僕は断固転生を拒否する。パスワードもトラップも回避してみせます!
僕は……生命を狙われている。信号が青になったのを確認して、渡り始めた時、止まる気配のない猛スピードの車────僕は今日も強制転移を防いだ。
僕の名前は、久世乃 英雄。名前を見て、フラグが立っているのが察していただけるだろう。
そう、知っているんだよ僕は。転生したからって、何もかも上手く行くような甘い世界に行けるとは思っていない。
だから転移転生は断固避けたい。細心の注意を払っていてさえ、こうして僕は狙われる。
引き籠もっていられるならそれは良い。だけど、僕はまだ高校生だ。学校をサボるわけにはいかない。
つぎに厄介なのが暗証番号の入力、パスワードを打ち込む事だ。
僕の従兄弟はパスワードを入力して消えた。だから僕はスマホのロックだってしない。
転移チャンスをとことん潰すのだ。
アルバイトの給料だって、母に頼み引き出して来てもらう。
僕の母である以上、彼女も転移リスクを追うわけだが、あくまで僕がこの世界へしがみついている限りは大丈夫だろう。
────そんな僕を、好きだと言う娘が出来た。
……まずい、フラグが立ってしまった。
彼女はあれだ、転移先の王女か何かで、強制転移を断固拒否する勇者な僕を、無理矢理連れて来るように父王から頼まれたんだ。
────だって、凄くあざと可愛いから。
罠だ。どう見ても罠だ。彼女は何かしら、パスワードの必要なサイトに登録させようとする。
なんて適応力だ。さすがは王族、侮れない。
だが僕にも意地がある。登録はパスワードから何から全て彼女に任せた。情報はフルオープンだ!
呆れて離れてくれるかと思ったのに、なぜか信頼され距離が近くなる。
やめろぉォォ〜、手を繋いで歩くなぁぁ〜!!
リア充フラグを知らないのか。バカップルが強制転移するんだぞ。
あぁ、それが狙いだったのか!
────そう、僕は今、敵の思惑に乗り心を奪われかけている。
……ハーレム勇者め、だらしないと思ってバカにしてすまない。
これはなかなか堪えがたい。僕でなければ理性などすっ飛んでもおかしくない。
────だが舐めるなよ、王女め。僕は久世乃英雄。『救世の英雄』なんだ。
心のざわつきなどで転移されてたまるか。
絡みつく腕を振り払う。僕は堕ちんぞ、決して。
「英雄君ってクールで真面目だよね。今度パパが会いたいって」
マジか。王様からは逃げられない。王女の至福の笑みは反則だ。
────僕は久世乃 英雄。救世のヒーローなどではなく、ただの、クセのひでー男だ。
お読みいただき、ありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
転移転生させられる側にとっては、王様も魔王も同じなのではないかと思います。
実際はただの主人公の妄想かもしれません。
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