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「メール、来た?」

水嶋さんがあたしに携帯の画面を見せた。

あたしもバッグの中の携帯を確かめる。

CCで水嶋さんとあたしの名前、勿論、送信者は穂積さん。



   さっきの件で、明日話したい。

   池袋のcafe garden で14時に。



タクシーの運転手が信号待ちの間、乗車記録をつけている。

「穂積へのクリスマスプレゼントを買う為に、俺に相談したってのが妥当かと?」

「・・・水嶋さんは、穂積さんをどんな風に好きなんですか?」

一度、聞いてみたいと思っていた。

「・・・唐突だな。」

水嶋さんはちょっと笑って、窓の外を見た。そして又、あたしに視線を戻す。


「前に好きだった人が死んだって言ったの、覚えてる?あれは本当だよ。」

水嶋さんは過去の記憶に哀しそうな表情を見せた。

「中学までは普通な男のつもりで居たんだけどね、初めても女だったしね。でも何か違和感があったんだ。高校入って興味があったから弓道部に入部したんだけど・・・(のぞむ)、1コ上の先輩。俺、初めて見た時、息が止まったよ。そうだな、身長は穂積と同じ位。弓道、間近で見た事ある?正しい姿勢、的に集中する眼差し・・・そういうの全部、憧れたんだ。少しでも近くに居たい、同じ様に弓道が巧くなりたい。ああなりたい。その想いが触れたいとか、抱き締めたいとか、そんな気持ちに変化した。望もそう思ってくれた。だからそういう関係になった。」

水嶋さんは、ノゾムさんの話をして心が落ち着かなくなったのか、禁煙車の中で煙草の箱を開けたり閉じたりしていた。

「男子校だったから珍しくもなかったし、例えどう見られても良いと思ってた。望と居られればそれで良いって思った。それから半年位かな、部活終わって”又、明日”って、事故に遭って、二度と声が聞けなくなった。」

今にも泣き出しそうな水嶋さんの手を、あたしは咄嗟に包んだ。

「・・・心に穴が空くって、あぁいう事を言うんだと思った。スカスカの毎日だったよ・・・。でも怖いから自分から死ぬ事も出来なかった。」

あたしは首を横に振る。

「高校出て、この会社に入って穂積に逢った。入社式であいつ見た時に、望と被ったんだ。凛とした立ち姿が。」

水嶋さんがあたしを見る。

あたしの目から零れ落ちた滴を、左手の甲で拭い取ってくれた。

「優しくて強くて、やっぱり憧れてるんだよね、穂積に。だけど、それ以上には思わない。・・・うん、あいつとヤリたいと思った事は無いな。」

自分の気持ちを確かめるように、最後に少しオドケタ口調で、穂積さんに対する気持ちを語ってくれた。

「・・・でも、今一番大事にしたいのはって聞かれたら、間違いなく穂積って答えるよ、青山さん。」


胸が苦しくって、涙も止まらなくて、あたしは唇を噛んで嗚咽を漏らした。

あたしが泣き止むまでの間、水嶋さんがあたしの背中を擦っていてくれた。


「穂積と青山さん、見てるとさ。俺、思うんだ。伝えられない想い抱えて傍に居るのと、通じ合ってんのに直ぐ傍に居られないの・・・どっちが辛いんだろうって。」

タクシーが又、信号で止まった。

「まぁ俺は・・・辛いのヤダから踏み込まないだけだけど・・・。」

「水嶋さんは、偉いよ・・・。穂積さんの幸せ、本当に、一番に願ってるんだもん。」

あたしがそう言うと、水嶋さんは何時もの笑顔でこう言った。

「穂積が好きになったのが青山さんで良かった。」



今、一番大事にしたいのは



浮かんでくるのは、たった一人。


今日も明日も紡ぐのは、この想いだけ。


それが頼りがいのない想いの糸だって良い。


その先にある眩しい程の道標を辿りたい。


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