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あたしは外した2枚のレンズを手で弄んだ。
「悪い・・・。」
水嶋さんがソファに座り、膝の上に掛けてある毛布に顔を埋めた。
「・・・水嶋さんから見た、美帆子さんってどんな女性?」
あたしが水嶋さんを見ると、困惑気味な顔を覗かせた。
「はっきり言って良いですよ。」
「・・・美人で仕事も出来て性格も良くて・・・非の打ちどころは無いよ。」
あたしはちょっと笑った。
「あたし今迄、穂積さんに美帆子さんの事聞こうとしなかった。」
手の中のレンズは乾き始めて、重なり合って剥がれなくなった。
「桐生さんのとこで会ってからは尚更、聞きたくなかった。」
穂積さんがあたしに”アイシテル”と言った時の事を思い返す。
あの時あの瞬間、穂積さんの目には他の誰でもなく、あたししか映ってなかった。
「水嶋さん、伝えられない想い抱えて傍に居るのと、通じ合ってるのに傍に居られないの、どっちが辛いんだろうって聞いたけど、あたしは、水嶋さんの方が辛いと思うよ。」
あたしは真っ直ぐに水嶋さんを見てそう言った。
超えられないものは在る。
だけど、ほんの一瞬でも通じ合えたって思えたんなら、凄く幸せな事なんじゃないのかな。
20
会社が年末年始の休みに入った。
穂積さんからは毎日、電話とメールが来る。
会話は他愛も無かったけど、あたしを気に掛けてくれてるのが良く解った。
一度電話の向こうで美帆子さんの声が聞こえた。
その声に胸が痛まない訳じゃない。
2日に穂積さんと会う約束をした。
恐らく、美帆子さんが仕事か何かで不在になるのだろう。
あたしはお昼を買いにコンビニに行こうと、部屋を出た。
1階の集合ポストを開ける。
年賀状が数十枚入っていた。その中に、白い洋封筒があった。
封はしてない。
あたしはその場で中身を確認した。
桐生は執拗だった。
横浜に行った時の、穂積さんとあたしの写真だった。
ホテルの室内に入る瞬間の物もあった。
あたしはその場に立ち尽くした。
美帆子さんにバラすぞと脅して、あたしの体を求めておきながら結局手は出さなかった。
次に、写真をあたしの元へと届けた。
未だ、美帆子さんは穂積さんとあたしの事を知らない。
桐生の目的は何なの?
昔、庄司君が「オーナーは人生を面白おかしく生きたいと思ってる」と言っていた事が思い出される。
あたしを脅して、オロオロする姿を見たいだけ?
それだけで、こんな手間暇かかる事をするのだろうか・・・。
もしかして・・・あたしじゃなくて、穂積さんの失墜を・・・?