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ニョッキを作る事になったあたし達は、近くのスーパーにじゃが芋と強力粉を買い出しに出掛けた。
そのスーパーで偶然にも、営業開発部の吉岡さんに会った。
「あ、あのあたし、実家がこの辺で・・・部長、お住まい大塚って言ってましたもんね・・・あ、すみません。じゃぁ・・・。」
吉岡さんはそそくさとスーパーを後にした。
「・・・完全に誤解してますよね?」
あたし達は、自分達の姿を再確認した。
二人並んで、仲良くお買い物。・・・これじゃぁ良い雰囲気にしか見えないよね・・・。
「ま・・・良いんじゃねーの?」
「良いんですか?水嶋さん、困りません?」
「困んねーよ。」
水嶋さんは笑った。
穂積さんの言いつけでこうして二人で居るんだから、困る事もないのだが。
「近くにケーキ屋あるから、買って帰ろうか。」
あたしは少し迷って首を振る。
「ううん、穂積さん食べないし。」
「俺、食うし。」
会計を済ませると、あたし達はケーキ屋さんで小さなホールのケーキを買った。
「おーお疲れー。スコアはどうだった?」
「ただいま。90は切った。あ良い匂い。」
「おかえりなさい。」
あたしは水嶋さんと二人でキッチンに立ち、ゴルフ帰りの穂積さんを出迎えた。
「ただいま。」
・・・ただいま、だって。
「はい、チキン。」
「おーサンキュ。そこ置いといて、皿に乗っけるから。青山さん、玉葱微塵切りして?」
「了解です。」
普段家で使う包丁よりも少し重くて、使いづらいなぁと思って切り始めたら、あたしはサクッと指を切った。
「いっ・・・。」
「切った?見せて。」
あたしが左手の人差し指を差し出すと、水嶋さんは何の躊躇もなく、それを自分の口に入れ血を吸った。
「!」
口から出して、切れた部分を確認する。
「そんなに深くいってないと思うよ?・・・って、あ・・・。」
水嶋さんがあたしの手を落として、あたしは手を引っ込めた。
穂積さんを見ると、穂積さんも驚きの顔であたし達を見ていた。
「ごめんっ。これ・・・うちのばーちゃんが、血出たら舐めときゃ治る!みたいな事いっつも言う人で・・・悪い、本当にゴメン。つい癖で・・・。」
必死にあたしと穂積さんに謝る水嶋さん。
その内、穂積さんが笑い出した。
「水嶋、これ初犯じゃないからな!」
「え?あ?・・・あー・・・。」
「絆創膏何処にあるの?水嶋。」
「え?あ無いかも。」
「大丈夫です、もう血出てないから、すみません。料理出来なくて・・・。」
「あ、後俺やるよ、この包丁切りづらいんだ、まぢで!ほら穂積と座ってて。」
水嶋さんが焦ってるから、こっちも調子狂っちゃうよ・・・。