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何で酔いたいのか、それは神谷さんも庄司君も詮索してこなかった。
差し障りのない程度の会話をして、今度のバーベキューは、桐生さんのお家でホームパーティになったって話をした。
本当に途中から、何も考えられなくなった。
手の感覚が鈍って、ウィスキーで満ちたグラスを何とか持ち上げた。
髪を耳に掛けると左腕から、穂積さんの香りがした。
・・・眠りたい・・・。
あたしは両腕を枕代わりにして頭をもたげた。
穂積さん・・・。
遠くの方で神谷さんの声が聞こえた気がした。
どれくらいの眠りから覚めたのか、上体を起こすと、自分がベッドに居る事に気づいた。
胸がムカムカして、誰かに頭を叩かれてるみたいだった。
もう一度布団に倒れ込むと、茶色い長い髪の毛が目に入った。
あたしはよく考えた。
自分の家じゃない。
女性らしい華奢な体が寝返りをうった。
「・・・ん。あ・・・奏ちゃん。」
「神谷さん・・・。」
神谷さんが起き上ったので、あたしももう一度起きる事にチャレンジしてみる。
「あ、良いよ。無理しなくて二日酔いでしょ?」
Tシャツとハーフパンツというラフな格好に、似つかわしくない抜群のスタイルがカーテンの隙間の太陽に浮かび上がった。
長髪をゴムでまとめ上げ、振り返る。
「今、お水持ってくるよ。」
部屋のドアを開けたまま出て行く。そこからキッチンに立つ神谷さんが見えた。
あたしはベッドに腰を掛けた。
自分もTシャツとハーフパンツの姿なのに気づいた。
「・・・カーデ・・・。」
あたしは頭を押さえながら辺りを見回した。
あたしのシャツもスカートも、穂積さんのカーディガンも見当たらなかった。
神谷さんがコップに水を汲み、戻ってきた。
「はい。お水。」
「あ・・・ありがとう。・・・神谷さん、あたしの洋服・・・。」
あたしはコップを受け取りながら聞いた。
「何て顔してんの。」
神谷さんはそう言いながら、あたしの隣に腰掛けた。
「・・・奏ちゃん。あたしも庄司君もお店ではお客様のプライバシーに自分からは突っ込んで聞かない。」
神谷さんと目を合わせてるのが怖かった。
「今こうして此処に居るのは、あたしの友達の奏ちゃんだと思って、あたしは言うよ。」
あたしは何かを言いたかったけど声にならなくて、小さい子がイヤイヤをする様にただ頭を振った。
「穂積さんを、好きになるのはどうかと思う。」
違うよ、違うよ、神谷さん。
あたし、穂積さんを好きな訳じゃない・・・。
尊敬してるだけだよ。頼れる上司なだけだよ。
そうやって口に出して否定したいのに、それが出来ないでいる。
すると神谷さんがあたしの髪を撫でながら言った。
「・・・ごめん、奏ちゃん。起きぬけに説教みたいな事、言っちゃって・・・。ただ辛い思いするのは、奏ちゃんだと思って。・・・和真君、あ、オーナーの桐生和真ね。奥さんも子供も居たの。」
それは衝撃の告白だった。