魔王の気まぐれ1
人が他人に対して、ほんの少しでいいから優しくなれる世界を創りたい。
そう、ヘスティアは言った。
それが望みであると。
愛おしいと思える人類と、その人類が住う世界がより良くなるかもしれないと願ったという。
「それは…」
「下らんなあ!実に下らん」
俺様が声をかける前に、先ほど痛めつけた若い雷神、タケミカヅチがヘスティアに詰め寄る。
「ヘスティアよ、貴様に神としての矜恃はないのか」
「貴様も神であるならば信仰を集めるために現世の情勢を操作するが定石であろう。くだらん夢戯言を吐くな!!」
雷神タケミカヅチの言い分も最もである。
神への信仰。
わかりやすく言えば、
【神よ救いたまえ】
【神よ助けてたまえ】
と言った願い、つまりは救済の願望である。
信仰の多さは単純にその神の力、影響力となるのだから、集めるに最も有効なことは自身の神格に乗っ取った世情を反映すればいい。
闘神格であれば、戦乱や紛争の絶えぬ世界。
商神格であれば、情報や技術の発達した世界。
芸新格であれば、格式と伝統が重んじられる世界。
こんなところであるか…
意味こそ違えど、その根本にあるの…
「ち…ます…くだら…なんかない…」
「そもそも、貴様のような者が由緒正しき戦に選ばれたことも納得いかん!」
まあ、そうだよなぁ。
おおよそ神らしくない、神格としては明らかに格上の神々が鎮座している。
…
「たとえギルベルト殿に推挙されたといえ、ここにいる誰もが貴様の参列を認めていないのだ、それならば粉骨砕身の気概を持ち、代理人を連れてくるべきであろうが!」
推挙?あの軽薄な神がコイツを推薦したのか。
なるほど…それはますますもって面白くはないだろうな。
ここに居る神らはこの世界では中核を成す存在、名が通ったメジャーな神達なのだろう。
それなりに信仰と知名度もあり、道端で適当にアンケート取っても名前が出るぐらい知名度がある。
その裏にはハッキリとした神格、恩恵があるのだろう…な。
その為にコイツらも様々な施策を行ってきたのだろう。
それが、組織の最高幹部であろう者からの直接の引き抜かれたのが、大した実績もないチンチクリンなら納得できんわな…
ただし…
「だいたい貴様のような…」
「おい。」
怒涛の勢いで捲し立てる雷神に声をかける。
なんだ、とか言っていた様子だったが、続く言葉はよく分からなかった。
…何故かって?
決まっているじゃあないか。
俺様の右拳が雷神様の御尊顔に突き刺ささり、そのまま思いっきり彼方に吹っ飛んで行ったからさ。
勿論滅神なない程度に魔力を込めて。
錐揉みしながら吹っ飛んだ後、地面を水切りの石みたいに20回ぐらい跳ねて、止まった後真っ白な地面が赤く染まっていたが…多分滅神んでない。
「貴様…っっ!」
あまりの出来事だったのだろう、鎮座していた他の神達がいきり立った様子を見せるが、少しばかり威圧して見せると口をつぐんでしまった。
…奥の3人は微動だしていなかったが
自身に危害が及ばないと思っていたのか?
人が話をしているところに割り込むなど無礼な態度を取るからだ。
「なんだ?」
何か言いたげだが言葉が出ない様子である神達であったが、気づいていてもそれに配慮や空気を読む必要もない。
視界の傍にボロ雑巾の如く佇む雷神に先程諫めていた女神が駆け寄るのが見えた。
なるほど、悪いことをしたかもしれんな。
「さて…」
未だカタカタ震えて土下座している神の前に立つ。
「おい、バカ神。契約をしてやろう」
俺様の言葉の後、その場の刻が止まった。
震えていた女神は恐る恐る頭を上げ、眼前の声の主に視線を移す。
余程の恐怖体験だったのか、涙やそれ以外の汁で顔がドロドロになっていた。
…正直汚いなぁ…
「ほ゛ん゛と゛?」
真っ赤に腫らした瞼の奥は、僅かながらの希望の灯が見えた。
「あぁ本当だ」
「……ッッありがど、ぶぎゃん」
汚れた神様は数秒固まったまま動かなくなったが、小刻みに震え色んな汁を飛ばしながら飛び込んでこようとしたが、流石に色々嫌だったので、魔力で壁を作ってお断りした。
それに、
「ただし、もう一度聞かせろ駄神。貴様の欲を」
「え?さっき言ったとおりなんだけどぉ…」
大事なことだと念押しすると、怪訝そうな様子ではあったが、一呼吸を置いて、
「僕の神の頂は、人が他人に対してほんの少しでも優しく、思いやりのある世界を。他人の痛みを他人の苦しみを分かち合い、助け合い隣人に手を差し伸べることができる世界を。そうすれば、争いや諍いや飢えや貧困や孤独を越えて、みんなが幸せを感じることができると思うから」
ッッッッ!……寒気が走った。と、同時に笑みが溢れる。
「…なるほどなるほど…」
満足気な駄神に向かって、歩み寄る。
「まずは数々の御無礼をお赦しいただきたい。ヘスティア神」




