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総務部長?

「岩根さん、全部認めたの?」

「社長と副社長が雁首揃えて、岩根さんちに行ったんだってよ。」

「家に?」

「そう。奥さんも同席させて。で、こっちが揃えた書類とか出して、やったのかって聞いたら、泣きながらやりましたって・・・。」

「お前の前の経理課長とか気付かなかったの、穂積?」

「前の課長が辞めて、俺が経理と人事の兼任やり始めた時から、ちょこちょこやってたらしい。兼任だからチェックが甘くなると踏んでたんだろ。・・・実際甘かったし・・・。」

放心状態。

横領とかって、そんなのテレビの中でしか聞いた事ない言葉だった。

「どれくらい?」

「3年間で500万近いんじゃない?」

「・・・岩根さんって、相当長く総務居る人でしょ?丸く収まんなかったの?」

「小さい会社なら良いけど、うちは親族以外の株主の居る一応中堅企業なんでね。ちゃんとやりますってとこ、見せないといけないみたいだよ?」

「裁判とか起こす方が面倒じゃねー?500万だったら何とか返せるんじゃないの?」

穂積さんが煙草を揉み消しながら首を振った。

「奥さんが株で失敗、子供の私大の学費。自分の給料で賄いきれないから、会社の金に手付けたんでしょ。今の岩根さんに返済能力は無いよ。」

「はー・・・そんな事が身近で起こるとはね。・・・青山さん大丈夫?」

あたしは名前を呼ばれて、現実に引き戻された。

そんな事があったなんて・・・。

「お前が部長ね・・・。功労賞ってとこか?」

あたしは水嶋さんを睨んだ。

「水嶋さん、功労ってどういう事ですか!穂積さんがどんな思いでいると思うんですか?!」

一斉に視線を浴びた気がして、あたしは声のトーンを少し落とした。

「総務で一緒に仕事してる人を疑うなんて、誰だってやりたくないじゃないですか。」

「・・・うん、そうだ、ごめん。穂積。言葉を間違えた。」

「いや・・・青山が言ってくれたから救われたよ・・・。」

穂積さんはお猪口に手を掛けて、そう言った。

「正直しんどかったんだ。4月に専任になって金の流れがおかしいと思って調べ始めて、岩根部長の名前が浮上して・・・。調べれば調べるほど疑う余地も無くなった。正義を語るつもりはないけど、見過ごすのも出来なかったんだ。」

「・・・お疲れっていうのは未だ早いんだろうな。」

「そうだな。」

あたしは、徳利からお酒を注いだ。

「又忙しくなる。」

穂積さんが真っ直ぐにそう言った。


「気をつけて帰れよ。」

居酒屋を出て、水嶋さんは駅へと向かった。

穂積さんとあたしは並んで歩きだした。

「この後どっか行く?」

穂積さんが聞いてきた。この居酒屋の近くにPAUSAがある事に二人は気づいた。

「・・・庄司君、店辞めたんだってね?」

「・・・前に聞きました。」

「赤坂のお店には行ったりした?」

あたしは首を振った。穂積さんは安堵の色を見せた。

「庄司君のところには行かないで欲しい。」

「え?」

「何の障害もない恋愛が出来る庄司君とは会って欲しくないんだ。」

又穂積さんはさらっと言った。

あたしは気恥ずかしさを隠すように、それを茶化そうとした。

嫉妬(やきもち)ですかぁ?」

あたしは笑って穂積さんを見上げた。穂積さんは怖いぐらいの真剣な眼差しをあたしに向けていた。

「いけない?俺が庄司君に嫉妬すること?」

「嫉妬って・・・。」

穂積さんはあたしの頬を手でなぞった。

あたしを動けなくしてしまう魔法の手。


誰が見てるかも分からないこの街で、あたし達は長い長いキスをした。

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