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その晩、神谷さんからメールが入った。

神谷さんに言える訳もない。

鏡に映った簡単には消すことの出来ない痕を眺めて、悔しくて涙が零れてきた。


行かなきゃ良かった。

行かなきゃ、美帆子さんに会う事も、神谷さんの愛する人を軽蔑する事もなかった。


あたし、何してんの・・・。





1時間程前、木下さんが営業開発部の事務員が二人ともおらず、人手が足りないからとあたしが急遽代わりの事務員になる事になった。

6階で仕事をするのは初めてだった。

電話は引っ切り無しに鳴り、大きな声も飛び交うなど、活気がある。

うちの会社の顔とも言える営業開発部と情報システム部、広報部混在のフロアだ。

正直、助かった。

お盆明けの今日、穂積さんは桐生さんのマンションから急に帰ったあたしに理由を尋ねたそうにしていた。

それから上手く逃れる事が出来た。

「青山さん、これお昼までに作っておいて。」

「青山さん、ここに電話して納期の確認。」

「青山さん、西東京の楠原さんのスケジュール聞いといて。」

木下さんから容赦なく、仕事を頼まれた。

最初は敵視しての意地悪かとも思えたが、多忙でそんな事も考えられない程だった。

一段落がついたのは、定時を過ぎた18時頃だった。

「ふぅー・・・。」

大きな溜め息が思わず出てしまった。

木下さんの視線を感じてあたしは慌てて、姿勢を正し口元を押さえた。

「お疲れ様、青山さん。助かったわ。」

「いえ、お疲れ様です。」

あたしは席を立った。

「貴方、営業事務の方が向いてるんじゃない?」

木下さんは書類とデスクトップを交互に見ながら言った。

あたしが返答に困っていると、もう一度「お疲れ様」と言った。


木下さんはお盆前のあたしのミスについてチクチク言うような事はなかった。

むしろ今日に至っては、普段総務部に居るあたしに仕事を任せてくれたと言って良かった。

木下さんに対する心象は良くなった。

仕事に熱心な人と一緒に仕事が出来るって事は、やっぱり良いことだと思った。



一度総務部に顔を出してから帰ろうとすると、西野さんに丁度すれ違った。

「あー青山さん、お疲れー。下、大丈夫だった?」

「あ、はい。一応何とか。」

あたしは苦笑いをした。

「穂積さんが話あるって言ってたよ。」

「・・・何だろ、あたし何かやっちゃったかな。」

「別に怒ってる風とか、そんなんじゃなかったけどね。じゃお先。」

「はーい。」

あたしは”どういう自分”を演出しようかと考えた。

7階に戻ると、穂積さんは自分の席に座っていなかった。

辺りを見回すと、社長室のブラインドの向こうに穂積さんを見つけた。

暫くその場で待ったが、話は終わりそうになかった。

あたしはホッとして、更衣室に向かった。


キャミの上にカーデを羽織る。ロッカーの小さな鏡でさえ、それを見つけるのは容易だった。

3日前に桐生さんに付けられた”痕”。

今でも薄らと色が残っている。制服のシャツを着ていれば全く問題ないが、ノーカラーだと隠しきれなかった。

あたしはストールを首に上手に巻きつけた。

無意識に首元を抑え、会社を後にする。

ロビーの自動ドアが開き、外に吐き出されたあたしを知った顔が待っていた。

「・・・庄司君。」


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