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クローバー


 結婚をする事に伴って引っ越しをする事になり、僕は休日を利用してと言うか、引っ越しを明日に控えて大慌てで荷物の詰め込みに追われていた。

 荷物の量はそれほどでも無いのだが、やはり一人の人間が移動するとなると、どん詰まりまで何もしない性格が災いして大変な事になっている。

 床に一枚の古びた紙が落ちているのを見つけた。


 「これは……」


 いつしか無くしたと思っていた、四つ葉のクローバーの押し花。

 小学校六年生の頃にクラスメイトだった山田華子がくれたものだ。

 正確には僕も昼休みに学校の校庭で探すのを手伝った上で見つけたものだ。

 当時の思い出が蘇る。


 「ねぇ、知ってる?クローバーの葉っぱの枚数のギネス記録は五十六枚なのよ」


 山田は僕の方を見る事もなく、必死な形相でクローバーこと、白詰草の群生している校庭の端をしゃがみ込んでまさぐっていた。

 山田とは特別に親しい訳ではなく、ただの時々話をするクラスメイトと言う関係だった。

 家が貧乏らしく、毎日同じトレーナを着てくるので、クラスメイトからいじめを受けていたことがあり、それを庇ってあげて、いじめが止まった事があったくらいだ。

 

 「五十七枚のクローバーを見つけてギネス記録でも狙っているの?」


 僕は無理やり手つだわされていたので、少し不満げに答えたのだけれど、彼女は別に気にしていない様子だった。

 

 「そう言うわけでも無いけれど、見つけたらすごいと思わない?何でもできそうな気がするでしょう?だって七枚のクローバーでも、発生率は二億五千万分の一なのよ?」


 では五十七枚となると、それはもう天文学的数字になるのでは無いだろうかと思った。

 それはもう存在しないに等しいのでは無いだろうかと。


 「あった‼︎」


 彼女が突然叫んだ。


 「五十七枚があったの⁉︎」


 僕は駆け寄り、彼女の手を見ると指に詰まれていたのは四つ葉のクローバーだった。


 「なんだ、四葉のクローバーじゃ無いか」



 「これでいいのよ」

 

 彼女は嬉しそうな目で四葉のクローバーを見つめてそう言った。


 

「これあげる」


 そう言って、彼女は昼休みの終了を知らせる放送と共に教室に帰って行く。

 僕はその後ろ姿を見ながら、この行為に何か意味があると言うことを、いくら鈍感な僕でも気が付いてはいた。

 ただそれがどんな意味を持つ事になるかは解らない。

 ネット環境もなかったので花言葉という発想に僕は到達しなかった。

 少なくといもその時点では。

 彼女に直接聞くという方法もあったのだが、翌日から彼女は学校に来なくなり、噂によると父親が事業に失敗し、家族で夜逃げをしたらしい。

 彼女と再び出会うのは小学生の僕からしてみれば、まさに五十七枚の葉を持つクローバーを見つけるに等しい事だと思えて、彼女に貰ったクローバーを押し花にした僕は、それを時々見ては悲しくなった記憶を思い出す。


 「ちょっと、全然片付いてないじゃ無いの。明日から一緒に住むのに何やってんのよ」

 

 僕の婚約者である彼女が部屋に突然入ってきてそう言った。

 

 「四葉のクローバーの花言葉って知ってる?」


 僕は手元の押し花を彼女に見せながら聞いてみた。

 

 「……さぁ、昔は知っていた様な気がするけれど、覚えてないわ」

 

 彼女はバツが悪そうに僕から目を逸らしてそう言った。


 「英語では真実の愛、日本語では私を思ってとか、他にも色々あるけれど、初恋の人に送るとか花とかがあるらしいよ。くれた人にいつか聞いてみたいと思ったんだけど。山田華子さん?」


 会えなくなった時は、二度と会えないと思っていた。

 だけど、ネットが普及して実名登録のSNSが登場してきて、僕と彼女は再会できた。

 その後なんやかんやあって付き合うまうまでにはそう時間はかからなかった。

 結婚式を一月後に控えて明日から一緒に暮らす訳だけれどその前に是非とも聞いておきたい。


 彼女は恥ずかしそうに、一言だけ言った。


 「復讐よ」


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