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「インチキくさーいっ!!」
アルコールの循環が良い珠紀が真っ赤な顔をして、あたしの話に水を差した。
「インチキ・・・って。」
「すみませーん、モスコもう一杯くださーい!珠紀は?」
「あたし生中。」
専門を卒業してから親友との飲み会。参加者は珠紀と優衣とあたし。
今の酒の肴は「穂積智志」。
先日のコンビニでのスマートな親切の話をしたところ、珠紀はインチキだと言い放った。
「仕事が出来て地位があって顔もそこそこ良い上に、親切って有り得なくない?!相当、女喰ってるね、そいつは。」
優衣は唐揚げに付け合わせのレモンを絞った。
「奏はさ、遠藤と別れたばっかで今、心がぽっかりしてんのよ。だからちょっと優しくされてフラっとしてんのよ。騙されない事だね。」
あたしは梅酒のグラスを空けた。
「フラっとしちゃいけないの?別に好きとかじゃなくて、憧れでしょ、憧れ!」
「そういうのあっても良いよね。」
優衣が珠紀の前に生中を置き、小皿に唐揚げを取り分けた。
「だよね?優衣。」
「あたしもさー、朝の電車でね、毎日会う男の人が居るんだけど。あ喋った事は無いんだよ?だけどね、居ないとあれ、どうしたのかな?とかさ、気になったりしてね。”恋”じゃないけど、心が浮足立つ感じ?無いよりはあった方が良いよねぇ。」
「解るー!」
あたしは優衣に抱きついた。
「ま、しっかり者のあんたが”不倫”とかはしないと思うけどね。」
珠紀があたしの肩をポンと叩いた。
「不倫なんかしないよ。そんなのー。今は仕事頑張る!」
あたし達3人は専門に入学してからずっと仲良くしてる。
卒寮して住む所がバラけたから、頻繁には会えないけど永く付き合える友達。
緊張の社会人生活の中で唯一、心が解きほぐされる時間かもしれない。
「西野は?今日休み?」
「あ、はい。体調不良って。」
「そっかぁー・・・うーん。金田は、今日西東京に行っちゃってるだっけ?」
穂積さんは、オフィス内を見回しながらあたしに話しかけてきた。
「はい。どうしたんですか?」
「どうしても今日中に今月の売上まとめたいんだよね。あぁ・・・悪いんだけど、今日残業出来る?青山。」
「はい、大丈夫です、やらせて下さい。」
関東に6の営業所があり、そこから毎日データで送られてくる売上を帳票に打ち出し、経理の端末へ入力する作業がある。
いつもは慣れて作業の早い西野さんが任される事の多い仕事だ。
「船橋と柏のデータは入ってるみたいなんだけど、他のとこが届いてないから催促して。解るよね、青山?」
「はい。」
定時の17時30分を過ぎて始めた仕事は、結局21時を回って終了した。
「ハァー・・・終わった。」
「お疲れ、青山。」
あたしがデータ入力してる間、穂積さんは小口や経費のデータを整理していた。
「穂積さんは終わりました?」
「うん大体ね。後は明日来てやるかな。急にさ、事業部長に月曜に使うからって言われてね。助かったよ、青山。」
「小口の方、手伝いましょうか?」
7階の穂積さんとあたしのデスク上以外、電気が消されていて、窓にぽつんと二人の影が映し出されていた。
「良いよ、大丈夫。それより本当に今日、予定とか無かったの?金曜だよ?青山。」
「家に帰っても金曜ロードショー見るだけですよ。」
あたしはデスクの上の書類を片付け始めた。
「あ、そう。じゃぁちょっと飲みに行こうか?」