王子から婚約破棄を宣言された悪役令嬢ですがうちの王子は私にゾッコンのヤンデレなのであり得ませんね。お断りします
うちの殿下と違う
「シルティア・フォン・ルネライト公爵令嬢!!!僕は君との婚約破棄を宣言する!!」
大広間にいた子息令嬢の面々が揃って固唾を飲む中、そんな声が高らかに響き渡った。
「公爵令嬢ともあろう者が、この国にとって最も重要な聖女になろうとする者に嫌がらせをするなんて許されないよ。この国の第一王子として、そんな女性とは結婚できない。」
春を思わせる桜色の髪の少女を庇うように抱きながらこちらを睨みつけてくるアメジスト色の瞳に、シルティアは、手にしていた扇子をぎゅっと握りしめた。
シルティア・フォン・ルネライトはこの国の公爵令嬢であり第一王子の婚約者である。
しかし今、彼女たちも通う学園創立パーティーで、王子から婚約破棄を宣言された。
この日のために用意した色とりどりのドレスや礼服に身を包んだ生徒たちが、学園の生徒会長であり王子のエリアル・ライトリング・アーチボルトからの開会の宣言を待っていたところで、突如、壇上から「開会の前にいいかな」と断って始まったひとり語りに呆然とし、どう収束するのかと成り行きを見守っていた中でのこの宣言。
理由は、聖女候補として学園に入学していた少女に、シルティアがイジメを働いたためということだった。
それは使い古された脚本のような内容だった。
まるで恋小説の悪役令嬢の断罪シーンを見ているようだとその場にいた誰もが思ったが、その中にシルティアに同情や理解を示す者はひとりもいなかった。
それほどに、彼女たちはまさに正統派ヒロインと悪役令嬢だったのだ。
セミロングの桜色の髪とそれに合わせた淡い色のドレスを震わせ、そして空を映したようなペールブルーの瞳を潤ませているこの国の聖女候補である少女、クレア・ハートは、まるで春の妖精のように可憐だった。平民出身ではあったが、誰とでも隔てなく接し、見た目の愛らしさと天真爛漫で飾らない雰囲気で学園中の数々の生徒を男女問わずに魅了してしまった天性の聖女。
それに比べて、シルティアはというと、ドレスは夜の闇のような漆黒、腰まで伸びた銀色の髪と灰色の瞳は冬の張り詰めた月のように冷たい印象を覚えさせるもので、容姿は美しかったが人間離れして見えるほどのそれが逆に冷たさを助長していた。そして噂に聞くのは、家業や本人の黒い話ばかりで、王子との婚約も裏があり、脅しての政略結婚だとか。さらに、学園では勉学もせずエリアル王子のそばについて回るばかりで、王子に近づこうとする者がいればすぐに実力も権力も行使で排除しようとかかる悪女ぶり。
クレアに対してシルティアがきつく当たる場面も、学園にいれば、誰もが一度は見たことがあった。
そのため、クレアとシルティア──彼女たちの印象は、人気投票でいえば、すでに圧倒的にクレアに軍配が上がっていたのである。
とはいえこのような場でこんなことが起きるとは流石に誰も思っていなかった。
これまでいくら婚約者とはいえ悪女に付き纏われてもそれに対する文句も洩らさずきちんと付き合ってきた実直で有名な王子が、ここにきて、ようやく聖女クレアとの愛を選んだのだ!と、思う者は思った。
愛した女性を蝶よ花よと大切にするよう教わってきた貴族の子息たちは、か弱い立場のクレアの恋を応援する気持ちで怒りを込め──『自分より上の階級の女性はみな目の上のたんこぶ』そんな教育のもと育ってきた令嬢は、憐憫とそして少しの愉悦を混ぜた──そんな視線を、壇上のシルティアに浴びせながら次の動きを待っていた。
泣くだろうか、怒るだろうか。冤罪だと言い訳をするだろうか。
正直、生徒の誰にも、交流の少ないシルティア・フォン・ルネライトという令嬢の行動は想像できなかった。
シルティアがクレアにしたという嫌がらせの証言の読み上げが十を超えたところで、言葉を切ると、羊皮紙を丸めて「さて」とエリアルは言った。
「なにか申し開きはあるかな?これでも、もしも見苦しくもやってないと嘘をつくつもりなら偽証罪にも問えるけど……?」
柔らかい口調でエリアルが最後の審判のような言葉を投げかけると、シルティアの冷たそうな形の良い唇がそっと開いた。
「いいえ、殿下。異議はありません」
その言葉にまた周囲がどよめいた。公爵令嬢がこれだけ多くの者の面前で罪を認めたのだから当然だった。
「たしかに、わたくしは、クレア・ハートさんを殿下に近づけないためにきつく言葉をかけました。聞き分けの悪い場合は頬を叩いたこともあります。彼女を傷つけた罪を認めますわ」
静かに頭を下げ、しおらしく俯いたシルティアは、それまで誰も見たことがないほど細くか弱く見えた。
ここでようやく少し同情する気持ちになる者も少しは現れた。
しかし、その時だった。
「ですが婚約解消については──お断り申し上げますわ」
もう一度顔を上げたシルティアは、うっすらと笑みを浮かべながら、しかし、ハッキリとこう言った。
それにパチクリと目を丸くしたエリアルは一瞬、固まり、それから慌てたように声を荒げた。
「なっ…ことっ、断るって、君はもはや罪人だ!そんな権利があるとでもっ!!」
「ありますわ。わたくしも愛する人の気持ちは優先したく思っています。ですが、今回の場合はお断りできると思いますわ。だって──」
投げつけかけた言葉を同じくらいの勢いで言い返されてたじろぐエリアルに、シルティアは微笑んだまま、扇子の先を向けて突きつけた。
「あなた、エリアル殿下じゃありませんもの」
その瞬間、エリアルの顔色が真っ赤に染まった。
「なんて不敬な!王族である僕を疑うなんていくら元婚約者とはいえ侮辱と取る!!」
婚約破棄を宣言した時かそれ以上に響いたのではないかという程の大声だった。
集まってきた近衞の兵たちに、エリアルは続けて叫んだ。
「者共、この女をとらえよ!聖女を害し、かつ王族を侮辱した大罪人だ!」
シルティアに向けてビシッと指を差したエリアル──しかし、その指先に突然蛇のように扇子が巻きついたかと思うやいなや、その手を軸に足がふわりと床を離れ、視界がぐるんっと上を向いた。
ガンっと良い音を立ててエリアルは頭を大理石の床に打ちつけた。
やったのは当然、扇子の持ち主──シルティアの暴行だ。
その光景に呆然として口をはくはくとさせていたのは、それを一番近くで見ていたクレア・ハートだった。
彼女には、わけがわからなかった。
それもそのはずだ。それまで自分を抱きしめていた男性が、気がつくと隣で宙を一回転していたのだから。
そして、さらにその次の瞬間には、自分の肩はシルティアに強めに抱き寄せられていたのだから。
また、そこに駆けつけてきた近衛兵は、暴行を加えたシルティアではなく、床に倒れた王子に次々と飛びかかったのだから。
訳がわからなかった。
「え、エリアル様っ!!エリアル様っ!!」
訳がわからないまま、屈強な近衛たちにボコボコと殴られ縛りあげられそうになるエリアルとその必死に抵抗する姿に、シルティアに抱きすくめられて動けないまま、涙声でその名前を呼ぶクレアの声は悲壮感にあふれていた。
「やっやめてください!み、みなさん!ひどいっ!王子ですよっ!!王子様にむかってっ!!」
「クレアさん」
「シルティア様!なぜこんなことを!エリアル様が私を愛してしまったからですか!?だからってこんな!!?」
「クレアさん、落ち着いて。あれは殿下ではありません」
ぐっ、と肩を掴まれ先ほどよりも強くシルティアに抱き寄せられたクレアは、そこでハッとした。そして促されるように、もう一度しっかりと近衛兵たちの下を見ると…
「な、なぜバレた…」
「!?」
瞼が腫れているのは、少々殴られすぎたのだろうが見目麗しかった王子エリアルとは全く別人がお縄になっていたのであった。
「ど、どういうことですか…」
「っちくしょう!おい!!なんでわかった!!」
「喧しいですわね」
怯えてしまったクレアを後ろの兵にそっと任せ、シルティアは、這いつくばったままの姿勢で怒鳴り散らす男の鼻先の床を、ハイヒールの鋭利な踵で踏みつけた。
「ヒェッ」と男の喉が鳴った。
「あら残念ですわ。もう少しでそのよく動く舌をそこに縫い止められましたのに」
シルティアはにっこりと微笑んでそう言うと、男はそれを想像して涙目になりながら唇を強く噛んだ。
「ええと、なんでしたっけ?ご質問は。ああ、どうして貴方が本物の殿下ではないとわかったかでしたっけ」
黙ったままぶるぶると頷くだけに成り果てた男に、シルティアはひとりで喋らざるをえなくなったが仕方ないかと続けたあと、一息をついたのち、少し赤くなった頬を両手で隠しながら冷たい目で答えた。
「簡単なことです──皆様が思うより、わたくしたちは順風満帆な恋人同士だったというだけですわ」
この時、兵士らは、ため息をつきながらしみじみと頷いていた。
──その後日
「ごめんね。ごめんね。シル。本当にごめん」
「七十七回も謝罪せずとも、もう気にしていませんわ、殿下」
麗かな午後、緑の溢れる王宮の庭での茶会に呼ばれたシルティアは愛称を呼びながら腰に抱きついてくる男の柔らかな金に近い小麦色の髪を手で漉いていた。
「婚約破棄なんて僕の気持ちじゃない」
「はい、存じておりますよ」
「君が大好きで、愛してるんだ。君と別れるなんて絶っっっっっ対に僕は言わない」
「存じております。殿下は、わたしのことをかなり大好きですよね」
始まってからかれこれこんな感じの会話が、延々と続いていた謝罪会見を兼ねた今日の茶会。
学園創立パーティーのあの騒ぎは、エリアルと、国内一の権力をもつルネライト公爵家令嬢であるシルティアとの婚約を破談にし、かつ、あわよくば公然の場で婚約者を貶めて聖女と不義を通したエリアルの王位継承権剥奪すらも目論んだ国内のとあるワルい大人たちが起こしたものだった。
彼らは、貴族社会のことを詳しく知らない無垢なクレアに、「王子は政略結婚で愛を知らない。けど君には興味があるみたいだ。君なら本物の愛を教えて差し上げられる」といった言葉でそそのかして、王子に近づくよう誘導、親密になってもらい本物の王子に婚約破棄を言い渡させる計画だったらしいが、意外と王子が聖女に靡かなかったため、偽の王子をたてて宣言したということだった。
クレアは素直な子なので婚約破棄が本当に王子のためになると思っていたらしい。愛し合う者同士が結ばれないのはおかしい。といういかにも平民らしい考えを巧みに揺すられたようだ。
まあ、現実はそれも杞憂だった訳だが。
学園から離れた寂れた教会の地下に誘拐され閉じ込められていた本物のこのエリアル王子は、飄々として敵を踏み潰していたところを、探しにいった近衞兵たちによって発見された。
返り血に濡れながら、探しにきた兵士に、「で、何があったのかな」とゆったりとした口調で聞く王子はまだ血が足りなさそうな狂気を孕んだ目をしていたが、王子に化けた何者かがシルティアに婚約破棄を言い渡したと伝えた瞬間、血相を変えてシルティアのもとへと飛んで帰った。
それからずっとこの調子なのである。
要は、このエリアル王子、婚約者のシルティアにラブ!ゾッコン!なのであった。
市街の十代のなりたてほやほやラブラブカップルでも流石にせんわ!的な気味の悪いくらいのデレデレな王子と婚約者との会話は、理性がある者には正直付き合えたものじゃない。
だから理性をなくせば耐えられる。
「殿下はわたしのことを愛してくださっていると、いつも、たしかに伝えてくださいます。だから殿下のお気持ちを疑ったことはありませんわ。だから偽物にも一目で気づいたし、騙されなかったじゃありませんか」
あー、祖母の故郷ではこういうときには心頭滅却っつって〈経〉という呪文を唱えるらしい。と、この場にいた近衞兵の一人は心の中でナムアミダブツナムアミダブツと呟き始めたが、途中から続きが思い出せなくなったため、まあいいやと思いつく言葉を繰り返すことにした。ナムアミダブツダッフンマーサバンナのゾウのウンコよキイテクレつらいせつないかなしいこわい…
「ね、そうですよね?」
「はいっ!──アッ」
心の中で呪文を唱えていた途中、不意に、シルティアの尋ねた声に反射的にビシッと決まった敬礼とともにそんな返事を返した兵士は、言った瞬間、はっとしたように口を押さえたが、後の祭りだった。
ガクガクと震えだす彼を横目にして、隣の友人兵士はのその横腹を突いてやることもできなかった。
一介の兵士(性別・男)がシルティアに話しかけられて、それに答えてしまった。いつもなら彼女に何を言われても敬礼と首振りだけで応えるのがここの不文律である。シルティアと会話を成立させた男を見て、エリアルのアメジストの宝石のような瞳に淀んだ陰が差す。
それを見た瞬間、あ、死ぬ。とその場にいた誰もが思った。
「えーと、君、だれだっけ」
シルティアの膝から顔を上げたかと思うと、にっこりと笑って名前を聞くエリアルに恐怖した。
自分達が仕えているこの国の王子はかなり人間として破綻していることをそばで働いている者なら誰もが知っていた。それも、悪いことを悪いと思えない、蟻と人の命が本当に同列に感じているタイプの人間なのだ。よりによって、それの悋気を起こすとは──
哀れにも笑みを向けられた兵士はがくがくと震えて魂が抜けかけている。友人兵士は、それを助けてやれない自分の不甲斐なさに拳を握った。
だが、そのとき…
「──エリアル様。そのような者より、わたしのほうを見てください」
その言葉にぴくりと反応したエリアルはシルティアを振り向いた。
「いまは、殿下は、わたしに謝罪してくださっているのではなかったんですか?わたし以外の方に、意識を向ける余裕が?」
「!ごっ、ごめんね!そうだった!ごめん、謝るからもう一度、名前を呼んで?」
びくりと肩を跳ねさせてシルティアのもとに跪くエリアル。彼女の片手をとると、ぎゅうっと握りしめた。
「ごめんね、君がいるのに余所見なんてして。怒っている?」
「──いえ、わたしも配慮が少し足りませんでしたわ」
そう言って、あえて小さくため息をついてみせたシルティアは、エリアルから目を逸らす振りをしてエリアルの気を余計に惹きながら、自分に詰め寄ってくるその頭の後ろでもう一方の片手をサッサっと振った。
早くどこかにいけ。の合図である。
すぐにそれを汲み取った兵士──先程まで震えていた彼は、涙ぐみながら、足音を立てずその場から速攻で退却した。
友人兵士は、少し困ったような顔でその後ろ姿を見送るシルティアに向けて、深く、深く、心の底から深〜〜く頭を下げた。
「いまのことは忘れてくださいますか?エリアル様」
「君がそう言うなら」
それはつまり、エリアルは、さっきの彼を咎めることはしないという約束だった。
エリアルの子供の頃は本当に、父である現王が心配していたという。この子を次の王位につかせて大丈夫かと。唯一の息子で継承権は一位にあったにもかかわらずだ。頭も良く剣の覚えもよかった幼少期の彼のなにかを見たか聞いたか…誰もその秘密を知らないが、そんな王が前向きな考えにかわったのは、エリアルがシルティアと出会ったからだった。
エリアルは、シルティアに一目惚れをした。
そして、彼女のためなら人らしく生きてもいいと、国のために働いても良いと決めたと王に宣言しにきたらしい。それを聞いた王は、彼女がいれば、彼がたとえ道を過っても軌道修正ができる、多くの狸のひしめくなかでもぶれない完璧な政治が可能な王になれるだろうと考えた。
ただ一歩間違えれば暴君だが。
シルティアが彼の歪な考えに染まってもおしまいだが。
ヤバい王子様の舵取りを、ひいては国の行く先を令嬢ひとりに押し付けるなんて正直どうかしているだろう。だが、王も必死だった。王妃も必死だった。素早くシルティアとエリアルの婚約を結び、彼女を完全に囲い、シルティアに王妃教育ならびに帝王学、人心掌握術を学ばせた。シルティアには、エリアルよりも王のことを理解してもらい、かつエリアルをコントロールする者として色々と自覚してもらう必要があったからだ。
「ねえシル。僕は君を愛していて、君も僕を愛しているでしょう?ねっ、君には僕しかいらないよね?そうでしょう?」
「そうですね。でも、わたしは、未来の王妃としてこの国の人々、いえ、世界のすべての人々も慈しみたいですから。エリアル様以外を全ていらないとは言えませんね」
だから、こうして折に触れては、エリアルに国民のことを思い出させるようシルティアは言葉を選びながら返してきた。
「また、そういうことを言う。君のそういう皆んなに優しいところも好きだけど……だからこそ学園では僕の目の届かないところにいてほしくないんだよね。君のそういうところ、他の生徒に気づかれたくないもの」
すこしむくれた表情を作りながら言ったエリアルの話に、シルティアははっと思い出すことがあった。
「そういえば、それ、学園では私がエリアル様について回っているように見られているそうですわね」
「うん、僕がそういう風に言ったからね」
すると、そうさらりと答えたエリアルに、シルティアは一瞬、頭を抱えた。
「ごめんね、友達ほしかった?」
「……いえ」
そんなシルティアの仕草に少し狼狽えたのか目を潤ませながら心配そうに聞くエリアルに、シルティアは顔を上げると小さく首を振った。
そう聞く、ということは、その噂の流し方がシルティアに不利になることを理解してのことだったということだろうと、彼女にはわかった。
おそらく、理由は、夜会のドレスは地味なものにしてとか他の生徒と喋るのもできるだけ控えてほしいという入学前にされたお願いと同義だろう。
このエリアル、他のものにはみじんも関心なんて持たないくせ、シルティアに関してだけはかなり束縛が強く、シルティアもそれは自覚していたがどうにもできずに少し困っていた。
ある程度の束縛は許容しているつもりだが、とはいえ、滅多に人と喋れないおかげで誤解されやすいと、特に、エリアルに近づこうとする女生徒を牽制するときに話しが通じにくくて困っていたのだ。
ちなみに、シルティアがそうして回っていたのは、己の嫉妬心からではなく、どちらかというと彼女たちにシルティアといる時間を奪われてエリアルの機嫌が悪くなるのを防ぎたいがためだった。その機嫌の反動が自分への愛情表現が過多になるくらいならまだいいが、表向きは穏やかで優秀な王子様を演じているエリアルが、苛立ちが過ぎて彼女たちを傷つけることがおきてはいけないと、そういう配慮だ。
しかし、憧れという恋の熱におかされた彼女たちにそんなことは通じない。特にクレアは、本気でエリアルがシルティアでなくクレアを愛しているのだと強く思い込んでいて聞き分けなかった。
だから、その言い合いですこし熱くなりすぎ、頰を叩いてしまったことは、シルティアも反省していた。
別に嫉妬なんてしていなかった。エリアルが自分しか愛さないのはわかっているのだから。それに、エリアルの偏った愛が重い分、シルティアは軽くいてフラットでいなければいけないと常に心に刻んできた。でなければ国がめちゃくちゃになってしまうから。けれど、あの日も先日のパーティーも『エリアル様が愛してるのはシルティア様じゃない』『エリアル様が私を愛してしまったから』なんて言われた時に、少し、苛立ったのは
「まあ、なんだかんだ言っても私も愛してしまってるからよね」
「どうかした?シル。やっぱり少し怒ってる?」
「いいえ、エリアル様。ただ、愛は盲目と言いますか……、まあ、愛おしいなと思い直していただけですわ」
「そう?そっか。うん、僕もシルを愛してるよ。君がたくさんのものを愛してもいい。けど、僕には君しか一生いらないくらいにね」
粘りつくような愛の台詞で、ベッタベタに甘えてくる王子をいなしつつかまいながら、シルティアと周りの兵士たちは、あの会場で騒いでいた偽王子の言葉を思い出して鼻で笑ってしまった。
(このヤンデレ王子がこのベタ惚れの婚約者と別れたいなんて天地がひっくり返ってもありえないんだよなぁ……)
おっとり系のヤンデレ美男子が好きです。大事な子にだけはちゃんと愛情を示そうとするけど色々ずれてる男が好きです。けど、相手が大事なのでちゃんと言うことはきく大型犬のような男性が好きです。そんな男に困りつつも愛してるから受け止めちゃっている、常識人だけど懐の広いヒロインが読みたくて読みたくて、結果、書きました。気楽に、お読みいただけると嬉しいです
けっこう好みのキャラができたのでまた書けそうなら続きみたいなの書きたいですねー♪