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カウンターにあたし達4人は並んで座った。
目の前には、シェーカーを振る庄司君が居た。
庄司君の新しい赤坂のお店は、PAUSAの客層より少し年齢が高めで落ち着いた雰囲気だった。
あたしは俯く事しか出来なかった。
「皆何飲む?庄司君、あたしウーロン茶、智志はジンライムで良いの?水嶋君と奏ちゃんは?」
「・・・ウィスキーの水割りダブルで・・・二つ。」
「かしこまりました。」
美帆子さん以外の人間が困惑していると言って良かった。
庄司君が手際良く、お酒を差し出す。
あたしは水嶋さんがオーダーしてくれた水割りに口をつけた。
飲まずにこの場をやり過ごせそうになかった。
水嶋さんもそれが解っててオーダーしてくれたのだろう。
「ねぇねぇ、庄司君と奏ちゃんって付き合ってるの?」
「え?」
美帆子さんの突然の問いに、穂積さんがそう発した。
庄司君が、リネンで手元を拭いているのが目に入った。
「この前あたし仕事で目白行ってたの。そしたら二人で車、乗ってたよね?デートかなぁって。」
あたしは震える手を膝に押し付けた。
待って・・・その話は、待って・・・やだ。その話はやだよ・・・。
「それ俺と待ち合わせてた時じゃないの?」
水嶋さんがあたしの方を向いたのを感じた。あたしは顔を上げる。
「タマちゃんと会った後、俺と会った日だよ、覚えてないの?」
水嶋さんの目があたしに訴えてる。
「え?あ。・・・うん、あの日・・・?」
「池袋の改札で待ち合わせたのに、外から来たじゃん。あれ庄司君が送ってきたの?」
水嶋さんが庄司君に質問を投げた。
庄司君があの口角を少し上げる笑みを浮かべてそれに答える。
「偶然、会ったんですよ。PAUSAに行く途中だったんで車にお乗せしただけです。」
「え?!てか・・・奏ちゃんの彼氏、水嶋君なの?!」
美帆子さんが身を乗り出していた。
穂積さんはジンライムの中の氷を指で転がしてる。
「温かく見守って下さいね。」
水嶋さんが美帆子さんに向かって茶目っけたっぷりに言う。
「えー・・・そうなんだー。あたしてっきりー、お店の名前も奏ちゃんのアナグラムかと思ってたのにぃ。」
「Amadeus。神に愛でられし者って意味ですよ。何ですかアナグラムって。」
「違うんなら良いけど。何だ、水嶋君か。どっちでも良いけど人が幸せなのって何かこっちもハッピー!乾ぱーい!」
純真さと云うか・・・天真爛漫と云うのか、時に罪だとあたしは思った。
「美帆子さん、申し訳ないんだけど彼女ちょっと体調良くないんで先、帰らせて貰うね。」
「え?そうなの?!ごめんね無理に連れてきちゃって。」
「行こうか。」
あたしは水嶋さんに促されて、庄司君のお店を後にした。
「・・・誰が見てるか判んないな。」
水嶋さんの言った一言が胸に突き刺さった。
「Amadeus・・・ふーん・・・。」
「・・・水嶋さん、有難うございました。」
「タクシー拾おうか、青山さん。」
水嶋さんが公道に歩み出て、手を挙げる。
「青山!」
タクシーが直ぐそこで減速していた。
水嶋さんが、あたしの後ろの穂積さんを見ているのが、見て取れる。
穂積さんの手があたしの左手首を捉えた。
「・・・さっきの、どういう事?」
「・・・。」
「水嶋。」
「・・・タクシー来た。」
あたしの左手は自由になり、
あたしの想いは雁字搦めになった・・・-。