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朝、目が覚めると居る筈の穂積さんが隣に居なかった。

あたしは浴衣の乱れを直し、上体を起こした。

「おはよう。」

浴衣に丹前を羽織い、窓を背に穂積さんが微笑んでいた。

「おはようございます。」

昨夜の事が思い出され、照れくさかった。

「雪、積もらなかったよ、青山。」

雪の命は、儚く切ない。

そして、あたし達の時間もそれと同じ。

「あたし、お風呂行ってこようっと。」

穂積さんとの時間はもう直ぐ終わる。困らせたくない。だから寂しそうな顔はしない。


チェックアウトの時間になり、あたし達は来た時と同じ様にリアシートに小さなバッグを置き、車へと乗り込んだ。

そして、東京へと戻った。



13



帰宅して、一晩ひと気の無かったあたしの小さな部屋は冷蔵庫の動作音だけが響いていた。

静かで寒い部屋。

穂積さんは、美帆子さんの居る暖かい家に帰るのだろう。

そんな事を思って、あたしは頭を振った。

こんな風に思うなんて、自分が凄く嫌な人間に思えて仕方が無かった。

穂積さんに奥さんが居る事は知ってた。知ってて好きになったんじゃん。

穂積さんがあたしを好きだと言った。それだけで幸せな筈でしょ・・・。



月曜になって、又あたしは通勤電車に揺られ会社に向かう。

コンビニで購入した新聞に、岩根部長の裁判の記事が小さいが載っていた。

会社の売り上げが最近減っているのは、この事件である事は否めない。

穂積さんのスケジュールに裁判所と記されていた。

「おはよう、青山さん。」

「山本さん、おはようございます。」

「今日からみたいだな。」

「・・・ですね。どうなるんでしょう。」

あたし達は重苦しい気持ちを抱えて、一日のスタートを切った。


「青山さん、悪いんだけど、これ開発に持って行ってくれない?」

「あ、はい、お預かりします。」

山本さんが出力した売上の推移表のファイルを片手にあたしは6階に下りた。

営業の人は誰もおらず、あたしは吉岡さんにファイルを手渡した。

「お願いします。」

「はい、ありがとうございます。・・・青山さん?」

「え?」

「・・・あたし、7階に居る訳じゃないから手助けとか出来る訳じゃないけど、あたしは穂積さんのやった事間違ってないと思うよ?」

「・・・吉岡さん。」

「今はさ苦しい時だと思うけど、あたしら開発も頑張ってるから青山さん達も頑張って。」

「ありがとうございます!」

あたしは心底嬉しくなった。解ってくれてる人も居るんだ!


その夜、ポストにエヴリィが投函されていた。

表紙に”今即買いの家具”と大きく書かれ、あたしは心が早って頁を捲る。

木下さんの顔写真が小さくだけど端に載っていた。

「協力・・・有限会社ウォーム・ファニチャー代表・・・木下響子・・・。」

特集には、ワンルームに置いてもコンパクト且つ機能的な輸入家具や、こだわりのアンティーク家具、匠の作る日本家具が掲載されていた。

木下さんのコメントの中で、以前いた会社つまり、うちの会社の事に触れていた。

「この会社で学んだ事の多くがあたしのインテリアに対する知識。プランナーになる様勧めてくれた同期には感謝。」

編集者の手記に、自分へのご褒美に暖かいファニチャーを手に入れてみようと思ったと記されている。

木下さんも、美帆子さんも、穂積さんのバックアップをしているのだと思った。

ただ言葉で”頑張って”でも”応援してる”でも無い。

それを形にして、穂積さんの背中を押してる。



じゃあ、あたしは?



あたしは与えられた仕事をこなして、メールで「頑張って」と言う。


理解してくれる人が居たとはしゃいでる。


あたしが、穂積さんに出来る事って何?

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