Episode03 イヴェール骨董店
本エピソードには残酷な描写があります
慌ただしい毎日が続く
食事作法、着付け歩き方、対人作法、果ては宮廷作法まで徹底的に
”リビュート”とフラガナに仕込まれる。
特に食事時は、”髪”で摘み食いをしないように何度も言われてしまう
一人住まいのときは、”堂々”としていたがそうもいかなくなった
その上、沐浴する時はちゃんと”手”を使うように言われて
「ねぇ リビュート 貴男 もしかしてこの屋敷に来る途中の馬車で
私が水浴びするトコ見たでしょ? 」
と問い詰めると
「そっ そんなことたぁねぇよ ネフィが”魔精”を使役して
沐浴してたなんてよぉ」
とイヴェールが凄んだせいかあっさりと彼は陥落した。
ーー やっぱり あの時見られてたんだ うぅ サイアクだわ ーー
それ以来、魔精を無闇に使役しないよう 沐浴時は
フラガナの監視がついてしまう
「ねぇ 一回位いいでしょ? 」
とおねだりしても十回に一回ぐらいしか許可してくれない
「ダメですよ 貴女にはこれから衆目に曝される機会を沢山有りますし
つい、うっかりでは済まされませんよ
まぁ ちょっとだけならいいですが 私もご相伴に預かれますしね
あれ キモチいいですからね」
と言ってくれる時もある。
そんな令嬢としてまた、ヒトとしての振る舞いの使い分けを習得していく。
お義父様とお義母様は公務が忙しいのであまり面と向かう機会は少なかったが
それでも夕食時は大抵は一緒に居てくれる。
殆どは、公務の話しで少女好みの話題は少なかった ......が
実父と同居していた頃は、研究関連の話題が
殆どで独りの食事の時も多かったから尚更、私は嬉しかった。
ーー やっぱり、食事は多いほうがいいよね 誰かとおしゃべりしながらっていいよね ーー
取り留め無い会話、何気ない相手の仕草それは決して独りでは味わえない充足感だった。
そして余暇は敷地が広く、それだけでもちょっとした冒険気分になれるので
空き時間は庭園迷路や散策で過ごす。
良く良く見ると庭園は、一見不気味な姿をした蜥蜴型の妖魔や小人型の妖魔が
手入れをしていて私には手を出さない彼らもリビュートの眷属らしく
リビュートが何やら指示を出していた。
それに加えて私設書庫館や個人所有の遺跡まであり、
父の野外研究で、方向感覚は養われててはいたものの
しばしば、迷子になることも有って次の ”授業” に間に合わず
特にリビュートは殊更嫌味を含めて怒ることがあり
ーー やなやつ 男の子ってわざとそうやっているとしか思えないわ ーー
と独りごちることも両の手で数え切れないくらいある。
「あの 執事さんて 何処リビュート? 」
この屋敷には、リビュートとフラガナあと執事がいる筈である。
その執事はまだ見掛けていなかった。
その事を聞くと リビュートは
「今は此処には居ない ”プラト” は 人界でも魔界でも忙しい身でな
今は ネフレイン”お嬢様”の イヴェール骨董店 の調整の準備だ
じゃじゃ馬の君の事だ どうせ彼処と此処を往復することになるだろ
だから その不便を和らげる為に”レメトギアの園”と”王都:キスルト”
との狭間の空間にに店の本体を置き
出入口だけを繋ぐんだ
そうすれば何も不便はないし外観は何方からも普通に見えるし
お客も違和感なく訪れることが出来る
しかも王都の客は王都へ”レメトギアの園”から入った客は”レメトギアの園”へちゃんと戻る
双方を行き来出来るのは君とイヴェール後 君とパスを繋いだ者達だけ」
ーー じゃじゃ馬は余計だわ ーー
といつものことと さらりと流す
「パス? 」
ーー なんか、特別な事したっけ? ーー
疑問が顔に出たらしい
「契約を交わした時、青白い小鳥になって胸に飛び込んだろ
あれが パスだ。 アレは特別なんだがな まぁ ああいうのだ」
とリビュートは教えてくれる。
「まぁ店は実際に行って見ないと解んねぇかもな
有り体に言えば王都:キスルトと”レメトギアの園”を繋ぐ空間内に
店が有ると思っていい 君はただ普通に店に出入りして
”裏口”から 繋いで と思うだけでいい
ネフレイン、君の能力とあの血玉水晶の塊が有ってこそなんだ
ただ 大気のマギの変動に影響され易いのが難点でな
それには気をつけな 空模様が七色に揺らぐからそれが兆候だ
安定すれば扉は開くから それまでは 茶でも飲んでゆっくりしてな
但し、窓はそん時は絶対開けるなよ
君とイヴェール以外は 空間に放り出される可能性があるんでな」
とこの時は茶化さず真摯な態度で説明してくれた。
ーー こんな時はだけ かっこいいんだから 男の子ってずるいな ーー
「どうした? 俺様に惚れたか? 」
「いえ ち・が・う・もん ちょっと ”見惚れててただけ だっ だけど今ので台無しになった」
「ちぇっ そうかよ あーぁ お嬢様は、気難し屋さんだなぁ」
等と変に茶化した物言いに ”ワザ” とそっけない顔を作った。
それでもそんな彼に私は、次第にキモチが開いていくのが実感出来ていた
彼の第一印象はサイアクだったから。
ある時、屋敷に慣れ作法にも授業にも慣れ
物心ついたときから本に囲まれて過ごしてきた私は、
私設書庫館でいつもの習慣に倣い本を開く
「あれ お嬢様 読書ですか? 」
「えぇ フラガナ ここは御本が沢山で嬉しいの
亡くなった父を思い出して」
「そうでしたか レスタス様が寄蔵された資料も有るんですよ
ご自身の研究結果を 旦那様が本の形式に纏めたものとか
まだ整理が付かず このフラガナ独りではまだまだ人手が足りません
いずれ 少女型の魔導人形も一体導入すると旦那様が
おっしゃってましたし
それまでは、申し訳有りませんがお嬢様ご自身で何卒」
「えぇ 私、御本を発掘するの好きよ って魔導人形が来るの? 」
ーー 魔導人形って あの魔導人形? ーー
このデュナミートでは、ヒトが自分の姿を真似た 魔導人形が存在する
大きさは様々だが、共通するのはとても高価なこと・高名な魔導技師が
整備の為、導入したお屋敷に住み込む事があるそうで若い技師もいると聞く。
その技師も男性が殆どで、今から少し楽しみになってきた。
「そうですとも この私設書庫館専用の司書ですとも
何でも旦那様は 稀代の魔導技師の
お知り合いがいるそうで 守り手兼司書を是非にとおっしゃっていました」
「おぃ フラガナ それ俺様がネフィに言おうかなと思っていたぜ
楽しみを奪うなよ」
といつの間にかリビュートは私の肩に手を置きゆっくり回そうとしてくる
「いやっ」
と 思わず髪で払ってしまい イヴェールがすかさず 爪を立てて威嚇する
「ごめんなさい まだ殿方って怖くて 決して他意はないの」
「あぁ ごめん 俺様もちょっと調子に乗ったわ たかが”御者”の分際でな
イグレーシア様の愛し仔に気安くするなんてな すまねぇな」
と寂しそうだった。
「そこまで、謝罪を求めてないっ 私は私、かーさまとは違うわ!!
それに自分をたかが”御者”って言わないで」
と思わず声の調子を強くして言ってしまった。
「すまん ネフィはネフィって理解はしているつもりだがな
でもよ そんぐらいアンタのお袋さんは妖魔じゃ
上の存在なんだよ しかもアンタはその愛し仔だ
つい 近くで見られているような気がしてな
だが自分を卑下した物言いはもう言わねぇ
こんな本ばっかのトコって苦手でよ そんで そんで
あぁ もう俺様はちょいと頭冷やしてくる しっかりとしろ 俺様っ!! 」
と彼は自分を頬をバチリと叩いて
「詫びついでと言っちゃなんだが、今日は後の授業は無しな こんぐらいしか今は返すものがねぇ」
と出ていってしまった。
「もう、あんなに自分を卑下しなくてもいいのに」
とごちる。
「お嬢様 殿方ってね 好いている娘がね 届かない身分だとああやって
自身を卑下して 同情を惹かせたいって思わせるトコが有るけど彼は
純粋に言葉通りにそう感じたのよ それだけは解ってあげて」
とフラガナ。
オトコゴコロを掴むのに長けているサキュバスの彼女がそういっているし
彼の今までの言動を鑑みるに、そこまで考えて言った発言とも思えない
妖魔は厳格な階層社会だとも理解はしている ......が
彼には変に気負って貰たくなかった それだけの事である。
「私もお菓子を用意して参ります ”零のイヴェール” 後はお願いしますね」
と軽く イヴェールに 頭を下げリビュートの後を追う。
頭をぐしぐし掻き回しブツブツごちながら庭園迷路を歩く
彼は良くこうして吐き出しどころのない感情を紛らわすのだ。
それを知ってか知らずか
{へへっ リビュート様 ネフレイン御嬢様に嫌われちましたねぇ}
と蜥蜴型の妖魔が彼よりは年老いた男の声で喋る。
「るっせぇーぞ そんなんじゃねーよ アイツはまだネンネだけだ
まだ自分の立ち位置ってもんを理解してねーだけだ
あぁ くそっ 余計な一言っちまった だってよぉ アイツ俺様好みじゃんか
でもよ イグレーシア様の御子だしな どうすればいいんだよ この気持ちよぉ
あぁ 全く イライラするぜっ」
とまた独りブツブツ言いながら
言い寄ってきた蜥蜴型魔物を睨め付けて
「これ以上俺様に物言いするなら ”蜥蜴” の黒焼きにして魔女共に売っぱらってやろうか アァ? 」
と下品な仕草で恫喝するも本気ではない
なぜなら彼本来の腕になっていなかったからである。
それでも主の機嫌をこれ以上損ねまいと
{うへ それは御勘弁を あっし等はまだ庭の手入れがありやすんで}
と蜥蜴達は会話を逸す。
「おう 精々きばれよ 見つけた蟲共は見つけ次第喰っていいぞ
それ、俺様がテメェらに対する特別報酬だかんな」
{へへ 有りがてぇ}
と不気味な蜥蜴型魔物:メゲト達は叢に隠れまた庭の手入れに精を出していた
「ちっ 気軽でいいもんだ 俺様は俺様でついチョーシこいちまうしな 後は非番だし
どうすっかなぁ なんか、おもしれー事起きねぇかな」
とリビュートはひょいと私設書庫の屋根に飛び乗り
だらけていた。 ......が
「まだ、気配は遠いか? 」
と遥か遠くを目を眇めて見据えていた
頭冷やし来ると言って、遠くでうさを晴らすかと思いきや
結局、ネフレインの ”監視” と遠くに感じる不穏な気配を
探りつつ守りは怠たってはいなかった
ややあって
「あ〜らら? 女性を怒らせちゃって あの娘がイグレーシア様でなくてよかったわね
でないと気分次第では、ここら辺一帯”灰の大地”になっていたでしょうに 怖い怖い」
「フラガナ テメェもか 俺様に喰われたいか? あぁ」
と彼の手だけ本来の手に変化する。
「あら 何時からそんな ”短気” になったのかしら あア? 歳食って
またお爺ちゃんに近づいたのかしらぁ? 」
とフラガナはリビュートを煽った。
「ちっ ちょっとこっちこいよ 話しがある」
「先ずは その ”手” を引っ込めてくれない? でないと嫌よ」
「あぁ わーた(分かった)よ」
とリビュートはさらりと髪を掻き上げて顎を抉り手をヒトの手に戻す。
ふわり
とメイド服のスカートを一切乱さずフラガナはリビュートの隣へ舞い降りた
足先が僅かに
カツリ
と音を立てた。
「ん? 珍しいじゃないか”音”を立てて舞い降りるなんて らしくねぇな」
「ちょっとね 私もあの娘の傍にいて ”緊張” しちゃったのよ
”零のイヴェール”も居るし いつ”私”が粗相して
あの娘が機嫌を悪くするのでは と思ってね」
とフラガナは久々にサキュバスらしく大きな蹴爪がある蝙蝠のような”羽”をのばした
「ほう 綺麗なもんだ ちょっとは触らせろや」
とリビュートは手を伸ばす
コクリと首肯。
革の様な天鵞絨のような不思議な感触を備えた
サキュバスの羽は同性・同族言えど気安くは触らせない
それを至極当たり前のようにに触らせる間柄なのは、彼らの関係が単なる相棒や
同じ主人に仕える従者では無いことを示していた。
「あぁん♡ ついでに尻尾も触っていいわ 落ち着くのよ これ」
と
さらりさらり
濃い黒紫色の尻尾を撫でる。
と小さな羽状になった尻尾の先の蹴爪からは黒紫の液体がタラリと糸を引き
彼女はそれを小瓶に取り分けた。
「なぁ 気付いているか? 」
「えぇ 気付いているわ」
「まだ 気配は遠くだかな もうあれから六つも月が経過している
アイツの強大な気配に惹き寄せられて、嫌らしい気配を三ツ四ツ感じるな
近い内に、社交界お披露目も控えている 今はまだアイツはいくら能力が強大っつても
まだ ”目覚めて”もいねぇ 単なる少女だ
しかも今度の社交界お披露目は”元老派”の真っ只中だ
”枢機派”の持ち回りはまだ先だからな 完全に敵地だかんな
しっかり頼むぜ 相棒」
とリビュートはフラガナの顎を優しく掴み自分の唇へ引き寄せる
んんっ...... ん.....ん くちゅり くちゅり
男の唇と女の小さい紅い唇が重なり お互い口蓋の内を舌で舐る
「ふふ こんな事してる時点で既に俺様は アイツと接吻する権利は失っているのさ」
「ふふ らしくないわ でもこれは内緒の秘め事 精々、あの娘にバレないようにしなさいな」
「へいへい っと 敷地の外に ”お客” が五匹来てるぜ
行くか”相棒” 姫さんを守るのは何時だって男の役目だろ」
「あら私は女よ でも今は貴男の相棒でちょっとだけ女を捨ててあげるわ」
「そうこなくちゃな アレ持ってきてるだろ? 」
「そうね サキュバスとしては これぐらいしか出来ないけどね」
とフラガナは腰に佩いた鞭を構える
「十分さ」
対してリビュートは右腕を本来の手に変じ先程の小瓶の液体を飲み干した
濃いアメジストの瞳は濃い紫に淡い金の髪は青白い燐光と合わさり淡い翠に変わる
「相変わらず効くぜぇ これ」
二人は大きく跳躍 あっというまに敷地の外へ
敷地の外には案の定最早規定事項と言わんばかり
わかり易い紅いフード付きローブの人物が屯していて屋敷を伺っていた。
「なぁ テメェら 遠路 ゴクローさんと言いてぇトコだが
生憎と 俺等の姫さんには手出しはさせねぇ よ
”紅い星の仔” のゲス共」
紅いフード付きローブの人物五人男性三人女性二人
...... 。
終始無言
「いいとも いいともさ 喧嘩おっ始めようぜ
フラガナ テメェは女二人だ俺様は紳士だからな手は出さねぇ
男は任せな テメェらなんぞは俺様の腕で十分だぜ」
「こんなトコ無駄にカッコイイんだから♡ 」
「茶化しはナシだ 殺るぞ!! 」
とリビュートは本来の手で一薙ぎいや二薙ぎであっさり男三人を斃す
彼らは武器を構える暇も術を唱える間も無かった。
此処で初めて女が
「我等 ”紅い星の仔” は絶対にあの娘を手に入れる
噂を確かめに来たが どうやら本当だったようだ
犠牲三人は手痛いが情報は得た 教主様もお喜びになるだろう
社交界お披露目まで お楽しみはお預けよ ではな」
と退こうとしたが フラガナの鞭は小さい方の女を絡め取り
ヒュン
と風切り音ともに地面に
ドサリドサリ
と綺麗に胴体が別れて”2回”大きな音が聞こえた
「ひぃーーっ」
と独りは鞭から逃げ落せて手応えは有ったものの取り逃がしてしまう
リビュートは手で制し
「これ以上は アイツから離れる訳には行かねぇ 先ずは四匹 僥倖だな
と二人は躊躇い無く、死体の口を弄る
すると男三人の舌には鱗状の入れ墨が胴体が別れた少女は
舌が蛇の様に割れていた
「ほう このメスガキ幹部位階だったとはな ここは人通りもある
俺様の蒼の炎で、 まぁ葬送師共の手間を省けさせてやる」
と変化した手からうねる青白い蛇の様な炎を出し哀れな犠牲者を絡め
骨一片残さず消滅させた。
「相変わらずエグいわねぇ それ、本気でもあの娘に勝てない? 」
「イジワルな質問だな 答えは ”絶対勝てない” だ ......どうだ 満足したろ」
と普通の手に戻しまた 跳躍して先の私設書庫館の屋根に何喰わぬ顔で
戻り
「貴男、先刻わざと ”頭冷やして来る” なんて 尤もらしい言い方を使ったわね」
「ちっバレたか でもよ ”頭冷やして来る” のはホントだった お蔭でシャッキリしたぜ
お姫さんのお相手は少し退屈なもんでな」
「リビュートは何処? 先刻は言いすぎたわ ねぇ何処? 」
「ほ〜らぁ ネフィが呼んでるわ」
「あぁ 俺様はここだ ネフィの”お勉強”の邪魔にならんように此処で頭冷やして
反省してたさ フラガナも居るぜ」
「なんで フラガナが? お菓子の準備にお屋敷に行ったはずじゃ? 」
ネフレインはいつの間にやらフラガナまで屋根に居たのにやや驚いていた。
「あぁ リビュートがお腹空いたって言っていましたから お菓子を持っていたついでに
先に殿方のお腹を満たしたので御座いますよ
ただいまそちらに 三人でお茶にしましょうか お嬢様? 」
「えぇお願い ちょうど、私も空いちゃったの」
と二人は音もなく地面に降り立ち パンパン服を整える
「さて何を御所望で? 」
「そうね 乾燥果物が欲しいわ」
ネフレインは乾燥果物が好きで
特に莓やベリィが特に好みだった。
「はい いまお持ちいたしますとも」
と持って来たフラガナとリビュートからは、ほんの少し救護院で嗅ぎ慣れた鉄錆の匂いを
漂わせていた。
ーー ふたりは怪我はしてない どうしたのかしら? まさかっ!! ーー
ネフレインは救護院育ちである 救護師達がそのような現場にいると鉄錆の匂いがする事を
知っている。
彼らから同じような匂いがするということは
彼らがそのような現場に出向いたか
もしくはあの屋根でそのような事態が起きた、かの何れかであると。
「あのっ ......っ」
と私は口を噤んでしまう
なぜなら彼らは今まで無い険しい顔をしていたから。
「あぁ これは旦那様に報告案件でな 今は例え俺様がどうなっても言えん
後から 旦那様から聞くといい
君にも関係する事だが、今俺様が此処で言うべきことじぁあない
解ってくれるな ネフィ」
「えぇ 解ってる」
私の知らない場所で私の知らない恐ろしい事が起きている
今はこれくらいしか分からなかった
「ごめんな」
と一言 これを機に二人の険しい顔は元に戻る。
「ささ お茶にしましょう お嬢様 私達もご相伴いいかしら」
「えぇ もちろん」
フラガナが用意してくれたお菓子は大変美味でなんでも王宮雇用達の店が
此処”ハラケル”には有るらしい 楽しみがまた増え先刻の不穏な空気は
今は潜めて和やかな雰囲気が場を支配していた。
「これは ウメぇな なぁネフィはこういうのが好きか? 」
唐突彼から話題を振られる。
「えぇ 大好き とーさまと野外研究に行った時は
いつも乾燥果物だったの
でもね私、干し葡萄と干し林檎ぐらいしか口にすることが出来なかった
此処にある莓のやベリィのは生誕のお祝いのプディングでぐらいしか
食べたことないの」
三段重ねの皿には様々な乾燥果物が盛られ
堅焼き菓子やアプリコットの蜂蜜漬け等が色を添え
紅茶は上品な香りを漂わせ、それだけでも幸せな気分にさせてくれ
これが生誕のお祝いでなく 普通のお茶の席で供される物だというのだから
最初はどうしたらいいか分からず途方に暮れていた。
「そうか でもよ ここにある菓子は全部ネフィのだ 加工したのは職人だが
原料はウチのだぜ 果樹園にも後で連れて行ってやる
そん時は 髪で採ってもいいぜ 何せ高いトコに生っているしおまけに誰も見ていない
見ているのは蜥蜴共だけだしな
ネフィがお利口にしていたら、連れて行けるのは早いかもな
だからあと六つ月が来るまでしっかり頑張んな」
と先程の険しい顔とは対極な優しい顔で言う。
ーー やった 髪を使えるなんて嬉しいっ ーー
ここ暫く堂々と動く髪を使っていない私は、少し欲求不満だったの。
「フラガナと俺達は、この後 旦那様に報告に行かねばならん
ここを空けるが ”零のイヴェール” 守りは頼むぜ」
というと
ヒョイ とテーブルに上に乗り
更に私の首の周りをクルリと尻尾を巻き付けるようにして
歩く 今まで地面に脚をついていたにも関わらず
彼女の足先は一切汚れていない
それを気にする風でもなくフラガナは、
「零のイヴェール様 それではよろしくお願いいたしますね
あと ご夕食時間に成りましたらまた 此処に伺いますので
私設書庫以外には御足を運ばれません様」
とお願いされる。
此処の敷地内には私も未だ立ち入ったことのない、遺跡などもあり彼女はそれを心配したのだろう
「ではご緩りと暇を堪能なさって下さいませ」
と二人は後を片付けで私の前から辞した。
「ふふ ねぇ リビュート 貴男まだイグレーシア様に未練がある? 」
「ん 何だ突然 何が言いたい」
二人きりで本邸に向かう道すがら突然フラガナはこう切り出した。
「サキュバスの目は誤魔化せないわ 貴男があの娘を見る目
恋慕以上の感情があったもの」
...... ......
......
「やれやれ 流石だな あぁ君の推察通りさ 俺様は”今度こそ” アイツ(ネフレイン)の
眷属になりてぇんだ 悪いか? 」
「ふふ 悪くはないわね そんな一途なトコ サキュバスの私から見たらますますモノにしたくなちゃうわ」
「経緯を知ってるくせに 改めて問うなんざ意地の悪い女め
俺様がまだ魔界にいたころ ガキだったオレはイグレーシア様の末席でもいい ”眷属”に
してもらいたくて付き纏い過ぎてな、あの御方の怒りを買い半死半生になってな」
と黒革の開襟シャツの胸元を触る。
「でも、貴男はイグレーシア様を恨むどころかますます熱を上げて、
それでもあの方の最期まで 眷属になる望みは叶わなかった
例えその胸の疵が元で完全な”金狼”に戻ることさえ出来なくて片腕だけ”狼”に戻る
事が出来る半端者になってもね」
「半端者ってのはちくと キツいぜ でもその通りだよなぁ フラガナ」
......
彼は少し間を置いて意を決した様に吐き出す
「あぁそうさ、恨むどころかアイツにイグレーシア様の面影を重ねて今こうして君の傍に
肩を並べ何時か眷属にと、密かに思っている男がここにいる 笑ってやってくれ」
「いいえ 貴男は何時か完全に”金狼”の姿を取り戻し あの娘の眷属になれる
そんな気がするわ」
「ぉう 冗談でも嬉しいぜ ”二本足” では俺様の能力が存分に
出ねぇしな それより今日のオメェはまた一段と女っ振り上がったな」
リビュートはすかさずフラガナの唇を奪う
開襟の革製シャツに革製スラックス
革のハーフブーツに狼意匠のループタイ
あちこちに銀の鎖をあしらっていてる、左手のみ指貫きの手袋をしている普段着の彼は
革を ギシリ と軋ませ鎖の装飾兼武器をチャラリと鳴らす。
「あら貴男 言っている事と違わない? 女っ振り上がったな” なんて
サキュバスにとって最も嬉しい言葉
言ってくれるじゃない ......ねッ」
「るせーよ 世辞はこうしたときに言うもんだろ
それに、それとこれは別さ 餓えた狼ってのはこれが本来の言動さ 本命は後のお楽しみってな」
「もう 一言多いのは直らないのね」
と彼の”鼻”を”強く”摘む
「痛ててっ 寄せ寄せ 今回は接吻までだ 俺様の ”弱点” を強く摘みやがって
全くオレを犬扱いしやがるんじゃねぇよ」
「あら 犬ではなくて? 」
「ちげーよ 俺様は ”金狼” オ・オ・カ・ミだ そこらの犬共と一緒にするな
狼一族の沽券にかかわるぜ まったくよぉ」
と子供のようにむぅと頬を膨らませる。
彼:リビュートの本来の姿は大きな体躯の金狼でありその四本の脚から繰り出される跳躍力
と大きな爪・牙を武器に魔界を他の大物の妖魔達とも互角に競り合ってきた
高位の狼型妖魔だった。
イグレーシアの眷属に成りたくて付き纏い過ぎて
怒りを買いヒトの姿のまま半死半生の大怪我を負い、金狼に戻ることは出来ず辛うじて右腕だけは
戻れるものの後は、ヒトの姿のままであり能力も満足に出せない。
今の彼の武器と言えば狼の右腕、装飾品も兼ねている銀の鎖、フラガナの尻尾から出る
”毒薬”で一時的に身体能力を上げての肉弾戦ぐらいである。
フラガナの”毒”は只人が服用すると身体能力が一時的に向上するが
肉の器が耐えきれず 直ぐ様崩壊して結果、毒として作用する分泌液である。
そんな男が紆余曲折を経て、クィンタクル家の御者・雑事の使いとして屋敷に世話になる
そして、イグレーシアの面影を色濃く残すネフレインと出逢い 果たせなかった眷属の夢さらには
恋慕の情念を再燃させ今に至る
なんとも彼らしい言動であった。
「さぁて 旦那様がどのような判断をくだされても俺等は俺等の事をする
それだけだ」
「そうね まったくワンちゃんらしい物言いね」
「だーかーら 俺様はワン公じゃねぇって」
「ふふ 私もサキュバス、殿方をからかうの性分なの」
「そうだったな 相棒!! 」
「そういうこと」
と二人は屋敷本邸に消えていった。
ネフレインが養父母:ルベリウス・セフィーラに呼ばれたのは
その日の夜、食事の後。
「こちらへ来なさい ネフィ リビュートから報告を受けた
薄々感じているだろうが、いよいよネフィに良くも悪くも目を付け始めた連中が居る。
君の特殊な出自故、特に一部に浮き足だっている輩もいる
ネフィ 君は私達の大事な娘であり次期当主を継ぐ者でもある
それは理解出来るね? 」
何時になく養父は真剣な目差で問い
椅子を促され、座る
これは、立ち話では終わらない事を意味していた。
「はい、 お義父様」
「言いにくいことだが先刻、リビュートとフラガナが敵対者を処理した
君なら彼ら二人がヒトでは無いことは既に承知の事だと思う」
私は、無言で首肯。
「私達夫婦のような只人では能力ある敵対者に対抗出来る手段と言えば
彼ら妖魔に縋るしか無いことも承知して欲しい
更に、価値観や倫理感が若干異なることもある。
ネフィ、君は半妖ではあるがヒトの社会で暮らしてきた
ヒトの価値観や倫理感で育って来ている
だから、目を背けたくなるような場面も目の当たりにすることが有るだろう しかし、
敵対する者には対抗手段も持たねばならない これも理解できるね? 」
「はい お義父様 残念ですが今の世は綺麗事だけでは生きてゆけません
それも承知しております」
安全な鳥籠に守られていた私は実父が病床に臥したその日で
もう終わってしまったのである。
「ならば、善い しかし今は、彼らに頼っても良いんだよ
汚い場面はあまり見せたくない、 これは儂の我儘かもしれんがな」
「お義父様 お気遣い有難うございます」
「まだ 他人行儀な事をいうね いつかもっと気楽な言葉で返してくれることを待っている
それはそうと
......
......
今度、 ”元老派” の只中での社交披露会がある
それに向けて不穏な動きも有るようだ
ネフィ ”元老派” ”枢機派”については知っているね? 」
「はい 心得て居ります」
妖魔も当たり前のようにヒトと同じ世界を共有しているデュナミートでは
妖魔自体の存在を全否定する”元老派と
養父と同様妖魔とヒトの共存が思想の中心にある”枢機派”
に分かれていて度々、只人同士で衝突が起きていることを
この屋敷に来て一番最初に教えられていた。
そして過去に何度もヒトとヒト・妖魔とヒトの大きな戦が起きて
今代でも人々の心や土地に大きな爪痕を残していることも。
「なら、強大な妖魔の潜在能力に惹かれる悪しき連中も居るものも知っているね」
「えぇ ”元老派” に中にもそういった傀儡がいるというものも
承知しており 何でも過激な結社組織があるとか」
「そうだ その組織名は ”紅い星の仔” と言う
構成員や首魁の名は、方々に探りを入れているが露とも知れず
ただ舌に鱗の入れ墨が有る者としか判っていなくてね
そうだろう? リビュート・フラガナ」
「はっ 旦那様このリビュートめ不覚にも一匹 っ失礼 一人を逃してしまいましたが
四人の内三人の舌には鱗の入れ墨、後一人は幹部位階で有ることは確認しております」
いつの間にやら後ろに控えていたリビュートとフラガナはこう言った。
「 ......だそうだ 今度は儂等だけとはいかん
お披露目の意味も有るからな どうしてもネフィ自身にも出席して貰わねばならん
リビュート・フラガナ 両名には確と”娘”の護衛頼み置くぞ」
「「 はっ お任せを 」」
と執務室を辞す。
二人が辞した後、
「実はな、 ネフィにね 幾つか、縁談も来ているのだよ
勿論、意思は尊重するが公爵家の令嬢としては
”顔を見せて”置くことも必要だが 披露会が住めば
多勢の男共が、寄って来るのは必至だろう
まっ 儂が言いたいことはだな コホン
儂にも おっ教えてくれるといいんだが
儂も跡取りの婿殿をだな、検分せねばならんでのな」
としどろもどろな口調で言い終始目を背けていた。
「ふふっ このヒトったらね父親したいのよ
娘を心配する父親ってね経験したこと無いのよ 可愛いわ
男親ってね 自分の事を棚に上げてねぇ
娘にはね、要求が高いのよそうして 難癖つけては結局手元に置きたがる訳ね
尤も、クィンタクル家は婿取りなんだけどね
でも、義母様としても気になるわね
だから、遠慮せずさり気なく連れてらっしゃいな」
と今まで無言だったセフィーラがニコニコ顔で言う
「まだ 恋愛って分らないの 救護院は小さい子ばかりだったし
”リビュート”のような男性は、初めてでまだどのように接したらいいか分りません」
「ふふ どうやら身近に居そうね 貴男? 」
とニヤリと養父をみる
「義母様からかないで下さい 失礼します」
と 御辞儀をして 慌てて執務室を辞してしまう。
「言いわね 私も若い頃はあんな感じだったわ 人界に出てきて貴男に
一目惚れするまでは、ネンネだった時もあって 殿方の顔すらまともに
見る事が出来なかったんだから♡ 」
「でも、今は違うだろ 此処にこうして儂が居るではないか? 」
「そうね、そうだったわね あの娘の強大な能力に縋りたいと
一瞬でも思った私を罰して」
セフィーラは甘い吐息を漏らす
「そうだな、儂も思ってしまった 互いに”罰”を与えねばな」
「そうして♡ 」
と ルベリウスはセフィーラの耳を甘噛みしセフィーラもルベリウスの耳を甘噛みした
「おいおい 罰が厳しくないかね」
「ふふ貴男こそ」
そんな円熟の夫婦ならではの甘い会話が絡み合う
ネフレインは鋭い聴覚でその会話を聞いてしまい
躰が火照り沐浴もそぞろでフラガナに
「どうかされましか? 」
等と問われる始末。
魔精を無闇に使役しないように彼女も沐浴は一緒であり
終始、内心をごまかすので精一杯だった。
その頃、遥か上空で、
一羽の大鴉型の妖魔が優雅に舞う
これだけの瘴気を身に纏ってもネフレインは勿論、リビュートやフラガナでさえにも
気取られること無く、遥か眼下の新しい主を鋭い鴉の眼で
念視するように見定めていた。
嘗て、イグレーシアをその背に乗せ魔界を蹂躙した大妖 レネトリア その者である
”彼女”はイグレーシアから序列さえ与えていない
特別な位階に属する眷族である。
嘗てそれを不満に思い盟主に塵芥になる覚悟で問うた事があった
「ふん、 お主は空を舞うもの 位階等で縛るつもりは無い
その翼で我を運べ それが位階の代わりとなろう
鳥は鳥であるが故に飛ばねばならぬ
それとも つまらん”位階”等で 地に脚を付けたいか? 」
......と。
”彼女”は首を横に振る”
「なれば良し 零のイヴェール共に我の爪となり翼となれ
それでも善いなら従いてまいれ」
......と。
彼女は、愛し仔を慈しみの眼で見つめ一声鳴くと 何処かへ飛び去る
「ん? 今のは? 」
フラガナは、一瞬の強大な瘴気に思わず声をあげ 沐浴場の高い天井を見上げる
「どうしたの フラガナ? 」
「いえ お気になさらず さぁ最後に」
とフラガナに促され
湯の女神像に白樺の枝に薔薇び香油を帯びた水を含ませ
パシャリ とかける
途端に甘い薔薇の香りに満ち 心地よい汗と混じる
最後に 火照った躰を冷水で鎮め
寝間着に着替える
レスタスまだ存命の時は救護院の沐浴場で皆が終わった後の残り湯を浴び
それでも足らない時は、こっそり衆目を気にしつつ 魔精を使役して
沐浴を済ませていた
何方が善いなんて、ネフレインには判断が付かない
なぜなら どちらも至福の刻だったのだから。
イヴェールもお相伴に預かっていたが
フルフル と躰を振り尻尾を パァン と張る
「イヴェール様 出来れば脱衣場ではそれはお控え下さいまし」
とフラガナが言うも ふいっと ネフレインの肩に乗る
そして彼女も、遥か上空を見据えていた。
めまぐるしく日々は過ぎていく
そしていよいよ披露会の当日、
予てより、打ち合わせ通りに事は運んでいき
今では窮屈さも馴れた矯正下着 巷ではコルセットと呼ばれるそれを着け
尻が膨らんだバッスルドレス 手には養子縁組の際
養父から貰った懐中時計
これは現在の時刻を知るための物ではなく
砂時計同様、経過時間を計る為のものであり
権威の象徴としての装具であり大貴族ともなれば
必ず一つは携行する。
蓋を開けると 透明な水晶板越しに複雑な魔導機構が見える
定期的に動く歯車、振り子の様な機構
渦を巻いていて膨らんだり縮んだりする撥条。
ーー 男の子ってこんなの好きそうよね ーー
ネフレインは、精緻な機構を眺めまた蓋を閉じる
若手魔導機構技師:ハレリー作ということで
敷地の何処かに遺跡を改装した研究棟が有るらしい
極端な篭り気質でネフレインはまだ一度も姿を見掛けてはいない
フラガナ曰く、今は司書兼守り手の 彼の趣味で少女型オートマトを誠意作製中とのことで
彼のこだわりで細部まで調整中のためお披露目は当分先になるようだ
養父母は先に既に宴場に向かっていて
馬車の中にはネフレイン・リビュート・フラガナの三人である
お屋敷は石翼魔
庭園は蜥蜴型魔物:メゲト達が守り番をして
庭園迷路には数体の岩人形達が配置される
「いいか 岩人形共 少してでも薔薇を手折ってみやがれ
ハレリーの奴に言いつけて岩塊に戻してやるからな」
と恫喝する。
頭と胴体が一体化したかのような姿のゴーレムは
首肯。 庭園迷路に散っていく
「ハレリーさん 大丈夫かしら? 」
ネフレインはまだ見ぬ人物を心配していた
「あぁ 奴は問題ない 彼のベルフェゴルに直接師事された
生粋の魔導技師だ そこは信頼出来るがな
ただ ......な。」
リビュートは言い淀む。
「ただ 魔導機構莫迦でな絡繰好きを拗らせまちってよ
奴の研究棟には奴の同行なしには嗅覚が優れている俺様でさえたどり着けん
そんな魔導機構莫迦があの屋敷に絡繰を仕掛けまくっている
後は 御察しだろ
だからな無闇に敷地内の遺跡には興味本意で入らないこった
もし、ネフィに疵でも着けてみろ
この俺様が 食い殺してやる ......っとまぁ奴は俺様とは違う強さがある
多少の大物が来ても問題ないのさ
しっかしよぉ この正装は相変わらず窮屈だぜ」
と胸元の小洒落た紳士用のリボンタイを緩めようとして
「リビュート、今日ぐらいは我慢なさいな」
とまた直される。
彼は、私服の時は黒か濃い茶の革製の開襟シャツに革のズボン、ハーフブーツ
左手のみ指貫の手袋をしていて
狼意匠のループタイ、おまけに銀の鎖をあしらっている
それが今は、髪を撫で付け三つ揃いのスーツとあまり見ない正装をしていた
手首にはしっかり鎖が巻かれていたが。
尤も私服も屋敷ではあまり見かけることは無い
「わたくし フラガナめは見飽きました もっと色んな格好をすれば
よろしいのにね 偶には異性装なんかどうです? 」
とフラガナは自分のスカートを軽く摘む。
「やかましいぞ 誇り高い狼一族がメスの恰好なんぞするものかよ
オレが知っている限りアイツしかいねぇだろよ 野郎のくせにそんなんが似合うのはよ」
「ふふ からかうと面白いわぁ」
とそんな会話は私の横にフラガナ、正面にリビュートそんな位置取りで
言葉が交錯する。
相変わらずなのはメイド姿のフラガナで幾らか
豪奢なフリルやレースをあしらったエプロンドレスに
黒の編み上げブーツである。
「フラガナよぉ お前こそ代わり映えしねぇな 少しは俺様を見習えよ」
「あら 女性にその言い方は無いんじゃないの
今日は特別にフリルだってレースだって仕立てが違うわ」
「おぅ そうかいそうかい 所でベリトよ 未だか? 間に合うんだろうな? 」
{お任せを 部下一匹を先にまわしてます 念話によれば未だとのこと}
「おぅ そうか 俺様はお前らの念話は分らんが任せたぞ」
{御意に!! }
とやや流れる景色が速くなった。
「なぁ フラガナよぉ もう敵地内だとは思うが 不穏な気配が全く無いってのも変だな? 」
「そうね こんな絶好の条件 何かしらの”動き”があっても良さそうだけどね
勘繰り過ぎかしらね」
「そうだと 好いんだが」
と彼:リビュートは鼻をひくつかせたり、目をせわしなく動かし 時には目を瞑る
三回の馬の休憩、 否ベリトの休憩を挟む
石翼魔の姿のベリトは翼を伸ばしたり畳んだり彼なりの ”伸び” をしていた
その度に、パラパラ と石の破片が零れ落ちる。
私も、フラガナも交代で小用を済ませる 二刻程の時間が過ぎたろうか
陽は傾き宵の星が瞬き始めた これから明けの星までは妖魔の時間
私も心無しか気分が冴えてきていた。
「へぇ ネフィ嬉しそうだな? 」
とリビュート
「えぇ こんな遠出 あれ以来ですもの あまりお屋敷から離れるなってお義父様にも
言われてて 少し退屈だったの」
「ふっ そうだろうな、レスタス様は野外研究漬けだったとも聞いている」
私が、大きくなって父の完全な保護から離れる頃になると
やたらと野外研究に連れ出すように成った
(さぁ、今日は彼処の遺跡群、今日は此処の遺構に天幕を張るぞ
あぁ明日は、冒険者に護衛を頼んで ......それから......それから)
と懐かしい記憶が蘇る。
「まぁ、今は今だ そろそろ頃合いだぜ 多勢の気配が感じられる
いいモノ、そして悪意もな いけ好かないぜ」
と顔を顰める。
私が今まで見た男性のどの顔より怖く、そして格好良かった。
敏感に気配を感じ取ったのか彼は、
「どうした 俺様に惚れたか んーっ ネフィ? 」
と手を伸ばして来て顎を取られそうになる。
横合いから
ピシャリ
とフラガナに妨害され
「だめよ 解ってるでしょ? 」
と子供を諭す様に窘められる。
「解っているとも からかっただけだよ」
と手を退きわざと窓外を見る。
その時彼は、少し憂いを帯び遠い目していた。
しかし彼の眼は私ではなく
私を私の知らない誰かに重ねているそんな寂しい視線だった。
ーー 彼、こんな表情も出来るのね 男の子って不思議
先刻まであんな怖い顔をしたと思ったら
あっという間にこんな顔が出来るなんて でもちょっと悔しいな
ちょっとは私を見てくれても ーー
最初の邂逅の印象こそ最悪では有ったものの
少なくとも見た目では同い年かちょっと上位の男性である。
六つも月を重ねて私は知らない間に視線で彼を追っていた事に気付いていた。
私は、彼がこの時亡き母を重ねて見ていた事とは露知らず
初めて、自分勝手で邪な嫉妬の感情が首を擡げた。
彼:リビュートは、イグレーシアが目の前にいる様な錯覚を覚え つい
手を出してしまっていたのである
ネフレインの本気のお怒りを買えば手どころか身が
想いを伝える暇も赦さず 直ぐ様、ヒト型の灰の塊と化していたのかも
知れないのも承知で。
想いを振り払い
「お ようやく見えてきたぜ ベリト 解ってるな
何時でも征戦けるようにしとけよ
{お任せあれ 彼の屋敷にこの我れと部下が お嬢さまのお披露目が
滞り無く終わり またこの身に(馬車の形態で)い抱くまで
屋根にて守り手の役目を果たす所存}
「うむ いい心掛けだ 後で聖銀とオリハルコン・アダマンタイトの鉱石を
たんまり喰わしてやる だから気張って守れよ」
{有り難き哉}
とグラリと馬車が揺れ
彼が私に覆い被さる格好となるが馬車の壁に手を着きあわや唇同士の
接吻は免れた。
「てんめ 燥ぎ過ぎだせ でもよ今は偶然とは言え気分は良かったな
んと そうだなガーネットもおまけだ これはベリトぉ
テメェだけの特別報酬だ 貰ったらさっさと喰えよな」
{おぉガーネットは我れの好物でもある ......っと着きましたぞ
皆皆様方、お嬢さまご武運を}
「まぁ、ネフィはこれから女の戦場だ 気張ってこい
俺らは何時でも近くにいる」
「ふ 頼ものしい ワンちゃんだこと」
「だーかーら 俺様はワン公じゃねぇって」
「はいはい」
と何やら旧知のようなやり取りがかわされる
彼:リビュートが高位の金狼の妖魔であることは
既に養子になってから程なくして知らされている
訳有りで右腕しか本来の狼の腕に成れないことも。
大きなお屋敷の門前で 一組の男性が招待状を確認している
「あれっ そう言えば招待状は? 」
「ネフィ 慌てなさんな、懐中時計が身分を担保してくれる
それから他人には渡すなよ
何せ奴渾身の作だ どんな絡繰が仕掛けられていても可笑しか無いぜ
これ、やつからの言伝でな 他人が持ち出すと ”噛みつく” そうだ
哀れな犠牲者を生み出し無くなかったら 手放なさないこった」
と恐ろしい忠告を受け ぎゅっと 握り締めた。
「はい、お次の方どうぞ 証しをここに」
と紅い天鵞絨の布を差し出され懐中時計本体を乗せて
鎖はしっかり掴んでいた
「ほぉ これは素晴らしい逸品ですな 嘸かし高名な技師による物でしょうな
”クィンタクル家の ネフレイン様”
以後はこれをお見せになるだけで好いですぞ ささどうぞ
我が ”元老派” の只中へ 」
と早速チクリと嫌味が刺さる
「おう 俺らは従者だ 勿論いいよな 何せ ”元老派” と来たら
恥も外聞も弁えんで己れの主義主張を通すと聞いているからな」
「それは手厳しいですな しかし我等も 奔放な 枢機派とは違いまして
”厳格”でしてな ましてやここは我等の地 この地の規約には
従ってもらいますぞ」
「おう 精々温和しくしてるさ」
「良いでしょう ささ従者の方もどうぞ」
と言葉の通過儀礼を済ませ中へ
多勢の老若男女が片手にワインや琥珀色の強い酒精の香りのする酒を飲み交わし
既に舞台は整っている。
「ネフレイン様、葡萄酒等如何かかな それとも果汁で? 」
「果汁を」
と葡萄の果汁を蜂蜜で割り水でやや薄めた物を手に取る
リボンで所々髪を飾散らした姿は 生来の際立った美しさも相まって
薔薇の様な華やかさと蘭のような艶美さを併せ持つそんな
少女が会場に佇む
「何? あの色違いの髪 染め粉にしても変よね」
「何でもあの娘養女でね お父様が探検家(冒険者)でいらしてね
発掘した古代魔導遺物の暴走してああいう風になったんですって!! 」
「まぁお可哀想 てっきり妖魔とヒトとの間の娘だと思ってましたわ」
「そんな莫迦げたこと有るわけ有りませんわ
何せ、妖魔共はワタクシ達の敵、この世界はヒトの世界になるべきですものね」
「そう」
「そうよね」
と同い年ぐらいの少女がそんな事をいう
救護院の悪ガキの男の子より遥かに陰険で陰湿な嫌味だった
リビュートは肉、フラガナは葡萄酒と完全にヒトを装い
立食を堪能している
「あのメスガキ共の戯れ言なんざ気にするな さぁこっち来いよ
堅焼き菓子もあるし霊峰特産の半生の乾燥肉もあるぜ」
と指を舐めながらリビュートがかばってくれる
宴が進むその裏で。
ルベリウスはネフレイン達を見下ろす位置で同じ初老の紳士と何やら話し込んでいる
「ほう 美しいお嬢さんだ あの色違いの髪は古代魔導遺物の暴走と聞いたが? 」
「そうだ それがどうかしたか? 」
「いや あんなに綺麗に分かれているのは初めてでな 儂には決して交わっては
不可ない者同士の愛し仔なのでは無いかと
余計な勘繰りだったら赦せ ルベリウス」
「ふん 元老派のお前には言われたくないわ
あの娘は儂の娘だ お前がそう勘繰るのは勝手だが 娘に手を出してみろ
例え馴染のお前でも赦さんぞ」
...... 。
やや剣呑な目付きでルベリウスはゼルストを睨めつけるも二人共
此処での騒ぎはどんな意味を持つかは心得ている
ましてここは”元老派”の只中二人共大人の対応だった。
「俺は、お前と違ってな目の前で家族を妖魔共に皆殺しにされ
その上死者の尊厳まで潰されたんだ、この年になっても決して忘はせん」
そう吐き捨てるように独白したのは元老派でも位階が高位の重鎮:ゼルストそのヒトである
二人は幼なじみでありながら幼いころの境遇の違いで思想に違いが産まれ袂を別ったのである。
「本当は あの妖魔共二匹も此処には入れたくなかったが
この季節の巡りは当方(元老派)が持ち回りでな 否応なしだ ありがたく思え」
「二匹とは随分な言い草だなゼルストよ 彼らの目の前で言ったなら
鼻を圧し折ったトコだぞ その言い方は二度と儂の前ではさせんからな」
と何時になく剣呑な顔で言う
「ふん儂も同様に詫びは入れるつもりはない 儂は彼らと同じ場には居たくはない
執務に戻る ルタス 後は任せる」
と早々にゼルストはその場を辞した。
「はっ 御意に」
とゼルストの執事 ルタスは
「先程の、主の失礼な物言い どうかわたくしめに免じて
お赦し下さいませ 主:ゼルストはこれから王宮に所用とのこと
皇都:タルトの本邸にそのままお戻りになられます どうか 御緩りと」
と 恐縮している。
「良く出来た執事だな 娘と彼ら二人に手さえ出さなければ何も言わん
...... 所で此処にマグス家のルナリア嬢は来て居るかね? 」
「えぇ 本日はマグス家のご令嬢と従者様が居らしてます
お父上のレグラム様は大きな商談がお有りのようで此処には
お見えになられてません」
と淀みなく言う青年の執事は伏し目がちであった。
「そうか ならこれをルナリア嬢に渡してくれぬか
当方の作物や魔導機構の設計図面に関する話しを書き記した
箇条書きでな
あのお嬢さまだと商談は荷が重かろうし後で改めて、商談の場を持ちたいのでな
よろしく頼む」
「はっ ルベリウス様 主は少し過去を引きずり過ぎておられるのです
どうか、見捨てないでやってくださいまし」
「あぁ 解っているとも 伴侶がいない寂しさもあろう
独り身では詮無きこともある 奴の立場も解っているつもりだ
儂の目の黒いうちは良き友であらねばとも思っておるからな」
「儂はもう少し此処にいる」
とルベリウスは妻セフィーラと一緒に大きな柱の影で接吻を交わす。
「私は貴男様が羨ましいです ではこれにて」
と若い執事 ルタスは 足音一つ立てずに下がった。
執事 ルタスは、ルベリウスの妻が”元”妖魔であり
ルベリウスの為に一度きりの術でヒトに変成したことを知っていたのだ
彼:ゼルストもそのことは当然周知してたが、経緯はどうあれ
今はヒトの身である。
そのことについては、敢えて触れない気遣いもまだ旧友にはあった。
一人、メイドと馬車の中で
「ふん。 ルベリウスの奴 生き生きしおってとても馴染同士とは思えんかったな」
「あら、ゼルスト様 恋と言うものは齢は関係有りませんわ
現に目の前にこうも慕っている者が居りますのに♡ 」
「君は まだ若い、儂の様な老いぼれと一緒に成ってはいかん
若いなりの恋の愉しみがあろうというものだ
君が儂に亡き父上を重ねているだけと思うとな......」
その後の言葉が掻き消え後の台詞は聞き取れない。
「いえ 貴男は勘違いをしていらしゃるわ
なかには貴男様のような初老の男性好きな娘も居るのです
叶わない恋なら、せめて貴男様の行く末をこうして最後迄見守らせて下さいませ」
と 若い年頃のメイド:イェダはゼルストの白い物が混じった
口髭の茂みに可愛い唇を埋める。
宴もたけなわ、主催代理のルタスは
「今宵は、皆々様方遠路ご足労ありがとうございました
そのままの姿勢でお聞き下さいませ
”元老派” と ”枢機派” 立場の違い有れど人界の発展を願うは
一つにて御座います
女神:リーゼの御許でこうして季節の巡り毎に滞りなく
歓待の席を設ける事が出来ますのも両者の尽力有っての事と言えましょう
今回の席で 新たに ”枢機派” の一翼となられる
若き薔薇をご紹介いたします
その名は、 ネフレイン・クィンタクル 此度、彼のクィンタクル家のご令嬢として
今後、皆々様の御心に舞い降りましょう
今、ネフレイン嬢がご挨拶に巡ります
まだ、薔薇も蕾ゆえ粗相も有りましょうが、お手柔らかにお願い致します」
「おぅ ネフィ 良いか気張らずに 年長者から挨拶するんだ
俺様とフラガナで支援してやる 旦那様が上から見てるからな」
「えぇ どきどきするわ」
それでも、しっかりと足取りでリビュートとフラガナが男性の年長者にさりげなく
導いてくれる
こうして、社交の序列を覚えるのである
「フォフォ 生き生きした元気な娘さんじゃの
レスタス君には多大な貢献をしてもらっている
惜しい人材を亡くしたものだ
時に、君の髪の色さえ変える程の古代魔導遺物を見て見たかったのぅ
おっと済まん今は、ルベリウス殿が後見だったね
また時間があったら色々話しを聞かせてくれないか? 」
と白髪の男性。
「おやおや、よもやこの目で実際にこの髪を見れるとはね
実に興味深いね」
と初老の男性
「ふん 綺麗な髪だこと でも結い上げもせず だらしないこと
でもまだ 子供ですもんね 仕方ないですわねぇ ホホホ」
と壮年の女性。
「うへへへ こりゃ綺麗な御髪ですね
この僕に一掬い 触らせてくれ」
と中年の肥えた男性
「おっと、 ネフレイン嬢は嫌がってるぜ」
と言ったリビュートの口を慌ててフラガナは塞ぎ
「ウチの従者が失礼しました お嬢さまはまだ蕾
貴男様が手に取るほど大輪では有りませぬ
お手に取るときはぜひ、開花の時に堪能されてはいかが? 」
と手をやんわりと退けてくれる
「うっ うむそうだな 今は止すとしようか
金髪の従者をちゃんと躾とけよ」
と捨て台詞を残し別の女性の元へ駆け寄って行く
「あら この私ルナリア・マグスがが最後だなんて どういうおつもりかしら?
マグス家のご令嬢と呼ばれるこの私が 」
と髪色はネールピンク、ホワイトリリーの瞳ピンクアーモンドの唇から出されたのは
私と同い年くらいの少女からの声だった。
背も同じ位ウェーブロング髪でツーサイドアップが踊る少女である
リボンを髪に散りばめ、そのリボンも高級品ばかりそれを自慢気に揺らす。
「今宵は、一段とお肌もお綺麗ですね この月明かりも霞む程で御座います
ルナリア様。
最後のご挨拶になりましたのは このフラガナに免じてお赦し下さいませ
お嬢さまもまだ不慣れでございますので」
と丁寧に挨拶するが
「へぇ 貴女 ネフレインって言ったけ きれーな髪して それ染め粉?
それとも”自然”の?
染め粉だったらルナリアにも頂戴よ 今度ウチで取り扱う商品にするから」
「お嬢様、このルナリア・マグス様は、マグス商会のご令嬢でいらっしゃいます
当家とも、大口のお取り引きが有り
その御縁が有ります故、是非お友達になってやって下さいまし」
「そーーよっ 分かった? このルナリアを蔑ろしたら酷いんだからっ
だから、さっさと使っている”染め粉”頂戴よ さぁさぁ」
と両手出しおねだりしてくる。
この時は、この少女の本性など知る筈もなく ただ可愛いという第一印象だった。
「ルナリア様 申し訳有りませんが
ネフレインお嬢さまの御髪は自然の賜り物でこざいます故
どうにも成りませぬ どうかご容赦を」
と丁寧に申し出を辞退する。
「そうなら もういーらない つまんないの
貴女の香水も普通 懐中時計も凡百 私の方が上ね ふふん」
としたり顔、真ん丸のおどけた目付きとは裏腹に
瞳は冷たく陰険だった。
懐中時計の事を悪し様に言われ、髪が ざわり と反応してまった
あわてて フラガナが私の前に出て隠そうとしたが
「おやぁ? いま貴女の御髪動いたわ ううん間違いないわ
絶対よ まさか妖魔の血が混じってるの ルナ怖いわぁ ねぇルベラ
貴女見た ねぇねぇ見たでしょ? 」
と傍にいたルベラと呼ばれたメイドに同意を求めた。
しかし、ルベラは
「いえ ルナお嬢様の見違いでですよ このルベラはネフレイン様の”色違い”の部分が
動く所は存じてませんよ」
「うっ 嘘! うーそっ 絶対見たもん ザワザワって動くの!!
この妖魔 ルナに恥をかかせたぁ うわ〜ん」
とルベラに詰め寄って泣いていたが 目はニヤニヤしている。
流石に、度を越した物言いに頭が真っ白になりふらりと彼女に詰め寄ろうとした時。
すかさずリビュートが支えてくれ、フラガナは
「今は、堪えて下さいまし」
と言ってくれ ふと我に返る。
そうして心を鎮めたが、救護院での悪ガキの悪態に慣れていなければ
どうにかなってしまいそうな物言いだった。
すると、横合いから
「ルナリアお嬢さま!! 戯れ言もたいがいになさりませ
人様にはいろんな事情がお有りなのです
少しは、他人様のキモチを汲んでやって下さいませ
旦那様に言って”お仕置き”をしてもらいますっ!! 」
とメイドが窘めると
ルナリアはしたり顔を激しく狼狽させ
「ご ごめんなさ〜ぃ 後は何も言わないから
とーさまには言わないで」
と懇願するも
「いーえっ!! 今回はちょっと度が過ぎます ネフレイン様に頭を下げなさい」
と再度キツめに窘められ
軽く頭を下げたがを醜く歪め心から謝罪する気がないのは
私にも分かった。
立ち去り間際、ふいっとルナリアは私の耳に寄せ
「ふん テメェの正体 ぜってぇ 暴いてやるからな」
と口汚く男口調で言い放った台詞に、私はこの少女の本性を垣間見た気がした。
そうして一通り挨拶も済み
「さて夜も更けてきました 遠方の皆々様にはお部屋をご用意してあります
当家の二階は男性 御婦人方は三階をどうぞ
御夫婦同伴でのお部屋もご用意してあります
お菓子等はお好きなだけお部屋にお持ちくださって結構です」
とルタスが言うと早速同年代位の少年少女は菓子皿に群がっていた
私も幾らかを菓子皿より取り分け
充てがわれた部屋にフラガナと入る
「ちぇ 俺様は二階かよ 野郎どもの匂いで鼻が曲がるぜ」
等とぼやくも
「いいか フラガナ 今夜は先刻のあのメスの件のある
寝ずの番するしかないな
それと、後飲み物には手を付けるな 俺達妖魔でも
眠りこける薬があるしな」
「えっ 寝ずの番? 」
「あぁ でもネフィは気にするな ぐっすり好きなだけ寝ろ
ちゃんと起こしてやる」
といいいつの間にか私服に着替えていた
フラガナにきくと
あの狼の意匠のループタイに仕掛けがしてあり
あの中に衣装があるそうだ
「えぇ 分かったわ 寝不足はお肌に悪いのにぃ」
と頬を膨らませ子供のように愚痴をこぼした。
「でもネフィは安心しておやすみさないな
でないと、旦那様に私が御叱りを受けますのでいいですね? 」
と詰め寄られ それに従う。
各々が部屋に戻り広間は静まり返る
「くそ 先刻は失敗ったな 思わず ”素” が出ちまった
オレがわざわざ こんな 辺境くんだりまで来てやってよ 成果が無かったら
どーすんだよ なぁ? 」
と 髪色はネールピンク、ホワイトリリーの瞳、ツーサイドアップのウェーブロング髪が踊り
ピンクアーモンドの唇から出されたのは少女の声であるが
口調は完全に男性のそれである。
この ルナリア・マグス は実は、少女などではなくある結社に無理矢理
少女に仕立て上げられた 去勢された男性であった
彼の父親:レグラム・マグスは己れの野心の為実の息子を幼い頃に去勢し、少女に仕立て上げ
こうしてあらゆる場に”娘”として周知させている外道であった。
少女なら、簡単に男共が言い寄ってきて情報や権力が手に入る
たったそれだけの理由で。
ルナリアが男性であることは父親とメイドしか知らない
それほど表向きは声も仕草も完全な少女だった
しかも、本人も少女の恰好を好み、少女を徹底的に愉しんでいた
可愛いピンクアーモンドの唇からは ”二股” に分かれた舌がそれぞれ別々に蠢く
「ルナリア様、あの娘は未だお持ちで無いかも知れません。
指にも嵌まっておりませんででしたし」
ルナリアは姿見で己れの姿を見て
「んーっ? それはそれで別にいいさ 何が何でも今日って訳じゃねぇよ
何時かは必ずなぁ オレのかわいいこの指に嵌めてやるさ」
とピンクの爪化粧の爪先を軽く噛む
「所でよ オレって可愛いかなぁ? あの娘よりよぉ? 」
と髪を丁寧に梳かせながら言う
「えぇ ”お嬢さま” 程お美しい方はいらっしゃいませんよ
だから こうして」
と ルナリアの唇を奪う
......くちゅくちゅっ くちゅりくちゅり...... ......んんっっんぁ
と二つの可愛い唇が重なりあい 二股に分かれた舌同士が絡み合い
淫靡な水音を立て始めた。
「成果がなくっても、今は良いじゃないですかぁ
まだあの娘は蕾、 大輪の華を咲かせ一気に毟る
それがお花の愛で方で御座いましょう? 」
「あぁそうだな オレは男だが もうアレもネェし
マグス家のご令嬢様として愉しませて貰ってるっけどよぉ
誰かをいたぶって苦悶の表情を見てねぇとなぁ イライラすんだよぉ
分かるかぁこのキモチ? 女をいたぶりたくても、出来ねぇこのもどかしさ
本物の女には分かんねぇだろ?
男に産まれたら、一度擡げた劣情を満たすまでは満足せずには居られなく性をよ」
とうっとりしながら綺麗に斜めに揃えた、リボン柄のタイツに包まれた脚をゆっくり組み
ピンクのリボンストラップパンプスをクイクイと、メイドの股間付近に押し当てる。
徴を完全に失っていて形すら無い彼は 募る男の劣情を
卑猥な器具で少女を嬲って解消していたのである。
「あぁん 分かってますぅ でも先程の件が有りますから今夜は別の者に探させますわ
それで宜いでしょうか? 」
「あぁ いいぜ 丁度先刻、襲撃を失敗った莫迦がいたろ
アイツにやらせる
まぁ有るに越したこたぁねぇが 無ければ無いでそれを口実に散々いたぶれるしな
アレ用意しとけ オレの愉しみをよ」
と言うと
「はい ルナリア様 此処に」
とルベラがルナリアに手渡したのは卑猥な形状の器具である
これを可愛い唇で舐りながら
「あとクィンタクルの書簡、預かっているだろ中身は判るか? 」
「それが、皆目判明致しませぬ
強力な術が仕掛けてあり 旦那様本人の、マギでないと反応しないように
なって居るようです」
「けっ 使えねーな まぁいいさちゃんと とーさまには渡るようにはしとけよ
オレが折檻されるからな 明日、朝一には此処を立つ いいな? 」
「はい ルナリア 御坊ちゃま」
「ちがうだろ オレは ”お嬢さま” だ、今度言い間違えたら
下っ端に格下げるぞ」
とルナリアは下衆な顔でメイドを睨めつける
「それはお赦しを」
ーー ふふ いい気なもんね 何方が格上かも知らないで この男女めが!! ーー
と顔にはこれぽっちも腹黒な考えを垣間見せず、体面上は恐縮するメイド。
かわいい寝間着に着替えると
既に躰は外観相応の少女のそれだった。
淡く膨らんだ胸乳、華奢な躰、外観上は何ら違和感無くショーツに包まれた股間
何処からどうみても男性には見えなかった。
「ルナねぇ今夜はとっても寂しいの 一緒に寝てくれる? 」
更に、少女口調で甘えて、おねだりである
今夜メイドの同衾を求めたのは
彼の本邸の私室は少女趣味で彩られていて 沢山のふるもの(アンティーク)人形や
小物で溢れている。
常にそれらに囲まれて居る彼は
質素で飾り気無いこの部屋ではただ単に落ち着かなからだった。
「いいですとも 貴女様は、立派な淑女ですとも」
と妙齢の女性と、見た目少女のカストラートは閨を供にした。
私:ネフレインは、初めてのお披露目で完全に意識が沈んでいて
寝台にその疲れた躰を埋めていた。
そして、フラガナは、寝台ではなく
椅子に座ったままじっとしていた
......
甘酸っぱい檸檬の香水の香りが濃くなって来ていた
あの時と似た気配を感じた
フラガナは椅子に座ったまま片目を開け様子を伺う
「ふん、やはり仕掛けて来ましたか あの時はこのフラガナ
不覚を取りました ......が、 此度はそうはさせません
今宵はきっちり返さて貰いますっ!
よもやお嬢さまの閨までとは、なんとも生命知らずな事だこと」
腕を組みこう言い放つと素早く椅子から飛び退き
得物の鞭を構える。
「 ユッ ユビワ ヲ ヨコセ マヴィディルのユビワ ハ ドコダ ?」
とたどたどしい 共通人語 小柄な体躯、胸部の膨らみ、
種族は不明だが明らかに、少女であった
加えて フラガナは先刻逃した賊の一人であることもすぐ看破していた
「何かと思えば 指輪ですって そんなものは無いわ
閨にまで押し入ったからには其れ相応の対価を払って貰う
お嬢さま 御無礼をお赦し下さいませ 貴女様には今はこの場を
お見せするわけにはいきませぬ」
とネフレインの寝台周りに結界を張る
「名を名乗れと誰何した所で、その下品なローブが如実に語ってますわね
紅い星の仔ッ!! 」
......。
フラガナの鞭を巧みに躱しながら 視線を動かしつつ
机の上や橋台の宝石箱を蹴飛ばし中を確かめる賊の少女
「ナイ ナイ ナイゾ クソっ」
と少女らしからぬ汚い言葉が飛び出す。
次第に疲弊したのか躱すにも粗が出てくる 関係ない大型の家具まで蹴り倒し始め
音が拡散し始めた
大略目につく物をひっくり返した賊は最後に
ネフレインに迫る ......が
結界により簡単に弾き返された。
さらに大きな物音が出て、隣の部屋の客人から ルタスに連絡が入ったらしい
「どうかされましたか? ネフレイン様、物音が聞こえただならぬ
御様子 御婦人のお部屋では御座いますが
中を検めさせて貰いますっ!!」
ドンッ
と扉を開けると同時に賊は 窓から外へ
騒ぎを聞きつけたリビュートも
フラガナと視線を交わし賊を追う が彼にはある誓約があり女性を手に掛けることが出来ない
「すまん 取り逃がした 赦せフラガナ でもやつは 下水溝の蓋を開けやがって
そっから中だ 今潜るのはお前でも拙いぞ」
この世界デュナミートは、古代遺跡や遺構を基礎に都市が築かれている
地下は迷路のようになっており危険な妖魔も棲み着いている
最も身近で危険な迷路だった。
「ネフレイン嬢は? 」
とルタス
「うふ それはわたくしの結界でしっかりお守りしております
壊れた家具は当家の ハレリー に修繕させますわ」
「いっ いえ けっこーですっ あの御方は腕は確かなのですが そのその...... 」
と何故か言い淀む。
「奴さん、いつも”余計な”細工をしてしまうからな
いつぞやなんか、机の修繕頼んだら食いモン喰ったり水溢したら怒って噛まれて
腕一本無くなったとか そんなことがあったけな」
とリビュート。
「ですから その その 今回はわたくし共が主催でございます
”元老派” に貸し一つということで手を打ちます」
とさりげなく元老派に貸しを作るようルタスに誘導される。
「うむ、 ここは儂が後で一つ ゼルストに借りを返すことでで手を打つ
よろしいか? 」
駆けつけたルベリウスの一言ですぐ事態は収拾。
「クィンタクル家当主の英断に感謝致します 後程、書簡をお渡します」
としっかりと商談も忘れない。
「うむ、ネフィの様子はどうかね、怪我はしてないだろうな? フラガナ」
「はっ お嬢さまにはこのフラガナめの結界にて 安眠を享受しておられます
御安心を」
と床に片手を着き片膝を折る。
「良くやった 儂の屋敷で子細を報告せよ」
「はッ! 」
「娘に何事も無ければ良きかな
レスタス君の忘れ形見に疵付けたとあっては
死にきれんわ ハハハ」
と 緊迫した雰囲気も一気に緩む
安全の為、クィンタクル家一同はネフレインの寝室で夜明しをすることになった。
会場地下、下水溝にて
可愛いワンピースドレスに薔薇柄の白タイツ、ピンクのリボンパンプスのルナリアは
フリルとレースのローブを羽織ってリベラと一緒に先程の賊の少女を
卑猥な形の器具で蹂躙していた
「なぁ てめぇまた失策りやがって 指輪無かっただとぉ? どういうこったよそれ
部屋中ひっくりかえしただろーが それとメスガキ(ネフレイン)の指引っ剝がして
見たろうな なぁ」
「あ ......それは見てません んん... けっ結界に阻まれて その」
「るせーよ そんなものぶち破りやがれや」
と少女声の汚い男口調が罵詈雑言の限りを尽くす
ここで、少女の賊は長年仕えてきた、ルナリアの本性を知ったのである。
「お お赦しを 」
「いんや 出来ねー相談だな 一度失策って二度はねぇ
こんの メスガキめ オレもオメェのような ”本物” の女に生まれたかったのによ
これ見てみろ こんな中途半端な躰でよ なぁ」
と執拗に器具で蹂躪し続けながら
余程、激昂していたらしく、言葉の後半は言っていることが支離滅裂であった。
「女、 ......に なりたい?」
最初は、この激昂している少女が何を言っているのか直ぐ理解出来なかった
「なぁ テメェはどうせ死ぬんだ 良いもん見せてやるよ」
ルナリアはワンピースのスカートを捲り
フリルたっぷりのペチコートを更に捲る可愛いショーツを
「んしょ んしょ」
と下げると
女の股間とも男の股間とも違う形が少女の目に入る
「貴女 っておっ おとっ 男? 」
今まで我儘なお嬢様と思っていたルナリアが男だった
これっぽっちも、ルナリアに”男”臭さはなかったし
仕草も礼儀も完璧な少女そのものだったからだ。
今し方まで、我儘な大商家の令嬢と思っていた ......それが”男”だったとは。
何かが彼女の頭の中で壊れていく。
「おうご明察 正確には”元”だ親父の奴 オレを無理やりこんな躰にしやがった
でもよ 今は親父に感謝しているぜ
こうやって可愛い服着れるし テメェのようなメスガキをこうして飽きるまで嬲れるしな」
と可愛いパンプスで顔を踏みつけ 更に、器具で蹂躙する。
彼にはカストラートになる前から少女願望があり
可愛い少女を見ると羨ましさの反動で難癖を付けて
こうやって直接満たせない、男の劣情を解消していたのである。
「うぇ ......」
「でもよ ホントは指輪見つける事が出来なくてもオレとしては
どうでもよかったんだ 親父に ”見つかりせんでした おとーさま” って言えば
良いんだからよ
とーさまはオレにかーさまを重ねていていて
どんな事も聞いてくれるのよ ねぇルベラぁ あと好きに喰っていいぞ
ルナね お人形さん遊びね、飽きちゃったから別ので遊びたいの♡ 」
と最後は外観相応の少女口調で彼は〆た。
「うふ お嬢様のお赦しを頂きましたので このルベラ
火が通った、ヒトの食べ物は反吐が出るほど”気持ち悪う”ございますから
ワタクシ 此処に来て何も口にしておりませんのよ 丁度、お腹も空きましたし
こうして生の腸をいただけるとは恐悦至極
遠慮なくいただきます」
と小さな唇からは二股の舌が覗く
この舌は少女が施術されいる舌とは違い”本物”だった。
爪は鋭く鋭利な刃物の如く変化して間髪入れずに腹に突き立てられた。
ルナリアもまだまだ飽きずに蹂躙していたが、
何かを引きずり出すような音 潰れる音 咀嚼する音が仄暗い下水道に響く
更におぞましい惨状の宴が催される。
哀れな少女が、手放していく意識の中で見た最期の光景は
ルナリアがショーツを少女がそうするように手で広げて上げて
捲くれたペチコートを下ろし、スカートを整える完璧な少女の仕草と
自分の腹から腸を手掴みで貪り喰う ルベラの姿であった
下半身はもう感覚もない なぜならすでに”無かった”のだから
こうして ”紅い星の仔” の失策りに対する粛清は滞り無く済んで
ルベラは口の周りの粘液を丁寧に拭き取り、
また会場の屋敷に向かう、まだ夜更けである上
朝にきちんと門扉から出ないと怪しまれるからだ
「美味しゅうございました お嬢さまも如何ですか? 」
と最後、ぶちゅりぶちゅり、と2回噛み潰す音。
「オレはいらねぇよ テメェのような妖魔とは違って、お上品なんだよ
ねぇねぇ それよりさぁ はやくルナの指に相応しい指輪探してよ ねぇったらねぇ♡ 」
と ”少女” らしく駄々をこね、指を広げうっとり眺める。
「ふふ そのうちにお手に入りますよ 今は堪えて下さいまし」
「うんっ ルナそうするね」
と満面の笑顔
まだ汚れているルベラの唇がルナリアの唇を奪う
少女に仕立て上げられているとはいえ男は男
男好きのルベラにとって不足はなかった。
ーー ふふ 莫迦な父子 まんまとこのルベラの
索に嵌まって こうも只人って揃いも揃って莫迦とはね
レグラムの妻を喰って幼い息子をカストラートにして
少女に仕立て上げて、さらに段々妻に似てくるのをいい事に
レグラムを焚き付けて フフ この子はこの子ですっかり
女の子に嵌まっちゃって可愛いものだこと もっともっと
可愛く成って私の為に動いてね ルナちゃんーー
とルベラは満足そうにお腹をさすり舌舐めずる。
たかが只人が齢を重ねた、妖魔に知略で叶うはずもなかった。
このルベラはマグス家の、実質的な支配者といってよい。
しかも完全に妖魔としての気配も消せる
魔蛇女の彼女は、嘗てイグレーシアに喧嘩を吹っ掛け大敗して
躰中の”鱗”を剥がされた そのせいで
完全に妖魔の気配を消せるその一方で、もう本来の姿にはどうやっても戻れない。
彼女が死んだのを機に直系血脈を探し出し
そいつの躰中の皮を引ん剥いてやらないと気が済まない
あの女は、 おめおめとただ死ぬ様な女でない
絶対に血脈を継ぐ者がいる
執拗な、魔蛇女の勘がそう確信させていた。
そのためには この莫迦な父子を上手く誘導し手懐けて指輪を見つけねばならない
二股に分かれた舌が前を歩くルナリアの白い項をみて
ニュルリ と反応した。
ーー 所詮は只人の紛い者の少女 精々、儚い生涯を女の子として愉しみなさいな
死ぬまでは全力で守って ア・ゲ・ルからね ーー
ルベラはルナリアの髪を歩きながら梳いていた
我儘な ”お嬢さま” はいつでもどこでもこうなのだ
それでもルベラはなんとも思わない
ルナリアの我儘なぞは瑣末なことであり ただ己の野心の成就の駒にしか過ぎず
何ら、障害にもならない。
彼女は徹底した利己的な思想の持ち主であった。
一晩の騒動も翌日の点呼でようやく落ち着く
誰一人”欠けて”はいない
私はいつもより傍に居る二人に尋ねる
「どうかしたの リビュート・フラガナ? 」
「昨夜騒ぎが有りまして賊が葡萄酒倉に押し入ったのです
賊を取り逃がしてしまいましたので 万が一にと思い
こうして御側に」
とフラガナは何時にもまして視線を動かしているように思えた。
「でも大袈裟過ぎない? 」
「ネフィよぉ そんなことはねぇ アンタは公爵令嬢だ
こうして居るのが当然だろうがよ 従者としては至極当然だ
こういう事態にも慣れておけ これ俺様の実践授業な
あとあのいけ好かねぇ ルナリアというメスガキは点呼が済んで
とっとと、ズラかったぜ 顔合わせなくて済んで良かったな」
私はあのおっとりした目付きの口汚い少女が脳裏を過る。
どうして彼女が激しい感情をぶつけて来たのかは
この時、私はまだ理解していなかった。
令嬢達の戦場(社交界)をくぐり抜け、ルベリウス夫妻より
一足先に屋敷に戻る。
その日を堺に、ネフレインを取り巻く環境は更に変化を迎えた
どこぞの伯爵家の子息、どこぞの男爵家の子息果ては、領主の息子と
縁談話が持ち込まれ、その度に私は辞退していた
ルベリウスも心得たもので
「娘はまだ 世間慣れしていないくてね 貴族社会というものを知らんのだ
機を見て儂からも説得するから、干渉は控えてくれぬか」
と。
ルベリウスの機転により、ひと頃の縁談騒動も落ち着きを取り戻すが
”一部”の妖魔やヒトの男性の心を更にたきつけるには十分だった
そして更にネフレインを大きなうねりへと巻き込んでいく。
次回、 祈りの乙女 お楽しみに
この物語は次回予告あらすじを掲載するスタイルを採用しています。
骨董店に持ち込まれた乙女の像
リビュート以外の男性の影がネフレインに
迫りつつ有った
さぁ、どうなる恋心? ...... 。
活動報告にネフレイン・イヴェール・レネトリア(本編未登場)の
設定を投稿しております
みてみんに飛びます