表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/70

閑話:諱(いみな)(1)

本編離れまして、閑話になります。

一話がとても長くなりましたので、分割しました。

若干短めです。

 時はほんの少しばかりさかのぼる。

 未だ皇妃に内定する前、そしてあの月下の遭遇後のこと。


 後宮の妃二人アセナとカルロッテへ大賢者ヘダーヤトの教授を受けるようアスランから下知が下された。

 前代未聞のこの指令。

 後宮は大きく揺れた。 

 

 警備兵を除いて完全なる男性が立ち入ることを許されない後宮へ、老いたといえど男性であるヘダーヤトが通う。

 ヘダーヤトだけでなく当然護衛の武官までもが入宮するとなると、後宮を支える宦官や女官はなかなか受け入れることはできなかった。

 初めての講義の日は後宮が上から下へ大変な騒ぎとなり、第三位の宮には苦情の伝令が途絶えることはなかった。


 それから数週間。

 後宮は変貌を遂げていた。

 

 老獪なヘダーヤトはさすがは賢者とよばれるだけあり、人身掌握術はお手の物だった。

 長い宮廷生活と実績から培われた物腰の柔らかさでゆっくりと後宮中を懐柔していた。

 

 講義の回数を重ねアセナとカルロッテ、そしてヘダーヤトとの間にうっすらと心地よい師弟関係が出来始めるころには後宮の誰もが歓迎するまでになったのである。


 この日の講義も穏やかな雰囲気で終わると、アセナは満足そうに帳面を閉じた。新しい知識を得ることが愉しくて仕方が無い様子だ。


「ヘダーヤト先生、今日もとても面白かったです。ウダのさとの古老の話でしか歴史を知ることはありませんでしたが、こう先生からお話を伺うと歴史とは何と奥深いものかと感じました」

「それは教えがいがありましたな。歴史を学ぶことは未来を学ぶことでもあるのです。アセナ妃様もしっかりお学びください。いずれ貴女様の血となり肉となりましょう」

 

 ヘダーヤトがリボルに茶の準備をするように伝え、ふぅと息をついた。


「さて。今日は歴史を学びました。歴史と深い関わりのあるパシャの慣習についてお話しましょうか」と長い白髭をゆるゆると撫ぜた。

 

外国から嫁いできた姫と少数民族出身の娘はパシャの習わしに疎い。文学や歴史といった教養を授けたあとはこうして雑談をしつつ妃としての知識を落とし込んでいくのを常としていた。


「パシャにおいての名前に関する概念をお話しましょう。この国では名前は尊いもので、とても大事に扱われます」

 

 ヘダーヤトは目の前に置かれた湯気の立ち上がる茶碗を持ち、派手な音を立ててすすった。


「このパシャには古より真の名は神聖で秘匿するものだとする考えがございます。女人はその限りではないのですが、かつて男性は成人すると実名は避け通称……あざなで呼ばれておりました。その慣習が出来上がり数百年経た現在では庶民では廃れた習慣ですが、貴族や帝室では未だ残っております。まぁ女人ばかりの後宮にいらっしゃるとお耳に入ることもないでしょうが」

 

 ヘダーヤトの言葉をアセナは目を輝かせて聞いていた。

 教育を受ける機会も無くウダという閉ざされた郷から女衒に売られ後宮に来たアセナは、パシャの慣習に触れることなく今まで来た。

 パシャ民からみると当たり前の事でも、アセナには物珍しく興味深い。


「つまりヘダーヤト先生のお名前や、陛下のアスラン・パッシャールというお名前は真の名ではないということでしょうか?」

「左様でございます。ヴィレッドブレードやウダ族にはない慣習ですな。パッシャールは尊号で、アスランは実名の一部ではありますが実名ではありません。帝室の家名はサイと申されます」

「アスラン・サイが陛下の真名となられるのですか?」

 

 アセナは帳面に拙い字で書き取りながら訊いた。


「間違いではありませんが、正確でもありません」

 

 ヘダーヤトはアセナの書き間違いを指摘しながら、皇帝とその家族しか知り得ない真名があるのだと応えた。


「アスラン・サイも通称に過ぎません。真名をご存知なのは今上のみでございましょうな。お付けになられた先帝陛下と母君様はもう崩御なさっておられますし、同腹の御兄弟もいらっしゃいませんから」

 

 アスランは先帝と先帝の第四位皇妃の間に生まれた皇子である。

 

 先帝は多く子を持ってはいたが、アスランの母である第四位皇妃とはアスラン以外の子を設けなかった。兄弟姉妹の間柄では真の名を使うこともあるが異母となると明かすことは無い。

 両親が身罷った今となってはアスランを真の名で呼ぶ完全に血の繋がった家族は一人も居ないということになる。


(陛下は孤独なのね。こんなに広い御所や後宮を持ちながら、血を分けた兄弟もいない)

 

 あれほど気高く猛々しいアスラン、この国の最高権力者に心許せる兄弟がいないなんて。

 アセナはアスランの境遇に同情した。


読んでいただきありがとうございます。


ここのところスランプ?といっていいのか、全く文字が書けない状態でした。

一文も書けないまま数日が経ってしまいました。


パソコンの前で何時間もうなりながらも、閑話という形になりましたが、何とかかけました!

ほんとうによかった。


pv・ブクマありがとうございます!

次回の更新も閑話になります。

明日更新が目標です。

次回も読みに来てくださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ