5アンナの母のショール
いつもありがとうございます。もう少しアップしますので、次話もよろしくお願いします!
翌日も、アンナが朝起きると、樅の木の下にソフィアが待っていた。
二人は仲良く宿屋へ行くと、ソフィアが作ってくれた朝ごはんを食べた。そして朝食の後はアンナの母親が編んだショールを村の衣料品屋に買い取ってもらうのに、ソフィアが着いてきてくれた。
衣料品屋の女将さんは、アンナの顔を見るとたちまち怪訝な表情になり、ショールをじっくり値踏みした。
「今日もいつもの値段でいいね。あんたの家のショールは物はいいんだけどね…」
そう言うと、引き出しから何枚かのコインを出して、アンナの前に並べる。
何でこんなに安いの?とソフィアは目を疑った。
この質のショールなら、街では倍の値段で売っているのに、魔女の女の子だから足元を見ているに違いない。
「女将さん、これではあまりにも安いのではないかしら?都会では倍以上の値段で売られている品だと思うけれど」
ソフィアが言うと、アンナはびっくりしてソフィアを見上げる。すると衣料品屋の女将は眉を吊り上げて、ソフィアを睨んだ。
「何言ってるのかねぇ。ここは田舎町だよ?あんたの知っている都会とは違うんだ」
「でもねぇ。この店で売られている他の衣料品の値段は、街と同じなのに、ショールだけ安く買いたたくって、おかしいでしょう?」
「お姉さん、やめて」
強引に値上げ交渉をしようとするソフィアのマントの裾を引っ張りながら、アンナは小さな声で言った。
衣料品屋のおばさんを怒らせて、ショールを買って貰えなくなったら、私とママは生きてはいけない。だから、今までは安い値段だと知っていても、文句の一つも言わずにいたのに。
しかしソフィアは譲らなかった。
「この子が魔女だからって、足元見るなら私が許さない。村長の所へ行くわよ?いいの?」
「…分かったよ。じゃあ、これで文句は無いだろ?」
女将は諦めたようにため息をつくと、コインをもう二枚並べた。
そんな女将の様子に、ソフィアは満足したらしく、差し出されたコインを丁寧に集めて、アンナに手渡す。
「これからは私がこの子の保護者としてついてくるから、明日からもよろしくね。女将さん」
「ああ、まいど」
女将は苦虫を潰したような顔で悔しそうに言うと、ソフィアを憎々し気に睨み付けた。
「お姉さん、ありがとう」
小さな声でアンナがお礼を言うと、ソフィアは造作も無いと言わんばかりに首を横に振る。
「いいの。当たり前のことでしょう?明日からも私がついて行ってあげるから、安心してね。さあ、お昼はどこで食べましょうか?」
「え?それは…悪いよ」
朝もご馳走になったのに、この上昼ご飯までなんて、とアンナが遠慮していると、ソフィアはそんなアンナの頭をくしゃくしゃと撫でて、微笑んだ。
「大丈夫!もう、パンを二人分、持ってきているから。そうだ、あの樅の木の下で食べるのがいいかもね!」
ソフィアはそう言うと、アンナを馬に乗せて、村を出た。
「どこへ行っていたんだい?遅いじゃないか」
ソフィアとお昼ご飯を食べてから家に帰ると、寝ていたはずの母が起きてショールを編んでいた。
「ごめんね、ママ。でも、今日はいつもよりショールが高く売れたの」
アンナが嬉しそうに言うと、母親は編み棒を動かす手を止めて、ゆっくり椅子から立ち上がった。
「どうしてだい?あのケチな衣料品屋が理由も無く、お金を余分に払うわけないだろう。誰かと行ったんだろう?誰なんだい?!
「…それは、その。たまたま一緒にいた女の商人さんが」
アンナが苦し紛れの言い訳をしていると、母親は苛立ったのか、もういいと言わんばかりに編み棒を乱暴に握った。
「二度とするんじゃないよ?私達はあまり人目についてはいけないんだ。今にその理由がお前にも分かる。いいね?」
「はい、ママ」
アンナは小さな声で返事をすると、俯いた。
何でこんなに隠れて暮らさなくてはならないのだろう?本当は広い世界を、もっともっと見てみたいのに。
アンナは諦めたように俯いたまま、黙ってショールを編む母を見続けた。
いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます!
次話も続きますので、どうぞお楽しみください!