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あたしはキーボードを打つ手を止めた。
水嶋さんは、誰かに気付かれる事を望んでた。
報われないと知ってて、想いを止める事が出来なかった水嶋さん。
・・・想いが報われたあたしは、幸せ?
穂積さんの為に何が出来る訳でもないあたしの方が、幸せ?
「・・・ま?青山?」
あたしは声のする方を見た。穂積さんがあたしに書類を差し出していた。
「あ。すみません。何でしょうか。」
慌てて書類を受け取る。
「PDFで各営業所に送っておいて、所長宛てに。」
「はい、お預かりします。」
あたしはコピー機に向かった。
水嶋さんがあたしに言った。
「最初は試したよ、穂積がどんな女、好きになったのかと思ってね。でも良い女だと思った。本当だよ。だから・・・穂積が幸せになれば良いって思った。」
「気持ち悪い?俺。」
優衣の事が頭を過って首を横に振るあたしを見て、水嶋さんは
「性同一性の友達居るんだって?タマちゃん言ってた。それで冷静に俺の事考えてくれてたのね、青山さんは。」
そう言って、あたしの頭を撫でた。
原稿をフォルダに落として、席に戻った。
社内メールを送信する。
・・・水嶋さんの幸せって、穂積さんの幸せなのかな。
その夜、珠紀にメールを打った。
水嶋さんと色々話せた、アリガトって。
早々に返信が来た。
話すつもりはなかったんだけど・・・ボロっと出ちゃった。ごめん。
でも、水嶋さんも奏達の関係を見守ってるみたいな感じだったから
大丈夫かなと思ったの。
今回ばっかりは珠紀の口の軽さに感謝・・・と言うべきだろうか。
あたしはウィスキーのボトルを取り出した。
100円ショップで買ったそれっぽいグラスに氷を入れて、ボトルを傾ける。
お水で割ると、綺麗な黄金色になった。
小さなストーブの前で、それに口を付ける。
こうこうと灯りを点け、観てもいないテレビを見つめた。
「にが・・・。」
美味しくもない、飲みたい訳でも酔いたい訳でもない。
暗くなるのが怖い。
布団に横になるのが怖い。
裸になる自分も怖い。
お酒が入ってからじゃないとシャワーすら浴びれない。
もうあれから毎日、ウィスキー(これ)が無いと眠りに就けないあたしが居た。