られるだろう。
たいした資源があるわけでもなく、国民の殆どは農業と山羊を飼って山とともに生きている。
自給自足が出来るのが、売りといえば売りでもあるが、それしかできないとも言う。
「あーあ、あの山から金が出たらいいのにな」
「残念ながらそんなものはありません。出たらもっとうちの国は豊かです」
「ですよねー」
山々から流れ出る水の恵みで、自然も農業もまま豊かである。
「まあいいや。どっちにしろ結婚しなくちゃいけないのは判ってたし、これ以上の話もないでしょうし」
「だよね!行ってくれる?フェーレちゃん」
「行くしかないでしょ」
おお、強引で強欲な娘であったが、やはり国の事を考えてくれたのか。
乱暴でお転婆で、国の運営にめちゃめちゃ口出すけど実際有能だった娘もとうとう嫁に行くのか。
「インドゥアーグは豊かでよい国だ。お前もきっと幸せになれるだろう」
涙ぐむ父に、娘フェーレはにやりと笑った。
「なにをおっしゃってるのお父様。どーせ相手のミスなら結婚なんかこっちのミスに押し付けられるだけですわ。大国を舐めちゃいけませんぜ」
「じゃあ、一体、なにを?」
「決まってるじゃーありませんか。あっちのミスをなかったことにしてあげるんですよ。こっそりあの国に入り込んで、そんで王様に恩を着せてやるんです。で、ばらされたくなかったら、とっとと金を払えと」
脅迫だ―――――!!!
こともあろうに国の公女が!!!!
「む、む、むすめちゃん?」
「これは千載一遇の大チャンスですわお父様。ついでにあっちがどこの国の娘との結婚を狙っていたのか判ればそれも取引材料になりえる。さらに儲けのチャンスですわ」
きらっとフェーレの瞳が輝く。
ああ、可愛い娘は国の運営にお金がかかりすぎることを理解しすぎてしまった。
銭ゲバになった娘を止めるものはもういない。
「そうと決まれば早速、支度をしなければ!」
「な、なんの?」
恐る恐る父王は尋ねた。
「決まっておりますわ。インドゥアーグの王宮に潜り込んで、王様からしっかりがっぽりせしめてまいります!」
おまかせくださいましお父様!
そう笑うフェーレに、お任せなんてできるはずもなかったが、止める事もできなかった。
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