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自販機でコーヒーと紅茶を買って、車に又乗り込んだ。

体は完全に冷えていて、ペットボトルの紅茶をあたしは両手を暖めるように包み込んだ。

かなで。」

あたしは声のした方を見る。穂積さんがキーを回し、エンジンが回転を始めた。

「良い名前だな。」

穂積さんがあたしを見た。

穂積さんがあたしの名前を呼んだ。初めてあたしの名前を口にした。胸がいっぱいになった。

「本当は名前で呼びたいんだけどね。」

「・・・青山って呼ばれるだけでも、嬉しいですよ?あたし。」

「そっか。じゃ行こうか。」

「うん。」

何だか泣きたい気持ちになった。名前を呼ばれただけで、こんな感情が湧き上がってくるなんて・・・。

あたし穂積さんをこんなに好きなんだなって思い知らされた。


ラジオから定番のクリスマスソングが流れてきた。

「もう直ぐクリスマスなんだな。」

って穂積さんが言った。

去年のクリスマスは幸成と一緒に居たんだっけ・・・。たった一年前の事なのに遠い昔の話に思えた。

「何か欲しい物とか、ある?」

あたしは首を振った。

「ない、かな。」

「少し考えてみて?」

「うん。」

あるけど、それは強請っちゃ駄目なんだよね。解ってる。

解るけど、こんな素敵な時間をくれたら欲張っちゃうよ。

「穂積さんは?ある?」

「・・・ない、かな。」

ハンドルに軽く片手を宛がって遠くを見て、あたしと同じ答えを返した。


「仕事どう?いや大変なのは解ってるんだけど・・・。」

「大変。でも頑張れる。穂積さんも頑張ってる事思ったら、あたしも頑張れる。山本さんも凄く頑張ってるよ?」

あたしはドリンクホルダーのコーヒーを手に取り、プルタブを引いた。

そしてホルダーに戻す。穂積さんがそれに手を伸ばした。

「ありがとう、青山。」

「正直、山本さんがあんなに頼れる先輩だとは驚きです。」

「それは同感だな。入って4年・・・うん、良い仕事っぷりだと思う。」

「山本さん、それ聞いたら喜ぶと思う。」

「でも俺の文句も言ってたろ?」

「・・・えへへ?」

「言うね、あいつは。でも、そうやって発散出来てるって事なんだよね、山ちゃんは。」

「うん、口で言うほど思ってない感じがする。あ穂積さん、水嶋さんにもっと経理の仕事見ろーとか言われたの?」

「え?水嶋に?」

ちらっとこっちに視線を投げた。

「うん、だって一昨日残業するあたし達を見兼ねて、残業してるって事は明らかな人手不足だって、山本さんとあたしに倒れられたら困るから、穂積にちゃんと言っとくって・・・。」

「何にも言われてないよ。」

「じゃあどうして昨日の朝、早く出勤してたの?最初から来る予定?」

「・・・メールに青山の寝顔の画像が送られてきたんだ。」

「え?!」

「ほら、タクシーの?その5分後に山ちゃんの寝顔も送られてきたの。」

「山本さんも?」

穂積さんは口の端を少し上げた。

「改めてね、あー俺二人に無理させてんだなって・・・。俺のやった事って、どうだったの?って・・・。」

「間違ってない。穂積さんのした事は間違ってない。」

「・・・水嶋もそう言ってくれた。だから俺も自分がやった事信じて、今迄以上に仕事やらないとって思ったんだ。最近ちょっと気持ちが揺らいでたんだけど、引き締まった。」

水嶋さんもそういう風に穂積さんの背中押してあげてたんだ。

「あたしも頑張る。」

「力強いけど、青山は十分頑張ってるよ。」

「水嶋さんと同じ事言うー。」

あたしは笑った。

「水嶋?」

「うん、水嶋さんって本当にあたし達の強い味方な気がする。」

「・・・うん、そうだな。」


車は湯沢インターで降りた。


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