部活③ 〜咲夜視点〜
_:(´ཀ`」 ∠):
草薙晴一、不思議な男だ。
この学園に転入してきたただの一般生徒と思いきや、朝一番で先生からお仕置きが入るやばいやつだった。
隣の相田や若鳥達とは早い段階で打ち解けていたし、あの秋穂とも仲良くなっているとは思わなかった。
「それでは練習を再開する!各自ペアを作って稽古に入る!三分経ったらペアを変えていくぞ!」
「「「はい!」」」
「では部長、よろしくお願いします!」
「うむ、それでは始め!」
私、柊咲夜の数少ない友人の秋穂は格闘技の天才、いや、化け物だ。
夏希先生もそうだがなんで徒手空拳で武器持ちと渡り合えるのかもはや理解に苦しむ。
私も剣の扱いにおいては部内一、同年代であれば全国一を狙える実力はあると自負はしているが、正直あの姉妹とはもうやり合いたくない。
うちの部員達(主に男子)も彼女には恐怖の念を抱いているのも知っているし、彼女もそのことには気づいているから男子と必然と距離を取るのも仕方ないことだと思っていた。
そんな畏怖の対象である秋穂が自ら男子に近づいているのだから、一体どんな心境の変化があったのだろうか。
部活の案内を夏希先生に頼まれたからといって自分から楽しそうに話しかけている彼女はとても眩しく見えた。
そして彼女にそんな顔をさせる彼に、少し興味が湧いた。
彼女を笑顔にする彼が羨ましく思えた。
「…部長、どうしましたか?」
「っ!すまない、気にするな」
私は人と接することがあまり得意ではない。
うちは剣道場を営んでいて昔から稽古に励んでいた。
それゆえに強くあれと厳しく育てられていた。
その親の期待に応えるように私は実力をつけていったが、その反動で堅苦しい性格になったとも思う。
幼馴染の朝陽やがずっと一緒だったし姉弟子もいたのでそこまで困ることもなかったが、笑った方がいいよと姉弟子から言われた時はどうしたものかと悩んだほどだ。
「はぁ、はぁ、あ、ありがとうございました!」
「よし、次!」
高校生になってからもこの性格は直ることはなかったが、特に気にすることはなかった。
朝陽も一緒だし、秋穂や他の人とも少しずつだけど仲良くやれている、はずだ。
告白も何度かはされたが、いかにも邪な目的しか持っていないであろう輩ばかりだったので全て振っている。
一回で諦めてくれる奴もいるがいまだに告白してくる奴もいるので少しうんざりしている。
「部長、次おねしゃす」
「…なんだ貴様か」
「俺が勝ったら今度こそ告白受けてくださいよ」
「…知らん、始めるぞ」
噂をすればなんとやらだ。
剣持貞夫、私はこいつが嫌いだ。
私に告白してきたやつの一人でいまだに諦めてくれない剣道部の後輩。
実力はあるものの部活動には不真面目でよくない噂もある。
稽古の時はこうしてやってきては条件付きで勝負を申し込まれる。
正直不毛すぎて話にならない。
私が負ける相手ではないのでいつも通り負かしてやればいい。
そう思っていたのだが今日だけはこの判断が間違っていた。
「めん!」
「ぐっ!もういっちょ!」
いつも通りの練習、日常のように繰り返し行う稽古に飽きることはない。
昔からやっていることだし辛いと思った時はあるが、投げ出したいと思ったことはない。
ただこいつの相手をしている今は、とても退屈だと思ってしまう。
そう思ったのが、いけなかった。
「っ!いい加減に、しやがれ!」
「っ!?」
私としたことが、油断してしまった。
いや、打ち合いそのものには問題はなかった。
私の視界の外、足を踏まれてしまったのだ。
相手は男、体重もあるし骨こそ折れていないだろうが踏まれた部分がとても痛い。
そしてさらにタイミングがまずかった。
一歩下がろうとした瞬間に足を踏まれたため、重心が逸れたことによって上体はそのまま後ろに倒れ込むような形になる。
足は依然として離れないし、足首まで痛むようになったから捻挫もしたのかもしれない。
尻餅をついた私は格好の的だったのだろう、やつは追撃をしてくる。
「そろそろ、諦めやがれってんだっ!」
「っ!?しまっ!?」
倒れている私に構わず打ち込んでくる剣持。
私は自分の持つ竹刀で受け止めていたが、このこう着状態に痺れを切らしたのか奴は私の竹刀を奪い取ってきた。
こうなってしまっては、私は無力だ。
「くたばりやがれええええ!」
先ほどまで慢心していた自分を責めたかった。
何かあってからでは遅いのに。
この後に起こる悲劇を考えたくなかった。
「(ああ、私も朝陽や秋穂みたいに笑ってみたかったな…)」
そして私は、初めて諦めた。
襲いかかってくる恐怖に思わず目を閉じてしまった。
そんな私に奴の竹刀が振り下ろされ…ることはなかった。
「(?攻撃が来ない…?)」
どうして攻撃が来ないのか、恐る恐る目を開けてみる。
そこには…
「なにしてんだてめえ…?」
先ほど秋穂と話していた、彼がいた。
私が羨んでいた件の人物、草薙晴一がそこにいた。
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