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56話:巨木が朽ちる時(閑話)

今回閑話です!

 時の流れとは恐ろしいものだ。

 驕れる者もいずれは滅びるのは世の常というが……。


 一時は家臣群のなかでも随一の権勢を持ち、優秀な宰相を輩出したデミレル家も例外ではなかった。


 建国の功労者の建てた巨木は時代を経るごとにゆっくりと立ち腐れていた。

 数々の不正に手を染め民草が苦しもうとも何も感じなくなるほどに。


 かつてクルテガという王国跡にたてられた皇領の代官として初代ケマル・デミレルが選任され約三百年。

 以降デミレル家門がクルテガの代官を世襲することとなった。


 三百年という年月は物事や人心を変えてしまうには充分すぎる時だった。


 幸か不幸か国が脅かされるほどの戦もなく永遠に太平の世が続くかと思われるなかで、賢帝アスラン一世がクルテガをデミレルに任せた意味とその高潔な志を、この名門は忘れ堕落していった。


 長く代官であるうちに自らがクルテガ領の王であるかのような錯覚を覚えたのである。


 デミレルにとって民は慈しむものではなく虐げ、搾取するものに変わった。

 ただの一介の代官であるのにもかかわらず、皇帝の許しなく自らの家門の益になるように全てを取り計らい、私腹を肥やし続けた。



 ……その結果が五年前の大飢饉であった。


 確かにその年、旱魃はおき畑は枯れた。

 天候に関してはどうにもならない。

 だが実のところは領民の救済策を速やかに施行していれば、()()()()()()()()()()()の危機だったのだ。


 飢饉の前兆が見えた時点ですぐさま手を打てば不作で終わるはずだったものを、デミレル家は領民を顧みることも策を講じることもせず、自らの家門の保身のためだけに皇帝に上げるべき報告を全てを握りつぶした。


 当主ラーミン・デミレルの指図の下で。


 もしもその時、救済策さえ打ち出していれば、一通でも皇帝の元へ報せが届けば、民が命を失うこともウダの娘達が家族を飢えさせないために女衒ぜげんに身を売ることもなかった。


 五年前、アセナの郷を襲った悪夢はすべてはデミレル家の慢心から引き起こされた人災であったのだ。


 皇帝であるアスランがその事実を把握したのは即位して間もなくの頃だった。


 荒廃した大地を思い、すぐにでもデミレルを討とうとした。

 が、皇子時代からデミレル家と対立し衝突を繰り返しデミレル家の対抗勢力からは支持を集めていたアスランではあるが、即位したばかりで政権も未だ安定せず掌握することも叶わない現状で、巨大な勢力であるデミレルを即断することは不可能だった。


 ゆえにアスランは息を潜め、時が満ちるのを待っていた。

 即位して5年、好機が到来した。

 アスランは宿願を達成したのである。


 この政変によってラーミン・デミレル他デミレルの名を冠す者及びそれに連なる者たちのうち男子は全員処刑され、女子も直系は処刑、それ以外は財産を接収された後にわずかな金銭を持たされて国外に追放されることとなった。


 パシャ王国の最後の王と建国の賢帝アスラン一世の寵臣ケマル・デミレルを祖にする一族は、こうして全身全霊をもってして仕えた王の子孫の手によって滅せられたのである。




 そして皇帝アスランの咎人に対する情け容赦のない態度もまた官民に衝撃と戦慄をあたえることとなった。

 皇帝アスラン・パッシャールは国に害なす者や無能者には厳罰を下すと内外に宣言したようなものだ。


 最大の敵対勢力を破った皇帝の揺るがない意思と胆力に、日和見主義の世襲貴族たちは恐れおののいた。

 後ろ暗い事実を抱えた者は宮廷を去り、出自を問わないアスランに魅かれる者は意気揚々と参内した。



 アスランの造る新しいパシャが始まろうとしていた。



 こうして外廷でのデミレルは全て駆逐されたのだが、さて、内廷……後宮のデミレルはどうなったのだろうか。


 後宮のデミレル直系はラーミン・デミレルの実妹である第一位皇妃ヤスミン・デミレルとその子ファフリ皇子である。


 二人は我先にと使用人が逃げ出しかつての隆盛の面影も失った第一位皇妃宮でひっそりと毒をあおり命を断った。

 ヤスミンとファフリ皇子を看取ったのは、実家から連れてきたたった一人の年老いた侍女だけだったという。

 権勢を誇ったデミレル家出身の、しかも皇子まで得た宮女としては寂しく侘しい最期であった。


 ほどなくしてヤスミン・デミレルとファフリ皇子の亡骸はひっそりと後宮の裏門から運び出された。

 皇子は帝室の陵墓に埋葬され丁寧に葬礼が行われた。が、母親であるヤスミンには葬礼を出すことも許されず、都のはずれの小さな寺院に埋葬されたとのことである。

読んでいただきありがとうございます!


今回はデミレル家とアスラン、そして現状の説明回となってしまいました。

閑話と思っていただければ!

次回から物語にもどります。


ブクマ・PVありがとうございます。

励みにさせていただいています。


ムーンライトノベルズにスピンオフを書いています。

ちょろっとでてきたマルヤムとアスランのご先祖様パシャの最後の王のお話です。性的なエピソードもあります。大丈夫な方は読みに行ってみてくださいね。

(※タイトルは「碧玉の乙女は草原の覇者の腕の中で夢を見る。」 https://novel18.syosetu.com/n9540gf/)


不定期更新になりますが、次回も是非読みに来てください!

皆様に多謝を。またお会いできることをいのって。


↓よろしければ、こちらもどうぞ。

[連載中]

ゆるゆるご都合異世界恋愛物語です。

「前世から人生やりなおします!」

https://ncode.syosetu.com/n6147gb/


[完結済]

ただひたすら幼馴染が主人公を愛でるお話です。

「アイのある人生は異世界で。」

https://ncode.syosetu.com/n1461ft/

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