良いサンタ悪いサンタ
その子どもにとって、サンタクロースはいるけれどいない人だった。
欲しいものをくれるサンタは良いサンタ、欲しいものをくれないサンタは悪いサンタ。
毎年、毎年、欲しいものをくれないクリスマスのサンタクロースはとても悪いサンタだった。
貧しくて子どもの欲しがるものを買ってあげられないお父さんとお母さんは、それでも二人でよくよく話し合って子どもが喜んでくれそうなものを毎年選んでいたのだけれど、クリスマスにプレゼントのふくろを開けた子どもは、いつもいつも二人の前で「こんなものいらない!」と部屋のすみへ投げ捨てて見向きもしなかった。
そうして何年目かのクリスマスに、とうとう子どもは大きな声を上げて泣いた。
ひどいひどいひどい、いやだいやだいやだ、なんでなんでなんで。
お父さんとお母さんがダメと言うのもきかず、泣きながらせまい部屋の中を全力で走り回って、うっかり何もないところですっころんで、ひざとほおをゆかに打ちつけたタイミングで、げんかんのチャイムがピンポン、と鳴らされた。
「子どもの大きな泣き声がずっと聞こえているとの電話がありました」
やってきたおまわりさんは、そんなことを言ってお父さんとお母さんに色々聞き始めた。
子どもをたたいたこともひどい言葉をぶつけたこともごはんを食べさせなかったことも寒い部屋の外で立たせたこともおふろで熱すぎるお湯をかけたことも無理やり勉強をさせたことも無視をしたこともなく、欲しいものを買ってあげられない以外、愛情をこめて優しく育てていたお父さんとお母さんは、おまわりさんに連れられてどこかへ行ってしまった。
せまいけれど広くなった部屋で一人ポツンと座っていた子どもは、おまわりさんの後にやってきた優しい大人に手を引かれてとある場所に預けられた。
そこにいた大人たちはみんな、子どものことをかわいそうかわいそうと優しくしてくれて、欲しいものはなんでも買ってくれた。
大きすぎて高すぎるものは「また今度ね」と言われてしまうけれど、小さなものはなんでも、ちょっと大きなものでも「今回だけね」と言って、でもまた買ってくれた。クリスマスじゃない日のサンタみたいな人たちは、良い人ばかりだと子どもはうれしくてしかたがなかった。
しばらくしてお父さんとお母さんがむかえに来て、自分の家へひさしぶりに帰っていった子どもは、それからほんのちょっとの後にまた、とある場所へもどってきた。
「欲しいものを買ってくれないお父さんとお母さんを、おまわりさんがいっぱいおこってくれるんだって。あと何回おこられたらお父さんとお母さんは欲しいものを買ってくれるようになるかな。クリスマスのサンタもおまわりさんにおこられればいいのに」