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ここからもベイブリッジが見えた。
「今日は夜景満喫ですね。」
入って早々言うあたしの手を、穂積さんは離そうとしなかった。
引き寄せられ、あたしはすっぽりと穂積さんの胸の中に抱き締められる。
あたしは、体が強張って穂積さんを抱き締め返してあげる事が出来ないでいた。
それを察してかどうか、体を離すとあたしの手を引いてベッドの近くのソファに座る様促した。
持参していたバッグから穂積さんは、赤い小箱を取り出した。
小箱と言っても、10センチ程はあるだろうか。
「ちょっと早いけど、クリスマスプレゼント。」
「え?」
あたしは差し出された小箱を開ける。
「・・・これ・・・駄目です、こんな高価な物貰えない。」
そこにはフランスの有名宝飾ブランドの時計が高貴な輝きを放っていた。
「俺もお揃いにしちゃったから、してね、青山が。」
そう言い穂積さんは左腕の袖を少し引いて、あたしに見せた。
本当だ・・・時計変わってる・・・。
「・・・前の時計、良かったんですか・・・?」
自分が探る様な質問をしてしまった事を後悔した。
「あ、ごめんなさい。・・・あの有難う。嬉しいの。嬉しいんだけど身分相応じゃない気がして・・・。」
「俺がどうしても青山と同じ物を着けたかったの。」
「・・・あたしプレゼント出しにくくなっちゃった・・・。」
「持ってるの?」
今日、穂積さん達に会う前に買いに行ったプレゼントはあたしのバッグの中に身を隠していた。
「うん。も、持ってる。」
「見たい。」
無邪気な笑顔を向けられて、あたしはそれを取り出した。
一応ブランド物にしたけど、この時計の10分の1にも及ばない代物だった。
それでもあたし的には奮発なプレゼントのつもりだったんだけど・・・。
「ライターだ。あぁ有難う。大事にする。」
「ごめんなさい・・・。」
「俺の為に選んで買ってくれたんでしょ、何でも嬉しいよ。」
その微笑みに嘘は無い気がして、あたしも微笑んだ。
「ミニバーあるし、お酒でも飲みながら今日はいっぱい話そうよ、青山。」
穂積さんは着ていたジャケットを脱ぎ、椅子に掛けた。そしてミニバーからお酒を取り出す。
「ストレートで良いよね?」
「え、あ、はい。」
あたしは自分のコートと穂積さんのジャケットをクローゼットにかけて、直ぐソファに戻る。
ミニボトルからウィスキーがコップに注がれた。
「23日、ターキー買ってこいって水嶋に言われたんだけど、3人で食べきれるもん?」
「ターキーって・・・普通にチキン3本で良いかと・・・。」
あたし達は、今迄にないくらい話しこんだ。
そして、あたしはいつの間にか、眠りに落ちていた。
朝目が覚めると、あたしは昨夜の服のままベッドの中にいた。
起きると、パウダールームの方で水が流れる音がした。
「穂積さん?」
穂積さんはタオルで顔を拭いていた。
「あ、おはよう。」
穂積さんも昨夜の服のままだった。
「すみません・・・あたし何時の間にか寝ちゃったみたいで・・・。」
「俺もだよ。寝てる青山見てたら寝てた。服、皺ついちゃったなぁ。車で帰るから良い?」
穂積さんが自分のパンツの皺を気にしたので、あたしもスカートの裾を見た。
「大丈夫。」
「そっか。」
あたしは昨夜、何もなかった事に感謝した。
本当は・・・ちょっと怖かった。
穂積さんは好きだけど、もし穂積さんに求められた時に体が拒絶したら・・・そう思っていた。