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アスファルトの上にイチョウの葉が積もり、舞っていた。
その上を歩くと、カサカサと鳴った。
空を見上げて、凄く高い事に気付く。
あたしは思わず、両手を広げて、この澄んだ空気を大きく吸い込んだ。
肺いっぱい満たされて、あたしは満足感でいっぱいだった。
「どうした、青山?」
二人が”大丈夫か?”みたいな微妙な顔付きであたしを見ていて、あたしは少し笑う。
「ふふ、こんな感覚ちょっと忘れてた。・・・もう直ぐ冬ですね。」
心がいっぱいであたしは、本当の笑った顔を二人に向ける事が出来た。
水嶋さんと別れた後、あたしは穂積さんの車に乗り込んだ。
「この後、横浜行かない?」
穂積さんがシートベルトを締めながら言った。
「これからですか?・・・大丈夫なの?」
「うん。・・・出張で暫く留守なんだ。」
「・・・ん、そうなんだ。じゃぁ行きたいな横浜。」
穂積さんの車は、横浜に向かって走り出す。
色んな所で、モミの木が目に入った。
ラヂオからも甘いラブソングが何曲も流れてる。
穂積さんの口振りから、クリスマスの2日間は過ごせそうにも無かったけど23日に会えるのが、嬉しかった。
会おうとしていてくれた事が、心を震わせた。
「穂積さん、ありがとう。」
「ん?」
「良いの、言いたかったの。」
「・・・変なの。」
穂積さんもちょっと笑った。
池袋から横浜に着いた頃、すっかり陽も暮れてネオンやクリスマスのライトアップがまばゆかった。
「綺麗、ね、凄く綺麗。」
路駐の車内、あたしは同意を求めるように穂積さんの方に体を向けた。
運転席から穂積さんの体があたしを覆うように近付き、唇が重なった。
穂積さんの右手があたしの頬に触れて、あたし達は至極近い距離で見つめ合った。
穂積さんの香水の匂いに胸が苦しくなった。
「愛してる。」
あたしは一瞬瞑っていた目を開けた。
穂積さんの長い睫毛が直ぐ傍に見える。
言葉に詰まってあたしは左手を、穂積さんの右手に添える。
”アイシテル”
と言った穂積さんの方が震えてる、そんな気がしてあたしは自分から穂積さんの唇にキスをした。
車を横浜ランドマークタワーの駐車場に入れ、あたし達はタワー内でイタリアンのお店に入った。
窓が大きく、ライトアップされた横浜の街並みが眼前に広がった。
これだけでも充分だったのだが、69Fのスカイガーデンからの夜景は圧巻だった。
あたし達はただ黙って手を繋いで、それに魅入っていた。
「そろそろ行こうか。」
そう穂積さんに言われて、あたしは頷いた。
スカイガーデンからエレベーターは数階下へと下がり、あたし達はホテル室内へと足を踏み入れた。