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可哀想な女だと思った。
否、そういうものだと、判断した。
裕福でもなく、かといって貧乏でもなく
友は片手で足りる程はいるが、親友はおらず
親も離婚し、片親には義務と体裁によって生かされ
周囲のいくらかの人間に嗤われる人生。
誰かに手を差し伸べても、誰かに手を差し伸べられることはなく
不幸と言い切るにはあまりにも中途半端に幸福で
全てを抱え込むしかできない人間。
それがこの女だった。
この女にしよう。そう決めたのはなぜだったか。
同情ではない。この女に何かがあるわけでもない。
そう、ただの道楽。群れに小石を投げて当たった者に決めた、その程度のこと。
しかし、その時ワタシはひどく退屈していて、必要がないのに、彼女に会ってみたくなった。
人間の道理には、【郷に入っては郷に従え】というものがあるらしい。
ワタシは遊びで、そう、暇つぶしなのだから遊んでも良いではないかと、人間に擬態してみたのだ。
パニックになられると面倒なので、できるだけフランクに。
たとえば、こんな感じで。
「よう、お嬢ちゃん。それなりに元気そうだな」
この女は、いくら何でも無責任ではないか? 何にって、己の人生に。
何も望まず、何も目指さず。
いきなり復讐だと言い出したかと思えば、面倒だとすぐ諦める。
感情がコロコロ変わる。いや、搔き消しているからそう感じるのか。
この復讐とやらも、本当に望んで言った言葉ではないのだろう。
全てを諦める癖がついてしまっているように推察する。
ただ、幼少期の話を聞くに、元からそういった人間では無い様なのだ。
こうさせたのは、己か、周囲か。
「難儀なものよ」
この女は、何も成すこともできず、大して顧みることもされず、一人死んでゆくのか。
最後に、もう一度だけ聞いてみた。
「じゃあ、他にやり残した事は無いのか」
どんなちっぽけな願いでも良かった。
「うーん、特にこれといった事は無いかな」
「まあ、ぼちぼち見つけるとするよ」
その時間がもう無いということを、ワタシは知っている。
…だからこそ、ワタシは。
「君が奪われたものは、君自身の願い全てじゃないのかな」
布団に包まり、縮こまった小さな体に呟く。
何も映さぬ瞳が、ゆっくりと閉じてゆくのを見守った。
同情ではない。ただ、彼女が手放さざる終えなかった望みを知りたいと思った。
思ってしまった。
もし、こんな人生では無かったとして。彼女が一つでも願いを持ち続けることができたなら。
最後の願いは、どんなものであっただろう。
これはただの道楽。そう、あくまでも道楽。
ワタシに興味を持たせたのだ。【次】こそは、頑張っておくれよ。
ワタシは優しい神様だから、もうちょっと君が生き生きとできるような世界に送ってあげるよ。
君の本棚にあった、物語の様な世界にね。
「仕切り直し、だよ。頑張って」
散る鮮血に、宙を舞う器。
浮き上がった彼女の魂は、奥に強い輝きを秘めていた。