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美帆子さんからのお年玉のドレスを着て、サロンで髪をアップにし、メイクも何時もより華やかに。

履き慣れないピンヒールを履いて、あたしはホテルの会場に到着した。

パーティ会場の入り口で何時もより上等なスーツに身を包んだ水嶋さんが待っていてくれた。

あたしのコートを背後から脱がせて、クロークに預けに行く水嶋さん。

「ドレス似合ってる。」

美帆子さんがあたしの為に選んでくれたドレスは、淡い水色で左胸に少し大きめのコサージュがあしらわれている、Aラインのシフォンドレスだった。

「穂積も喜ぶんじゃない?」

水嶋さんの言葉にあたしは、小さく頷き少しだけ笑った。

会場に入ると、大勢の紳士淑女がグラスを片手に談笑していた。

あたし達の前にボーイがトレイを差し出す。シャンパングラスを手に取った。

会場の端が壇上になっていて、その近くに穂積さんと美帆子さんを見付ける。

眩しい程の輝きを見た気がした。

あたし達に気付いた美帆子さんが、穂積さんの手を引いて傍に来た。

美帆子さんは長身に合った黒のロングドレスで、ホルターネックのその大きく開いた胸の部分にはダイヤのペンダントが光っていた。

穂積さんも正装だった。

「きゃー奏ちゃん、やっぱり似合う!!ね、智志言ったでしょ?絶対似合うと思ってたの!智志はピンクの方が良いんじゃないかって言ったんだけど、奏ちゃん色、白いからどうかなって思ったのよね。」

穂積さんと選んだんだ。

ふふ、変な感じ・・・。

「ありがとうございました。美帆子さんもドレスとっても素敵。」

「ありがとぉ!これからうちの社長とあたしの挨拶とかあるけど、楽しんでね!あ、ごめん、ちょっと挨拶してくる。都築さーん!」

あたし達3人は美帆子さんのパワフルな背中を見送った。

「・・・感じ違うな、青山。」

「髪アップにしてるからじゃないですか?馬子にも衣装って奴ですね。」

あたしはシャンパンに口をつける。

「二人も正装素敵ですね!イケメン二人の間で、あたし幸せ。」

「青山?」

「あ、穂積さん、美帆子さんが手招きしてますよ?」

「え?あ・・うん。」

穂積さんは未だ何かを言いたそうにしていたけど、あたしは踵を返しグラスを持って食事のテーブルに向かった。

「うわー何食べます?」

豪華な料理がテーブルいっぱいに並べられていた。

あたしが意気揚々とお皿に料理を取っている間、水嶋さんは黙ってあたしの後ろに立っていた。

「食べないんですかぁ?美味しそうですよ?」

振り返りもせず、あたしが言うと水嶋さんが堰を切った様に話し出した。

「・・・会社に来た桐生からのメール見たよ。お前の部屋で、穂積との隠し撮りの写真が何枚もあるのも見た。タマちゃんが見付けたんだけど・・・。」

「・・・。」

「何で俺に言わないんだよ。」

「言ったら、穂積さんに言うでしょ?」

あたしはトングを置いて、水嶋さんに向き直した。

「あたしが桐生の家に行った事、穂積さんに話しましたよね?水嶋さんが。」

返答に詰まる水嶋さんの横を擦り抜けて、あたしは壁際に身を寄せた。

「・・・穂積さんが苦しむ姿見たくない筈の水嶋さんが言うとは思ってなかったな。桐生がバラしたのかと思ってたんだけど・・・色々考えた結果、水嶋さんが言ったんだろうなってとこに落ち着きました。」

あたしはテリーヌを口に運ぶ。

「美味しっ。」

水嶋さんも壁に寄り掛かった。


料理もお酒も美味しかった。煌びやかな世界は美しかった。


あたしは空いたお皿をボーイのトレイに乗せる。

壇上に恰幅の良い社長さんが立ち、変な笑い方をしながら挨拶をしていた。

その直ぐ傍に、美帆子さんが穂積さんと並んで立っていた。


あの笑顔の奥に、あんな傷みがあったなんて誰が思うだろう。

完璧な人間なんて居ないんだ。

”駄目な時に駄目な顔をしない”強さを持ち合わせたんじゃない。

そうなる努力をしたから、今の美帆子さんが在るんだ。

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