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心地良いあったかさの中であたしは目覚めた。
「ん・・・。」
体を起こす。見た事の無い室内。あたしは記憶を辿った。
ベッドから降り、閉じられたドアを静かに開けた。仄暗かった。
右手に玄関が見えた。あたしの靴と男物の革靴が並んでる。
左手に足を進めた。キッチンがあって、その向こうにダイニング、リビング。
ダイニングテーブルの上に、見覚えのある携帯とマルボロライトの箱と財布。
「・・・そっか・・・。」
大きなテレビの前に置かれたレザーソファーの上で布団に包まっている水嶋さんを見つけた。
壁際にローチェストが置かれ、その上でデジタルの時計が1時を表示していた。
あたしは部屋の中を見回した。
男一人で暮らしてる割に綺麗だなぁ。
窓際に立ち、カーテンを少し曳いた。日付は変わってるのに、街は眠っていなかった。
「此処、何処かなぁ・・・。」
「大塚。」
振り向くと水嶋さんが、布団から顔を出した。
「ごめん、俺ん家連れ込んじゃって。」
「何で水嶋さんが謝るんですかっ。あたしこそ、又寝ちゃって・・・。」
「・・・本当だよな、どんだけ男の前で無防備なの、青山さん。」
ソファから立ち上がり、水嶋さんは冷蔵庫を開けた。
水嶋さんはしっかり、スウェットに着替えていた。
「何で笑ってんの?」
「穂積さんにもそんな風な注意された事あります。世の中には厭らしい事しか考えてない男も居るんだよって・・・。」
「本当だよ、青山さん。」
・・・あれ?
水嶋さんはペットボトルのお水を飲んでから、テーブルの上の財布を開いた。
「タクシー代、手持ち足りなさそうだったから俺ん家、来ちゃったんだけど、今からタクシー拾って帰るよね?」
「あ、はい。大丈夫です。大塚だったら中板迄近いですよね?お金足りると思います。」
「そう?」
あたしは椅子の上に置かれていたコートと鞄を手に取った。
テーブルの上の煙草が目に付いた。
「タクシーんとこまで行くよ。」
「大丈夫ですよ、水嶋さん、髪濡れてる。風邪引きますよ?」
「あ?あぁ、じゃぁ此処で。」
「はい、ありがとうございます。」
あたしは靴を履き、水嶋さんのマンションを後にした。
直ぐにタクシーに乗り込んで、あたしは思った。
水嶋さんは、好きだった人が死んで失くすのが怖くて、本気で人を好きにならない体質になったって言ってた。
でも、社内の噂では女をとっかえひっかえの軟派って。
それはやっぱり噂に過ぎないんだ、とあたしは思った。
女っ気の無い部屋。
あの口癖。
同じ・・・。