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旅館のチェックイン迄、時間があったので蕎麦屋で少し遅い昼食をとった。

「美味しいー!こんなに美味しいお蕎麦食べた事ない!」

「あ本当だ、これ美味い。」

「ね。」

あたし達にはこういう時間が少な過ぎる。

穂積さん、あたしが欲しいのは、穂積さんとの時間だよ。



チェックインした旅館は門を潜ると古き良き日本と言った風情のある宿だった。

「いらっしゃいませ。」

女将やフロントスタッフが笑顔であたし達を出迎えた。

穂積さんとあたしがどう見えているのか、少し気になった。

穂積さんが記帳を済ませ、部屋へと案内される。

純和風なお部屋で、日本庭園が目の前に広がっていた。

「わーきれー・・・い・・・。」

あたしは直ぐに窓辺に足を進めた。

「当館の自慢の庭園になります。」

スタッフの女性がそう説明した。

「穂積様、お食事はお部屋にお持ちいたしますが、お時間はどういたしましょうか。」

「少し早いけど、17時半位でも大丈夫?」

「ええ、ご用意させて頂きます。」

「じゃぁそれでお願いします。」

スタッフが部屋から下がり、穂積さんはあたしの傍に歩み寄った。

「お風呂、行ってきて良いですか?」

あたしの顔を覗き込んで笑顔で聞いてきた。

「勿論。運転、お疲れ様でした。あたしも運転出来れば良かったんですけど。」

「・・・。前、見えないでしょ?」

「・・・。失礼ですよ、穂積さん。」

あたし達は笑った。


それぞれに温泉を楽しみ、夕飯時には日本海の魚や季節の山菜を頂き、贅沢な時間を過ごした。

「日本酒、初めて飲んだけど美味しいかも。」

「新潟で飲むからってのも、あるんじゃない?」

「そうかも。友達に酒好きが居るからお土産に買って帰りたい。」

「水嶋にも何か買って行かないとな。・・・今日水嶋と温泉に来てる事になってるんだ。」

美帆子さんについた嘘。

「そっか。」

スタッフの人がお膳を下げて居る間、あたし達は窓際の掘り炬燵の中に身を寄せた。

「炬燵って、ほっこりする。」

あたしは窓の外を見ながら、そう呟いた。

「では失礼致します。」

部屋は、二人の空間になった。

急に静寂が襲ってきて、あたしは持て余すように立ち上がり、障子を全開にした。

「・・・雪・・・。」

「え?」

穂積さんもあたしの傍で、降り出した雪を確認した。

ゆっくりと舞うようにそれは落ちてきた。

雪はどんどん空から舞い降りた。

庭園に落ちると雪は白色透明になり、見えなくなった。

「泣いてる?青山?」

あたしは指で頬に触れた。頬を伝う涙に驚いた。

「どうした?」

「あたし、きっと一生この景色を忘れる事ないと思う。」

「・・・青山?」

あたしはちょっと笑った。

「幸せなの、今、凄く。こうして穂積さんと居られるのが幸せ。」


又、同じ景色を見る事が出来るのかな・・・。


あたし達の想いも、いつか消えてなくなるのかな・・・。

あたしの小さな想いのカケラも、自分の中だけに納まりきれない程の大きな想いになるのかな。


雪が融けて、土へと還る。

寒さが深まれば、雪は降り積もるだろう。



穂積さんとあたしは此処に在る確かな体温を確かめ合うように、深く深く繋がっていた。

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