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運び屋ショウカと奴隷少女  作者: 不眠蝶
10/10

3-1 標準的な?運び屋の日々

今日は初めて外の世界へ出る日だ。小遣いで鞄も買って、少し大きめのスケッチブックが入るようにした。25番地から離れるのは少し寂しい気もするが、それはここが家だと認識出来るくらいにいられた証拠だ。もう春も終わりかけ、緑の方が多くなり始める時期だ。知らない景色をまた一つ見られるのだが、残念ながらもっと見たい景色がある。運び屋としての仕事が今日からまともに始まるのだ。

橋の上に着くとリヤカーと一緒に荷物として降ろされると、ショウカに運ばれるがままにターミナルへと導かれていく。リヤカーの上は余り心地の良いものではないが、レイクと一緒にしがみついているとあっという間にターミナルへと辿り着いた。手続きをショウカがしている間にレイクが降りて、リヤカーを牽いていく。いつも通りターミナルの船の荷物部分に入ると、真っ暗な空間が広がっていた。

「ちょっと怖いね」

「慣れればなんてことないよ!これから行くのは…何番地だっけ?」

「えーっと…36番地だったかな。特にこれといって目立った所はない世界だったと思うけど」

「さんじゅう…ろく番地ね!そこなら行った事あるかも」

ここに入れられる人というのはいないので二人だけのスペースだ。他にも荷物が運ばれてくるが、奴隷が運ばれてくる事はない。奴隷の異世界運搬は一部の異世界でしか行われてないので荷物としてここに入れてくる人が少ないのだ。大体は主人と一緒の席に着かせてもらえるのだがショウカは席確保のチケット代を渋って、荷物として運ばせる事が常態化していたのだ。

ガタン、と音が響くとレイクはレイラに伏せる様に手で指示した。すると、ガタガタと船体が揺れ始め、一瞬の強風の様な威力を感じると再び、ガタン、と音が響いた。どうやら着いたらしい。余りにも一瞬の事で何が何だか分からないのだが荷物置き場であるこの場所が開いた。光が入ってくるが、その眩しさよりも空気の違いに驚いた。ついさっきまでいた25番地の空気とはまったく違うのだ。それは緑の匂い、25番地の緑とはまた違った匂い。どうしてだろう、懐かしさを感じるような匂いだった。

荷物降ろしが始まると、レイクはリヤカーの取っ手を取り、自ら降りていった。ショウカとはすぐ合流出来た。探す為に首を軽く動かしただけで目に入る位置にいたからだ。その目は少し死んでいる、色が無い、と言った方がいいのだろうか。不思議に思っているとどうやらその証拠が現れたようだ。

「はろろーん!時間通り、きっちり来てくれたね」

「…はぁ。最近多くないか?」

そこにいたのはリホ・リーブティー。リージョンキーパー総帥として名の知れたとても偉い人である。ショウカとは同級生という事で仲がいいのだが、それにしては距離感がとても近い。不思議な人でもある。今回の仕事依頼人はリホのようである。満面の笑顔でこちらをみつめている。

「今回の仕事は楽って言ってましたよね?リホさんが関係してるっていうのは…」

リージョンキーパーは多元異世界群を統括する異世界最高警察機関である。その総帥が頼むという事は余程大事なものを運ばされるのではないか。楽という言葉とはほど遠い人物が現れた事でレイラは少し不安になった。

「あー大丈夫。私が荷物だから」

なんと本人が荷物だった。人一人を運ぶのならそれ程きつい仕事ではない。それは確かなのだが、それなら自分一人で歩いていくのがよっぽどいいのではないか。その疑問を持つのはレイラだけではなかった。

「リホさんなら一人で歩いていったっていいんじゃないの?」

「えー?やだ、一人じゃ寂しいでしょ?皆で行った方が楽しいじゃない」

呆れた理由にリホという人の人格を疑うが、それだけで金を払うのがこの人という事なのだろう。

「こいつがそういう事を言うときは大抵、裏があるんだ。仕事だろ?」

「そそ、察しが良くて助かるわ。総帥として…じゃないけど個人的なお仕事があるの」

その仕事に運び屋ショウカの力が必要なのだろうか。そう思った時にふと考えがよぎった。行きは荷物が必要なくとも帰りに必要になるのではないかと。この人は簡単にいえば警察だ、捕まえた人物を運ばせる為に運び屋ショウカを利用させる事があるかもしれない。

「今日は素面だから、皆も安心して頂戴。それじゃよろろー!」

リホはレイクとレイラの頭に手を一回ずつ置いて行くとリヤカーに乗り込んだ。ショウカに向かって手招きをして、隣を叩いた。そこに座れと言わんばかりにアピールをしているが、ショウカは対面に座ってレイクに発進の指示を出した。


リヤカーの上にはリホ、レイラ、ショウカの三人が座っている。レイクはただ歩く事を楽しんでいるようだ。空は快晴、景色は中々のもので、思わずスケッチブックを取り出して絵描きの時間に入ってしまうほど。ショウカは相変わらず何かの本を読んでいる、それに体育座りで頬杖をついて不満顔なのがリホ、という状況である。

「ショウカー。ちょっとは相手しなさいよー。私を誰だと思ってるの?」

「リホ・リーブティー。それ以外に何かあるのか」

「だめだよリホさん。ショウカは読書もーどに入ったら何言っても反応しないんだから」

レイクはすっかり知った口調で答える。街道を沿うようにひたすらに歩いているが、すれ違う人は少ない。レイラはそれに少し不安になりつつも皆の話を聞く事にした。

「折角、学友が二人揃ったんだから積もる話もあるもんじゃない?」

「散々してきただろ。飲んでる最中にな」

「…してきたっけ」

本当に忘れている様子のリホに対してショウカは溜息を吐きながら本を閉じた。

「ほれ、何か来たぞ。お前の仕事だ」

ショウカは自分の後ろを親指で指した。その先には何人かの馬に乗った人達が見える。明らかに歓迎の意味で来ている事ではないのは見て分かる。レイラはそれも描き残しながら、不安を拭いきれずにいた。

リホはレイクに止めるようお願いすると、自ら降りていって馬に乗った人物達に向かっていった。その手には刃物があるのを見えた。盗賊だ、レイラでもそれくらいは理解出来た。ショウカ達でもなんとか出来るのではないかとも思えたが、リホが向かう事に意味があるようだ。

「あらあら、ひぃ、ふぅ、みぃ。たった三人ね」

近づくにつれ、恐怖が増していく。筋骨隆々の男達がこちらをみながら不敵に笑っているのだから。レイラは思わずショウカの影に隠れたが、不思議とショウカは頭に手を置いてくれた。

男達はリホの目の前で馬を止めた。にひりと笑うその様は正しく悪役に相応しい面構えだろう。馬から一人、降りるとナイフを取り出してこちらに要求を突きつけた。

「見りゃ分かるだろ?出すもんだしな!それがなけりゃ体でもいいぜ」

「残念ながら今、手持ちがないのよねー。体なら差し出してあげてもいいけど?」

腕を組むと自然と持ち上がる胸に盗賊達は興奮したようで、口笛を鳴らす者もいた。リホは外面は男なら誰でも好むほどのスタイルの持ち主だ。背も高く、ショウカと同級生と思えないほど若々しい。それがここまで言うとなると誰でも心躍るというものだ。

「へぇ~…。それじゃあちょっと来て貰おうか」

舌なめずりをしながら近づく男に対して左手の人差し指一本を差し出した。それに対して男が思わず立ち止まるとリホは指を振りながら答えた。

「私が差し出すのはこの指一本。さっ、取ってごらんなさい」

その言葉に激昂した男はナイフを強く握りしめて、襲いかかって来た。

「てめぇ!なめてんじゃねぇぞ!」

ナイフは人差し指の真ん中に刺さった。いや、刺さるように動かした。そしてそこから、何も起こらなかった。何も起こらないというのが不思議で仕方なかった。刺さる瞬間、レイラは思わず目を瞑ったが、刺さった後も何も起こらないのである。

「ほら、取ってみれば?私はこのまま待ってあげてもいいんだけど」

刺さった人差し指からは血の一滴も垂れていない。おかしい、ナイフはピカピカに磨かれている。なのに指には傷一つ付いていない。男は全力で、体重をかけてナイフを突き立てている。それでもまったく動かないのである。

「てめ、このっ…!どうなってんだ…!」

「うーん…飽きた」

リホは男を蹴飛ばすと、ナイフを人差し指で上に弾いて取り上げた。ナイフをじっくり見ていると、右手の指でも刃をなぞっていたがそれでも指が切れる事は無かった。

「武器を使う時はそれ相応の実力が必要なのよ。よく勉強しておく事!」

左手でナイフを投げ返すと、蹴飛ばされた男の足の傍に見えない速度で突き刺さった。足からは血が滴っている。余りにも早すぎる投擲に、他の男達もびびった様子で手綱を握って引き返した。蹴飛ばされた男も慌てて、それを追うように馬に乗り、逃げていった。

その場に残ったのは静寂とナイフだけ。置いてかれたナイフは拾われるのを待っているかのように光輝いているがリホはそれを無視してリヤカーの上に戻った。

「あ…ああいう事はよくあるんですか?」

「ここは最近治安が悪いからある程度来る事は予想済みよ。だから私のお仕事があるわけでね」

「格好良かったなぁ…。私も言ってみたい!『うーん…飽きた』」

「そんな事を言う暇があるなら働け。さっさと歩け」

ショウカに急かされて不満顔になりながらもレイクは歩き出した。レイラはリホの様子がどうしても気になっていた。

「指、見せて貰っていいですか?あんなに力入れてやってたのに…」

「ん、いいよ。心配はご無用だけどね」

左手の人差し指、まったく切れていなかった。傷一つ付いていない、綺麗なままの指だ。一体どうやってあんな芸当をしてみせたのだろうか。一般人であるレイラには想像も付かない。それ程にリージョンキーパー総帥という人物は凄まじい力を持っているのだろう。

「こいつの事は化け物と呼んでおけばいい。並ぶのは龍殺しの一族のフェイランくらいなもんだ」

「龍殺しの一族…ですか?」

噂には聞いていたが、よく分からなかった。ただ、強いとだけ聞いていた。その武勇は20番地にもちゃんと届いているくらいには。

「10番地出身の傭兵集団よ。その名の通り龍殺しで有名でね、今の一族筆頭がその子ってわけ」

10番地はドラゴンが産まれた世界として有名で、かつては龍が支配していた世界とも言われる。それに対抗すべく生まれたのが龍殺しの一族である。Az(アーズ)と接続された今では龍と人は融和し、共に過ごしてはいるが、龍殺しの一族の武勇は未だ轟いている。

「まぁ会う事はないだろう。よっぽどの事が無い限りはな」

「それに私がいるからね!伊達に総帥やってないのよ!」

リホが居れば、確かに何にも怯える必要はないだろう。例えドラゴンが現れたとしてもその力で一蹴してしまいそうな頼もしさがある、そう確信した時、空が一瞬、陰った。あんなにも晴れていたのに、と上を見るとそこには何も居なかった。影は前方に向かった気がする。レイクの方へ視線を向けると、それはハッキリと姿を現した。

「ショウカ!ドラゴンだよ!ドラゴン!」

「治安悪いってレベルじゃねぇな…。リホがいなかったら来られないレベルだぞ」

前方に現れたのは、全長6mはありそうな巨大な手足と翼が生えたドラゴンである。噂をすればなんとやら、まさか本当に現れるとは思わなかった。いくら何でもリホでも敵わないのではないか、そんな考えが頭をよぎるほど、それは強く見えた。先程の盗賊達とは訳が違う、本物の魔物なのだから。スケッチも忘れ、ショウカの後ろに隠れていると、咆哮がその場を支配する。20番地でも伝説によく現れるドラゴンではあるが、本物を見るのは初めてだ。死への恐怖に怯えていると、叫び終わった瞬間、リホの姿が見えなくなった。

ドラゴンへ視線を移すと、リホはドラゴンの頭近くまで飛んでいた。ドラゴンが口を閉じた瞬間を狙ってか、思いっきり蹴りを入れるとドラゴンはその体を崩し、大きな音を立てながらその場に沈んだ。リホは事も無げに着地すると、リヤカーの上に戻った。

「どうやら、何かが起きてるのは確実みたいね。普段はここまで荒れてないはずだもの」

「なんだ、真面目なお仕事だったのか?てっきり新しい酒場探しかとでも思ってたが」

「偶には真面目に働きますー。エイちゃんにも連絡…全部終わってからでいいか」

住む世界が違う。素直にそう思わされた。普段がフランクで酒浸りな人である事を考えたらまったく正反対な人物であると思わされる。素面の彼女は強かで、とてもじゃないが同じ世界に生きているとは思えない人物であった。

多元異世界群、数千もの異世界の中でそういう人物の一人や二人はいるのだろう。だが、いざ目の前にすると本当に世界が広いのだと思わされる。少なくとも自分の世界にはこれ程の人はいなかった。これが多元異世界群Az(アーズ)。わくわくよりも若干の恐怖を覚えたが、それでも、レイラは元お姫様として外の世界を勉強しなければならないのである。奴隷という立場にはあるが、ある程度、自由に動けるのでそれを利用して何とかして自らの目的を果たさなければならない。


目的地である港街に着いた。これまでに散々な目に遭ってきた運び屋ショウカだが、当のショウカは慣れているもので、リヤカーを適当な所に止まらせるとブレーキをかけて降りた。こんなリヤカーを盗難する人物はいないのでロックもしない。実際、盗難経験は一度もないしすぐに作り直せる。街の中に入っていくとそこからはどこまでも続く海が望め、橋の上でも見たような白い家が建ち並ぶ白と青のコントラストが美しい街だ。リホは着くなり街の奥へと入っていった。

「そいじゃ、私は調査があるから。数日ここでのんびりしてってねー」

のんびり、という言葉に違和感を覚えたがその前に数日、という言葉を残された。

「…?のんびり、というのは…」

「あいつが仕事を終えるまでここで待機だ。適当な宿を見繕ってそこに泊まる」

ここの治安を考えると、若干の不安を覚えるがショウカとレイクはまだ十分に強い。レイラとしては気の抜けない数日間になりそうだ、それを求めていたのかもしれないが。外の世界の恐怖感を覚えながらも二人の後を付いていった。

ショウカの言う適当な宿に着いた。外壁から内壁まで、適当、というには正しい言葉である。どこか埃臭い、亀裂が目立つ最低限とも言える宿だ。案内された部屋はショウカが気を利かせてか、ショウカで一部屋、レイクとレイラで一部屋を取って貰えた。ベッドは二つ、久々に広いベッドで眠れる事が出来そうだ。試しに思いっきりダイブして柔らかさを確認してみたが、王国のベッドには敵わないものの、運び屋ショウカのベッドよりはよっぽど柔らかかったのだ。

「しばらくここに泊まるの?」

「うん!リホさんの仕事はとくしゅだからこういう事も偶にあるんだー」

何日かかるかは分からないが、ここは初めて来る異世界だ。たった一つの街しか観光は出来なさそうだがこれも貴重な経験だ。この部屋に閉じこもっているよりは外に出たい。

「お腹空いたから軽く食べにいく?私がついてるから心配ないよ!」

「えー?折角着いたばかりなのに?」

見透かされたようで思わず軽口を返してしまったが、その誘いには乗るつもりであった。大した荷物もないし、出かけようと思えばすぐに出かけられる。ちょうど窓から外の景色が見える、街並みと海のコントラストがスケッチに描くにはベストな景色だ。でも、今は外に出てもいいかもしれない気分だった。

「…分かった!行こう!」

ベッドに倒れ込んだ姿勢から素早く立ち上がると、既に行く気満々のレイクが手を差し出していて、それを握って駆け出した。すぐにでも外へ出てみたかったから。未知を知りたかったから。

石レンガ造りの道を歩いて行くと港街らしく、潮風の匂いを感じた。25番地のそれとは違うものだ。世界は空気からして違う。多元世界論によるとこの異世界同士はまったく違う星々で出来ていて大きさも資源も成分も違うらしい。難しい話はレイラには勉強程度にしか学んでなかったので分からないが、確かに世界と世界の違いには気付く事が出来たのだ。

階段を降りていくと、すぐ横から良い匂いがしてきた。揚げ物の良い匂いだ、それだけでそそられた。見れば小さな魚を揚げて、包み紙に包んでいた。もう昼頃のこの時間は確かにお腹が空くものである。レイクはそんなレイラを察して、お店の前に立った。

「はずれの天ぷら二つ!」

「あいよ!」

「…はずれ?」

この港街は漁でも有名で、大物を競り合う会場が名物になるくらいに市場が活発である。その中でも食用に適さない、小さな魚は一般的にはずれと言われる。それを天ぷらにして無理矢理食べられる様にしたのがはずれの天ぷらである。一応の味付けはされているので食べられない事はない、店によってはこれをいかに美味く味付けるかを研究する所もある。

渡された包み紙の中の天ぷらはとてもはずれとは言い難い美味しそうな匂いを放っていて、熱々のそれは食欲を刺激するには十分だった。試しに一つ、手に取ってかじって見ると、はずれとは言い難いが、当たりとも言い難い、何とも絶妙な味がするのだった。

「いつもこれ食べてるの?」

「ショウカが金無いんだからこれにしとけって」

値段表を見てみると、子供のお小遣いで気軽に買うにはどれも難しいものばかりだ。レイクに言っておくには確かに正しい情報だ。若干の不満を持ちつつも、これはこれでいいか、と割り切れる程度には余裕があるつもりではあった。二口目を食べると、やっぱり絶妙な味でなんとも言い難いのだった。

「ひとまず、もうちょっと良い景色の所で食べよう!」

景色で味を誤魔化す作戦に出たのか、レイラの手を取ってまたしても走り出した。

「あんまり行っちゃうと道、分かんなくなっちゃうよ!」

「だいじょうぶ!ちゃんと覚えてるから!」

石畳を薄い靴でペタペタと走り抜ける。少し足が痛い、けれどもその痛みも新鮮で、これこそが新しい世界に求めていたものだった。相変わらず治安には一抹の不安を覚えるのだが。

初めての外の世界は壮観、とはほど遠いものだった。どちらかと言うと今までいた世界に近しい。それでも見られなかったものも見られたし、食べられなかったものも食べられた。ちょうどいい場所を探してからそこに座る。レイクも隣に座ってくれた、相変わらずはずれの天ぷらをちょくちょく食べながら。スケッチブックを広げるとまず、この世界に来た時の事を思い出して描き始めた。リホに出迎えられた所、リホが盗賊を倒す所、リホがドラゴンを倒す所。インパクトが強いのはリホと一緒に居たときばかりだ。まるで嵐のような人だと思っていたが、その認識は間違い無いと確信したのだった。

レイラはずっと描いてるだけだが、その間、レイクは一言も喋らない。ただ、じっと作業する様子を眺めている。つい、没頭していたのにはっとしてレイクを見返すがそれでもレイクは一言も喋らないのだった。

「…えっと。つまらなくない?こんなの…」

「そんな事ないよ!描いてる間の表情はしんけんそのものだし。見てて飽きないなーって」

息が合うとは思っていたが、ここまで合わせて貰うと申し訳無く感じてしまう自分がいた。レイラもレイラなりに何か楽しませる事をしようと思ったが、どうにも思いつかないのだった。

そんな時、人通りの少ない道の両端から足音が聞こえてきた。思わず竦むほどの大きな音にレイクはすぐに警戒態勢に入った。ここは橋の上だ、両脇を塞がれたら逃げ道はない。そして悪い予感というものは当たるものだった。

ぞろぞろと現れた大男、その数は7、8人全てがレイラを見ている。

「ほれ見ろ、噂のお姫様だ!」

「確かに…捜索届には似ている。じゃあこいつを20番地に戻せば賞金が…」

どうやら捜索届まで出回っているようだ。それもそうだ、一国のお姫様がいなくなったとあれば国を挙げて捜索するに決まっている。異世界に赴く事で見つかる可能性が高まる事を考慮していなかった。じりじりとこちらに詰めてくる男達。それに対しレイラは逆に睨み返す姿勢で拒否を示した。

「レイラちゃんには指一本触れさせないよ!」

「名前出しちゃってるよ!」

「名前も合ってる…決まりだな」

男達はそれぞれ、獲物を取り出そうとしている。そうする事で大人しく従うと思っているのだ、二人共。だが、そのどちらも譲らない。レイラも瞳は赤く、決意に満ちていた。レイクは素手だが頭の上に載せたバチューも必死に威嚇しようとしている。

「嬢ちゃん…痛い目合わない内に降参し…」

「とりゃあ!!」

レイクは有無を言わさず近くに来た男を橋の下に向かって放り投げた。そこまで高くない橋だから致命傷にはなっていないとは思うが、レイラとしては少々心配になるやり方だった。

「やりやがったな!この!」

「ふん!」

長剣を白羽取りすると思いっきり力を入れてそれを折った。そしてついでに男の胸ぐらを掴むとまたしても橋の下に放り投げた。

「くそっ!撃て!撃て!」

「痛いっ!こんにゃろう!」

銃で発砲されているのだが、痛いで済ませてしまう頑丈さは常軌を逸していた。そして近くにいた発砲者をまたしても胸ぐらを掴んで橋の下に向かって放り投げた。これで三人斬りだ。

「次はどいつがひつぎに入りたいか!」

「こ…こりゃ相手が悪い!退くぞ!」

たった一人の奴隷少女に大の男達が逃げ帰るハメになった。それもそうだ、実力が違う。この多元異世界群にはひっくり返しようのない力の差というものがあるのだ。レイクは両手を握って合わせるとにやりと笑った。

「どんなもんだい!これが私の実力よ!」

「す…すごいね…レイクちゃん…」

すごいとしか表現のしようがなかった。リホもその実力を遺憾なく発揮していたが、レイクもその実力は予想以上のものであった。だが、流石に銃は痛かったようで所々アザのような物が出来ている。

「…大丈夫?レイクちゃん」

「ぜんっぜん!妹を護るおねえちゃんだからね!」

その言葉にはだいぶ重みのある言い方だった。レイクにとって、レイラは欲しいと思った時に来てくれた救世主的な存在なのである。それに加え従来の無駄な面倒見の良さが相まって、姉のなり方はよく分からないが、護るという事に関しては重点を置いているような言い方だった。


夜になって宿に戻ると、ショウカが出迎えてくれた。レイクのアザを見ると特に気にかける様子も無く、食堂の方へ来るよう誘導してきた。

「ショウカさん!今日はレイクちゃんが私の事を護ってくれたんですよ!」

「らしいな。見れば大体分かる。で、何人ぶちのめした」

「三人!」

威勢良くそう答えるとショウカはレイクの頭をペチンと叩いた。

「なんで叩くのさ!?」

「あんま派手に騒ぎを起こすなってんだよ。明日には外に出られなくなってるかもしれないぞ」

確かに、ここは知らない異世界だ。あまり大騒ぎを起こすと狙いを付けられるかもしれない。

「でもやるしかなかったんだもん!」

「どうせ、引き戻しに来た奴らを力でねじ伏せたんだろ。そのまま引き取って貰えば良かったんだよ」

まるで見てきたかのような眼力に思わずレイラも萎縮してしまったが、レイクはそれでも反論してくれた。

「いーや!まだレイラちゃんには旅が必要だね!せきにんが降りるからってショウカは…」

「呼び捨てやめろって言ってんだろ」

角を持ち上げて頭を軽く揺らすと、パッと放した。それだけで目眩を起こして黙るという事を知っているからだ。本来ならやってはいけない事ではあるが奴隷という身分ゆえに目を瞑っていられる行為である。それでも、自分を庇ってくれたのは嬉しさがあった。

宿には他に泊まっている人がいないのか、食堂は貸し切り状態だった。少し大きめの部屋にたった三人というのもそわそわするものだが、レイクとショウカは堂々としている。すっかりこういう事に慣れているといった様子だ。夕食が運ばれてくると、見た事もない料理が出てきた。明らかに安そうな、質素な食事だ。が、レイラにとっては物珍しいものだった。これまでの食事といえばインスタントがほとんどだったのだ。形になっている料理というのは久しぶりに見る。

「ショウカさんは何をなさってたんですか?」

「…俺の事なんて聞いても面白くないぞ」

「そうだよ!どーせ本を読んでたとかそーいうのだよ!」

それは確かに、と思わせるものがあったが個人的に気になった。ショウカという人の事をあまり詳しく知らないでここまで来たのだ。少しくらい教えて貰ってもいいのではないか、ちょっとした好奇心が顔を覗かせたがゆえの発言だった。

「ああ、一日やる事なんてないからな。リホから連絡が無い限りはここで待機。そう決めてる」

「えぇ…、外へ出るとかそういう事はしないんですか?」

「外へ出ても大して面白いものなんてないさ。今は治安も悪いみたいだしな」

実際、自分は襲われかけた。それは治安の善し悪しとは関係無いが、今は外に迂闊に出るのは容易に出来る事ではない。しかし、ショウカはレイクと同じかそれ以上に強いはずだ。なのに何故、外へ出ようとしないのか。

「でも、篭りっきりもよくないですよ。外の空気だって吸わなきゃ」

「…俺はそういう事はしないんだよ。それだけだ」

いつの間にか食べ終わっていたショウカは立ち上がると自分の部屋へ向かって歩き出していった。

「かんじわるぅ~。あんなの興味持っても仕方ないよ?」

「でも、気にならない?レイクちゃんは知ってる?ショウカさんの過去とか」

「過去…?う~ん…自分の事喋らないからなぁ…」

レイクは本当に知らないようだ。いままで気にも留めていなかったような反応だ。傍目から見てもショウカは自分の事を喋らない、と言えばそういうような人だ。他人を見る目はあるが、自分に対する評価も低い。何故なのか、純粋に気になった。自分を拾ってくれたショウカという人の姿を。

「レイクちゃんから見てどう思う?こんな事があったんじゃないかなぁとか」

「う~ん…。考えてみてもどうやったらあんなねじ曲がった人になるのか分からないなぁ」

言い方こそひねくれてるがああいう人にどうやったらなるのかは気になる部分があった。もっと話を聞きたい、その好奇心が急速に湧くのを感じた。喋ってばかりで手を付けていなかった料理に口を付けながらどうすればいいのかを考えるのだった。

「…これ、深みがあって美味しいね」

「え!?レイラちゃん…舌大丈夫?」

そう感じたからそう発言したのだが、何故か驚かれた。レイクも食べているというのに。

「うん、まともなお料理なんて久しぶりだから…」

「そ…そっか…。見た目だけだと思うけどなぁ…」

レイクはそっぽを向きながら、手早く料理を口に運んだ。レイラには分からないが、普通ではないようだ。それだけ上等な料理なのかもしれない。ショウカは変な所で凝り性だ、どうせ食べるのなら良い物をと考えていてもおかしくない。レイラは真面目にそう考えていた。

食堂から部屋に戻る際、ついショウカの部屋の前で止まってしまった。レイクはすっかり帰るつもりでいる。だが、足音が止まったのにはすぐに気付いた。

「どうしたの?何かあった?」

やはりもやもやする。ショウカについて知らない事が多すぎる。出自、学歴、ここに至るまでの経歴。何故運び屋ショウカになったのだろうか。本人にしか聞けない事なのだ、本人に聞くべきだろう。

「ごめん、先に戻ってて。ショウカさんと話がしたいの」

レイクは少し考えたように天を仰ぐと、頭の後ろに手を回して歩き出した。

「あんまり長くなりすぎないよーにね。ショウカは長話しないだろうけど」

それを了承の合図と捉えて、ショウカの部屋の前に立ち小さくノックを2回した。その後、一歩退きドアが開くのを待った。数歩の足音とドアノブの回転音が響くとドアが開いた。軋んだ木の音が響くと共に大きな姿が見えた。

「…何の用だ。夜だからさっさと寝ろ」

「少しお話したい事があって…。どうしてもダメだと仰るなら命令権で…」

人差し指を思いっきり突き立てて、逆らえない命令を出すぞと脅しをかけた。ショウカは頭を掻きながらドアを開けたまま部屋の奥へ引っ込んでいった。ドアを閉めながら中に入ると、そこは同じ部屋なはずなのに、何だか異質なような気がしていた。本当に一日中、本を読んでいたのかと思われる程に一つのベッドのシーツがよれよれになっているのが見えたからかもしれない。その近くにある椅子に腰掛けるとショウカはよれよれのベッドの方に座った。

「何が聞きたい。俺は面白い子守歌なんて歌えないぞ」

「そんな話が聞きたいんじゃないんですっ!ショウカさん!あなたの事が聞きたくって…」

ショウカは砂糖菓子を取り出して口に咥えながら、目を合わせずに答えた。

「口説きに来たのなら対象外だ。もう少し歳食ってから来るんだな」

「…そうやってのらりくらりと躱すのがあなたのやり口なんですね」

「悪いな。意地が悪くって。でもそれと話がしたいって言ったのがお姫様だ」

それはそうだ、だが、その意地の悪さの原因を知りたくって話に来たのだ。どうしても知っておきたい事だと思ったから。まずは、簡単に話してくれそうな事から聞いておこう。

「…リホさんとは何処でお知り合いになったんですか?」

他人の事なら簡単に話してくれるであろう、そう考えて外堀から攻めていくことにした。

「お前らには話してなかったか、大学の同級生で飲みに行ったときに相席してからだ」

やはり、他人の事ならば簡単に話してくれる。これを続けて行く事にした。

「あんな凄い人、そうそう知り合いになれないですよね?たまたま、なんですか?」

「偶然だよ。本当の偶然だ。俺なんて釣り合いが取れないって言ってるんだがあっちが聞かなくてな」

「その割りには息が合ってるというか…。お互い信頼感を持ってるというか」

「勘弁してくれ…。あいつがこの場にいたら相当五月蠅くするぞ」

ここが攻め時だ、と直感が告げた。

「その大学とはどこなんですか?リホさんが通うほどなら相当なエリートですよね?」

「…2番地だ。2番地の…まぁ軍学校みたいなもんだな。リージョンキーパー養成の特別な…」

レイラにとっては初めて知る情報だ。ショウカがそれ程の学歴を持っているとは思わなかった。それなら運び屋とは違う道を目指せたのではないのか。少なくとも、リヤカーを使っただけのちんけな運び屋以外の道を。

「2番地出身なんですか?そんな所に行けるなんて凄いですね!」

「出身は違う。でもまぁ…、学歴は確かにあるぞ。中退だがな」

「中退…?それで運び屋に?」

「あぁ、そうだ。…これ以上深掘りしたいのなら、プライバシーってものを考慮して貰いたいな」

突然、ストップがかかった。プライバシーという言葉を使う辺り、喋りたくない事があるのだろうか。だとしたら、それは中退に関する事か、それとも運び屋に関する事か。

「お…お姫様権限で命令してもダメですか?」

「お姫様の命令なら逆らえないが俺はまず『嫌だ』、と答える。その上で聞きたいっていうのなら話すが」

本人が嫌がっている事だ、それを上から権限で聞き出す事は悪い事だ。レイラも流石にそれ以上聞こうと思うのは憚られた。何より時間はまだあるのだ、リホと合流しなおす事も分かっているしそこからも聞き出せる。一回のやり取りで全ての情報を引き出す必要はない。そう判断したレイラはここで退く事にした。他にも聞きたい事はいっぱいある。

「じゃ、じゃあ運び屋を始めたっていうのは…」

「…何年前だったか。15年くらい前だったか、そんくらいだ」

15年前、だとするとショウカは36だと聞いていたから21の頃から運び屋をしているという事になる。まだ大学を修了する前だ、中退と関係あるように思える。いや、絶対に関係あるはずだ。気にはなったがそれ以上を聞くのは…。

「というか、もう寝ろ。あの奴隷だって寝てる頃だぞ」

「あ、そうですね!それじゃお邪魔しました」

帰り際、ふと気になった事を聞こうと思った。

「…レイクちゃんの事、名前で呼ばないんですか?」

「奴隷の名前なんざいちいち呼ばなくてもいいだろ。ほら、早く寝ろ」

そう言いながら本に手をかけたショウカは、まだ夜更かしをする気満々のようだ。ちょっとした不満を抱きながらもドアに手をかけて開き、静かに退出した。ドアを閉める際に見たショウカの姿には若干の哀愁が漂っているような気がしたのだった。


そうして朝が来た。待っている間にレイクと立てた今日の予定を確認していると朝食にショウカがやって来た。

「相変わらずお仕事がお早いようで…。今日の昼には出発だ。7人しょっぴいただと」

「なんの罪で?」

「テロ準備だとかなんとか…奴隷が気にする事じゃあねぇよ」

「ず、随分大がかりに捕まえましたね…。まるで組織ごと捕まえたような」

「あいつのことだからそういう事だよ。少なくともこの世界にいるのは捕らえただろうな」

今日の予定が早速崩れたのに溜息を吐きながらも、リホという人の底知れ無さは凄まじいという思いだった。…次に何か聞く時はあの人にしようか、ともあれ、ショウカは少し視線を外した隙に朝食を食べ終わって席を外した。相変わらず、何かを探られない為になのか人といる時間を減らす人だ。一人でいたいと思うような人となりをしているが、それと関係あるのかは分からないがその通りの人だ。最初にこの人に頼りたい、と思わせたのは一体なんだったのだろう。思えば最初に見つかった時は仕方なかったが、この人にしようと決めさせた魅力とは一体なんだったのだろう。

「レイラちゃん?考え事?」

「う~ん…。ちょっとね。相談するほどのものじゃないよ」

「バチューにもお水あげたし…、私、外で日光浴してるからいつでも来てね!」

「うん…、うん?」

レイクが足早に駆けながらも髪から水を滴らせて走るのを見送ると、一人残されて食事を摂りながら考え込むのだった。思えば何故、この人にならと思ったのだろう。一番大事な自分の体を預けるからには信じるに値する人だと判断したからに違いない。それに相応しいと思わせる所なんて今の所一つもありはしない。そう思ったのだが、そう思わなかった未来が想像出来ないのが不思議だった。

全てレイクという存在がそう思わせたと言っても差し支えないが、レイクと自分との共鳴の仕方も不思議なものだ。まるで導かれるように、そうなるように仕組まれたかのように二人仲良くなった。

「…偶然だよね」

大きな運命めいた流れに飲まれているような気もしたが。そんな大したものではない、と考えなおして外のレイクを観に行く事にした。朝食をとってすぐだからか、朝の特有の空気が誘うものなのか。綺麗に頭だけ日向に出して階段横に背を預け眠っていた。少し笑いながらも、それを描こうとスケッチブックに手を伸ばした瞬間に後ろから足音が聞こえ始めた。複数人のものだったので警戒して、宿に隠れられるように扉に手を付けて身構えているとその集団を率いている先頭に立つものはリホだった。

「おっ、はろろーん!久しぶり!ちょっと時間早めに来たんだけど…」

「リホさん…!何があったんですか!?」

リホ・リーブティという人にしては珍しく、衣服にほつれ、もとい破けている箇所が何カ所かあった。服はバトルコートと聞いていたから耐久力に関してはかなりのものであるはずだ。それが破けるという事態が恐ろしいのだ。

「いやー…私にしてはやらかしたというか…。甘くみてたもんがあったね」

「ば、絆創膏だけでも…」

差しだそうとするその手を止めて、無理矢理に視線を宿の方へ移させた。宿からは主人であるショウカが見計らったかのように時間を合わせて来た。

「おいおい…。この件はネールさんも知ってて…」

「知ってるよ。こっちからリークした情報だからね。何て言ったって星一個、落とそうとする連中だ」

「星を…落とす?そんな規模なんですか?」

多元異世界群Azの中ではさほど考えられない事ではない。そういった魔法の術式は数多く存在するし、また科学でも同じ事が出来ると最近は立証もされている。テロの規模としては最大限の規模だ、これ以上はない。世界一つを丸ごと消すなんて事は。

「こっちは聞いてないんだよ。そんな派手な事やらかそうとする奴とはリヤカー越しでもお目にかかりたくないね」

「平和主義なのは分かるけど、こいつらは演習に付き合ってた雑魚だから大丈夫よ。首謀者には逃げられたからまた関係の仕事は…」

「別の奴にしてくれ、俺じゃ無くってもいいだろ?」

「その代わりに大金は支払ってるでしょー?私一人の身体じゃこいつら運ぶのも一苦労なんだからねっ!」

ぷいっ、とそっぽを向いてしまったリホに対して頭を掻きながら考えるショウカは一つだけ搾り取るように声を出した。

「…分かった。今度はこいつら抜きにさしてもらうぞ」

こいつら、と話ながら視線を送ったのはレイクとレイラだ。確かにそれほど危険な相手なら足手まといになりそうなのは不要だ。この広すぎる異世界群では自分の出来る事に限りがある、それをまざまざと見せつけられたような気分だった。

「ただ…ネールさんにも考えがあるみたいでね?こいつらを追うのはしばらく後になりそう」

「なんだ、他にも仕事があるっていうのか」

「あるって言ってるのー!…分かってておちょくってるでしょ」

最近はしょっちゅう顔を合わせる仲だからか、こういうやり取りは自然と様になっていた。似合っているというよりは自然体という意味で。

「リホさんをここまで追い込む相手に対してどんな手段が…」

「本人に聞いてちょうだい、しろがねの~なんたらがどーたら。ともかく、安心して自分の仕事をしてくれってさ」

そこまで言うと、何かに気付いたのかコートの襟の部分を弄り、服の破れやほつれを一瞬にして直して見せた。

「相変わらずそれしか使わないな…。コートの機能。服だって録に洗ってないだろ」

「これが便利なのがいけないのー!服は流石にちゃんと洗ってますー!」

「…っ。あれっ、リホさんだぁ…。もう来る時間だっけ…」

「はろろーん。お目覚めの邪魔してなんだけど、一仕事お願いね?」

そう言って後ろの手錠をかけられた集団…、7~8名に視線を送った。それらは老若男女、様々で、一見するとなんの集団なのかも分からない。そういう風に見せかけているのかもしれないが。

「あっ!分かった!リヤカー持ってくるね!!」

駆けていったレイクを見送っていると、ショウカに背を叩かれた。そうだ、自分も追わなければならない。

「ま、待ってよ~!レイクちゃーん!」

慌てて追いかける。ふと振り返ると、二人はまだ何か話をしていた様子だが大丈夫だろう。大変そうな事が数多く起こっているが子供の自分に出来る事は少ない。大人が対応してくれてるのだから大丈夫だろう。今はそういう事にしておいて自分の出来る事をしておく事にするのだった。

「あぁ、あとネールさんがショウカに礼を言うのを忘れてたって」

「言う覚えはあっても言われる覚えはないんだがな…」

そう言うとショウカは名残惜しそうに港の方へ向き直った。その先に何があるのかは誰も分からない。

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