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会社から少し離れた場所にある地下のバーは、「PAUSAパウーザ」と言った。

重い木製のドアを開くと、そこにはあたしが未だ経験した事の無い大人の世界が待っていた。

ライトダウンされた店内の数ヶ所に小さな水槽が置かれ、仄暗く光を放っていた。

カウンターと、スタンディングと、ハイテーブルが有り、ほぼ満席だった。

バーテンダーがグラスを丁寧に拭きながら穂積さんに笑顔を見せ、カウンター席を促した。

穂積さんはあたしが腰掛け易いようにハイチェアーを回してからネクタイを少し緩め、あたしの右側に腰を下ろした。

「何、飲む?カクテルだったら何でも作ってくれるよ、ねぇ庄司君?」

ショウジ君と呼ばれた若い男の人は又笑顔で頷いた。

「あ、じゃぁキールをお願いします。」

「渋っ。ちょっと意外。俺はジンライム。あとチーズの盛り合わせとナッツ、くれる?庄司君。」

「かしこまりました。」

あたしの膝の上に置いてあったバッグを何も言わず、自分の右側の空いてるハイチェアーに置いてくれた穂積さん。

カウンターの上にリキュールの瓶が幾本も並び、ショウジ君の後ろには色々なお酒が手に取られるのを待っていた。

後ろに目をやると、穂積さん位の年齢の男の人や、あたしよりは年上の女の人達が沢山居た。

煙草の煙が蔓延した店内、お酒や香水の匂いが目や鼻を刺激した。

知らない世界に居る、ただそれだけで気分が高揚した。

「今日はお疲れ。」

「お疲れ様です。」

あたし達はグラスを傾けた。

「穂積さん、常連さんなんですね。」

「ここのオーナーが高校の時の同級生なんだ。最近、渋谷に2号店出したから、こっちにはあんまり顔出してないみたいだけど。」

「へぇー。」

あたしは乾いて、グラスに口をつけた。

クリームチーズの乗ったクラッカーを手に取る。穂積さんはピスタチオの殻を剥いていた。

「俺、青山の面接官の一人だったよ、覚えてる?」

「えっ?!」

「去年は人事課の方も兼任してて。・・・入室してきてね『本日は面接の機会を頂き有難うございます』って言ったの、青山。」

半年前の事。スーツを着たおじさん達に面接されたものの、緊張のあまり、内容はおろか面接官の顔など記憶に残っていなかった。

「横浜営業所が拡張の予定だったから、そこに行くかもだったんだけど、総務部長も青山を気に入ってね、本部に来てもらう事になったんだ。あ、これは他言無用だよ。酒の席の話。」

あたしはクラッカーを流し込むようにカクテルグラスを空けた。

「同じもの?」

すかさず穂積さんが聞いた。あたしは頷いた。

ショウジ君も心得た様に空いたグラスを下げ、直ぐに新しいものを作り始めた。

「最近の子は割と早く辞めたりするから、青山には長く勤めて貰いたいな。期待してるからさ。」

あたしは穂積さんを見る事が出来なかった。

嘘みたい・・・。

デキル人が、あたしに”期待している”と言った。

仕事を頑張ろうと思ってる矢先に、こんなエールはないよ!


それから、穂積さんと仕事の話やプライベートの話をした。

終電にギリギリ乗ったのは覚えてるけど、駅からどうやってアパートまで帰ってきたのか記憶に無かった。


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