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神谷さんと桐生さんが付き合ってるというのは聞いていた。

けど、桐生さんが既婚者だったというのは初耳だった。

神谷さんがPAUSAにスタッフとして入って、桐生さんと出会い恋に落ちてしまった。

・・・神谷さんは桐生さんが妻子持ちだと当初、知らなかったとか。

桐生さんは神谷さんと関係が出来るまで、妻子がいる事を知らせなかった。

加えて、神谷さんを愛してるけど子供に罪はない、奥さんとは離婚しないと言い切った。

神谷さんは桐生さんをズルイと思った。

けど、桐生さんが傍に居ない自分は想像できないと、あたしに言った。

「・・・でも和真君はやっぱり、ズルイのよ。奥さんにバレルのが怖いからP2をオープンさせて、あたしと距離を置いた。」



神谷さんの家からの帰り道、あたしは電車に揺られながら考えた。

よっぽど、桐生さんの事を愛してるんだろうなぁ。

自分を愛してると言った男が、愛してもいない妻の元へ帰っていくのを黙ってみてるなんて・・・。

しようと思ってした”不倫”じゃない。

なろうと思ってなった”愛人”じゃない。

それでも、手に入れる事の出来ない人をいっつも待ってる。

神谷さんの辛い気持ちを思うといたたまれなくなって、泣きたくなった。


あたしは穂積さんのカーデが入った紙袋の取ってを強く握りしめた。

大丈夫。

あたしは未だ、そうじゃない。

憧れの域を脱した訳じゃない。






月曜定例の朝会が終わり、席に座ろうとすると7階のフロアの入り口の壁をノックする音が聞こえた。

殆どの社員が腰を下ろしかけたという状況の中、営業開発部の木下さんが凄い形相で、あたしの元へと歩いてきた。

「青山さん、貴方先週の金曜日にサーバーの営業開発のファイル開きっぱなしで帰ったでしょう?!」

あたしは慌てて、サーバーのファイルを開いた。

営業開発部のファイルが、あたしの名前で『編集中』となっていた。

確か、山本さんから頼まれて営業開発部の売上金額の訂正を行ったのだった。

サーバー内のファイルは共有ファイルなので、誰かが開いていると勿論、他の人間は開くことさえ出来ない。

あたしは頭が真っ白になった。

木下さんが何かあたしに向かって言ってるのは判るけど、自分がミスをした事実だけが重く重く圧し掛かってきた。

フロア全員が事の成り行きを静観している。

木下さんが仕事に関して、自分にも他人にも厳しいのは周知の事実だ。

あたしの目の前の席の山本さんが何か言いたそうにしていた。

見兼ねたように穂積さんが木下さんとあたしの間に割って入った。

「木下。すまない、大変申し訳ない事をした。」

「申し訳ないどころじゃないわよ!こっちは今日の午前の会議に使おうと思ってたのよ?!土曜にわざわざ休日出勤までして議案、作ろうと思ってたのに!」

益々、自分のした事の重大さを思い知らされた。

「きの・・・。」

「申し訳ありませんでした!」

あたしは頭を下げた。

「今後こういうミスは二度といたしません!本当にすみませんでした!」

「青山・・・。」

木下さんは溜め息をついた。

「・・・解ったわ。今回は、社内に関する事だから大目に見るわ。でも次にこんなくだらないミスをしたら、あたしは貴方を許さないわよ。穂積、貴方も上司なんだから監督責任よ。」

そう言い、木下さんは総務部を後にした。

社員の緊張が一瞬にして解けた。

西野さんがあたしの肩を叩いて

「・・・大丈夫?」

と聞いた。あたしは頷いて、穂積さんにも謝罪した。

穂積さんが

「今後は気をつけるように。」

と静かに言った。

社内にいつもの活気が戻った。

あたしは、先週に頼まれていた仕事の続きを始めた。


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