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24話:鹿毛の馬。

長くなりましたので、分割しました。

 考え込むアセナを少し離れた場所で控えているリボルは神妙な面持ちで見守っていた。


 この国の支配者皇帝アスラン・パッシャールとの初夜の後、アセナは度々暗い表情をし物思いにふける事が増えていた。


 入内して四年。

 ようやく皇帝に愛されるという後宮の宮女の誰もが望む立ち位置に立ったというのに、侍従宦官のリボルはやるせない想いでいっぱいであった。


 後宮入り直後リボルと初めて顔を合わせた時と同じ表情をしているのだ。

 過酷な人生を――庶民では珍しいものではないが――送ってきた不安と落胆、恐怖と、そして怒りが混ざり合った顔。


 陰鬱な表情では後宮では生き残れない。

 長い時間をかけ、リボルはアセナの自尊心を育て出来うる限りの教育を施してきた。

 自信を兼ね備えた魅力的な佳人がようやく出来上がってきたというのに!


(まったく陛下は要らぬことをなさる。台無しじゃないか)


 リボルは太鼓腹を揺らしながら早足でアセナの元へ急いだ。


 夜伽時になにがあったのだろう。

 侍従宦官は閨の最中は控え室で待機している。だが天蓋に覆われたベッドの中で何が行われ語られているかまでは把握できない。


 リボルは皇帝よりアセナの将来が語られたのではないかと考えていた。

 

 アセナが一番望まないことは後宮での出世だ。

 無位のまま後宮で暮らすことが一番の望みであると以前より明言していた。

 そのアセナがここ数ヶ月のアスランの熱意に折れ、ようやく下位の皇妃として生きることを受け入れてきたところだったのだのに。


 おそらくは皇后位の打診をしたのではないか。


(陛下はアセナ様に異様なほどにご執着なさっておられる。アセナ様はまだ皇妃。まさしく時期尚早だ)


 リボルの野望ももうすぐ叶うところまで来た。が、このままではアセナが潰れてしまう。全てが水泡に帰すのは何としても避けたい。


「アセナ様」


 リボルは息を切らしながらあえて明るく滑稽に話しかけた。アセナとカルロッテが揃って振り返る。


「ここは風光明媚なオビスでございますよ。ご覧ください。この素晴らしい借景を。今は何も考えずに静養いたしましょう。それに考えたところで、貴女様に良き考えが浮かぶ在ろうはずはございませんから」


 とたんに沈んだ表情が胡散し、いつもの明朗なアセナが戻って来た。


「はぁ? ひどいこというよね、リボル」

「貴女様は短絡で……いえいえいこれは失礼いたしました。ですが、アセナ様は落ち込んでいらっしゃるよりも、こうリボルに無駄口叩くくらいがよろしゅうございますよ。リボルも調子がでません」


 カルロッテがコロコロと笑う。


「ふふふ、確かに。悩むだなんて、アセナらしくないわ」

「カルロッテ様もリボルもひどい。そんなお気楽に見えますか? これでもそれなりに悩んだりするんですよ。いっつも胃が痛む思いをしているんですから」


 リボルは呆れたように両手を挙げ、


「今をときめく寵妃様が何を悩むことがあるのですか。アセナ様は笑っておられる方が御似合いです」

「いつでも笑ってるのはただの馬鹿でしょ。私はそれほど能天気でもないのに」


 アセナは不満顔だ。華麗に聞き流したリボルはこちらに来た本題である馬場での乗馬の準備が出来たことを二人の妃に伝えた。

 カルロッテは少し考え、「なんだか疲れたわ。私は先に戻るわね。アセナは乗馬でも楽しんでいらっしゃい」と護衛と自らの侍従宦官を呼びつけると、ゆっくりとした足取りで来た道を引き返していった。ときおり足元がおぼつかない。


「カルロッテ様、顔色がよくなって安心していたけれど、実際はあまり回復なさっておられないのね」

「御典医によりますとかなり病状は進んでおられるようです……。それよりも!」


 リボルはポンっと手を叩き、話題を変える。


「陛下からの下賜品の鹿毛の馬が届いております。どんなことにも動じないよい牝馬だそうです。アセナ様にちょうど良いだろうとのお言葉も添えられておりましたよ」

「そう。見に行きましょうか」


 アスランの愛馬は名馬であることは間違いないだろう。乗馬はかなり得意なアセナは気持ちを奮い立たせ、馬場に向った。

読んでいただきありがとうございます!

前回から少し間が空いてしまいました。


24話目の更新です。


鹿毛とは馬の毛並みの種類で、体が茶色でたてがみや尻尾などが黒い馬のことをいうそうです。

大抵の人のイメージする茶色の馬ですw


ブックマーク・PVありがとうございます!

不定期更新になりますが、長い目で見ていただけたら嬉しいです。


次回もお会いできることを祈って!

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