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「おはようございます。」

オフィスに行くと、穂積さんがあたしの斜め前の指定席に座っていた。

ホッとする半面、あたしは複雑な気持ちを抱えていた。

穂積さんが笑顔で応えてくれた。

「山本さん、昨日はお疲れ様でした。」

あたしは昨夜の残業で山本さんより先に会社を出た。

吉岡さんに頼まれた、水嶋さんの携帯も山本さんに託した。

「あーお疲れした!あの後、水嶋さん差し入れ持って来てくれたんだよ。携帯も返しといたよ。」

「ありがとうございました。」

「それとコレ、青山さん分。」

コンビニのビニール袋をあたしへと差し出した。

中を覗くと、チョコレートやキャンディ、キャラメルが入っていた。

「・・・子供?」

「一回りも違うんだから、子供扱いだな、完全に。」

山本さんはそう言いながら笑ってた。

一回り・・・そう穂積さんともそれだけ違うってこと。20(はたち)って、やっぱり子供かな。

「青山さん、これ今月の領収書、小口で入力しておいて。」

穂積さんの声がした。

「あ、はい。お預かりします。」


穂積さんが経理の仕事をした今日、山本さんもあたしも久しぶりに定時に退社出来た。

ビルを出て、寒さに身を縮めた。

バッグの中で携帯が震えた。それを取り出しメールを確認する。

穂積さんからのメール。

”水嶋と三人で飲みに行かない?”

暫く迷って、”帰宅します”と返信をする。


どんな顔したら良いの・・・。


又携帯が震える。今度は着信だった。

「もしもし・・・。」

「どうした?どっか具合悪いの?青山。」

「ううん違うんです。・・・今日、借りてたDVD返さないと延滞かかっちゃうんで。」

「・・・そっか。今日あんまり元気無いみたいな感じしたから、ちょっと気になってたんだ。」

「大丈夫です。すみません。明日は元気に頑張ります!」

「うん、じゃぁ明日。」

電話を切ると直ぐにメールが届いた。

久しぶりの珠紀からのメールで、”今ブクロ。東口で待ってる”って、強引な奴だな。


直ぐに珠紀と合流し、あたし達は居酒屋で再会の乾杯をした。

あたしはお通しを口に運びながら、これまでの事と水嶋さんの事を打ち明けた。

「・・・やっちゃったか、不倫。前に会った時、しないって言ってたの誰だっけ?」

珠紀が、メニューを見ながら淡々と言った。

「苦しい想いしてんのは解った。いくらでも話は聞くよ。・・・今の問題は、その水嶋って人ね。」

「うん・・・。」

「まぁ優衣の事もあるから、もう大抵の事では驚かないし、理解力もあるつもりだよね、あたしら。」

「うん・・・。」

優衣。確か本名は、優也。

高校卒業までは、その名前で生きてきましたって、専門の初めてのホームルームで堂々と話した優衣。

性同一性障害を抱えて十八年生きて、両親の為にも隠してきたって言ってた。

でも、それでもやっぱり辛くて孤独で、やっと吐き出して、両親にも理解が得られて性転換手術を受けて改名もしたって話をさらっと、珠紀とあたしに話してくれた。

さらっと短時間で話せる事でも無いけど、優衣はあたし達を信頼して、そう語ってくれた。

最近の世間の風潮から決して珍しくもない話かもしれないけど、やっぱり目の当たりにすると、その状況を好奇な目で見る人も多いのも確かだった。

「どうなの?ゲイなの?」

「ゲイかバイだと思う。」

「水嶋が穂積を好きなのは間違いない訳?」

「・・・十中八九。」

「ご注文お決まりですかー。」

店員がハンディを開いて、片膝だった。

「オリジナルサラダともちもち明太子と、ポテトフライ、後軟骨の唐揚げね。」

「かしこまりましたー。」

店員が下がると、結論を急かすように珠紀が聞いてきた。

「で、奏はどうしたいと思ってるの?」

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