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Episode01 銀の記憶

銀の葬送師しにがみと半妖の公爵令嬢  本日開幕です

人外少女の淡く揺れる恋が世界をも揺さぶって

そんな物語です

よろしくお願いします。

 激しい剣戟音、魔導師の呪文スペル

この戦闘音飛び交う中。


 一人の銀髪の少女が佇んでいた

この少女は場違いなこの場に誤って迷い込んだのではない


{おのれ!! 人間どもよくも妾を”瞑府”まで 引きずり出させおって

アヤツは妾の夫であり 妾の所有物でもある 絶対手放さんぞ

クソ騎士共 女神:リーゼの狗めらがっ!! }

お凡そ、少女の紅い小振りな唇から出る言葉ではない


「イグレーシアぁ 妖魔の一翼の分際で我等聖騎士がひとり

レスタスを娶り揚げ句、まで設けるとは この男狂いの化け物が

われら、聖騎団 蒼天の翼 を愚弄するにもほどがあるっ

女神:リーゼの名の下 即刻、その汚らわしい躰を散らせ」

と聖騎士の総隊長イレック・ユリーゼンは張りのある声、堂々たる体躯で

魔界:オルティアと人間界との狭間たる瞑府ネキュリアで

配下の、騎士・魔術師・魔導師を鼓舞していた。



{何が、  聖騎団 蒼天の翼 の一人だと? 片腹痛いわ

”只” の魔導考古学者ではないか 妾の証しに触れた以上

此奴は妾の夫であり、永劫の伴侶に相応しき男

それに 再誕の儀 まで邪魔しおって 御前達のお蔭で

此奴の寿命まで、ニにたびの術式はもう出来ないではないか

妾は老いていく此奴は見とうナイっ

それだけでも 貴様らは万死に値するッ!! }

少女は怒りが頂点に達したらしく うねる銀髪から数本の蔓薔薇が飛び出してくる

白銀の茨に漆黒の小薔薇の蔓薔薇は華奢な彼女に幾重にも

纏わり付き怒りの凄まじさを体現していた。


「ふんっ ほざけ そいつ(レスタス)はヒトとしての定命のことわり

迎え、女神:リーゼの手により 転生の環に乗せてやるのが

ヒトとしての生き方よ ”化け物” として生き永らえても そいつ(レスタス)の為にならんぞ」


{五月蝿い 五月蝿い 黙れ只人めが 黙らぬか! }

と空中に浮きつつ婚姻ドレスのような豪奢なフリルやレース、

黒薔薇飾りのワンピースドレスで身を包み、白いタイツで包まれた

脚をバタバタ させ 駄々をこねる

時折見えかくれする雪花の如き肌は、艶やかな産毛を反射し一層彼女を可憐にして

艶やかに見せていた。


 聖騎士達の視線が自然に少女に釘付けになる

「何だぁ 貴様らっ それでも 蒼天の翼 の精鋭か 弛んどるぞ

それとその色違いの髪の 忌み仔っ!! その仔に罪はないが

この場で我等が 滅してやり女神の手に委ねさせてやるのも勤めの一つッ!! 

お前が ”死んだ” 後、忌み仔は どうしてくれよう 

俺が直に手を下してやろうか ぁあ イグレーシアァ」

と 言ってはならない事を言ってしまう。


「貴様ら!! とうとう言ってはならぬ事をいいおったな 妾の一つの姿を見せてやろう

この場でそのちっぽけな権威である鎧共々、喰らい尽くしてやるわ」

「イグレーシア? 」

と今までイグレーシアの後ろに隠れグレーシアの蒼っぽい銀髪の中に

淡いブルーラベンダーの色違いの部分がある赤子を、抱いていた青年が

怯える様に出てきた

「莫迦っ、 ”私” の後ろに引っ込んでいてって 言ったのに

私ね、禁術使うわ 彼らは言ってはならぬ事を言った

でもねこれ使うともう二度とこの姿には戻れない

人語も喋れなくなる 理性も利かない でも貴男を愛している

それは本当よ 私達の愛の形が此処にあるんですもの

ねっ レスタス 貴男とこの子には見せたくないの

分かるでしょ この気持ち? }

「あぁ分かるとも でも、君は勝手だな ボクより 遥かに寿命が永いくせに

先に逝くつもりだろ? 」

{ふふ 分かっちゃった? 最初は、婚姻してもお互い家の中でも

戸惑うことばかりしていたもんね 貴男にとっては親愛の仕草でも”私”にとっては敵対の

仕草だったりね}

「ふふ そうだったね でもこのが産まれた それでいいじゃないか 

ボクの方こそ御免よ 君の胸の谷間の証しに触らなかったら

こんな結果にはならなかった」

淡いブルーラベンダーの髪の青年:レスタスはは今にも泣き出しそうであった。


{いえ 始めて貴男を見ときもう 私の心は決まっていたの

そんな悲しい事 言わせないで

ほ〜ら”オトコノコ”が泣くんじゃないの 貴男はこのを連れて

ヒトの済む世界に戻るの 出来れば、このの末を見守りたかったけど

もう叶わないわね だからね貴男が私のカ・ワ・リに見てやってくれる? それに

このはヒトの世界でヒトのオンナノコとして歩んで貰いたいの

このは半分はヒトなのよ

私の棲む魔界オルティアはきっとこのに眠るもう半分の

私の獣を覚醒めさてしまうから}

「あぁ 本当にごめんよ 君が一度そう言ったら覆せないことは

このボクが一番知ってる。

このも君の頑固さが似ないといいけど」

{莫迦ね 今頃気がついた? }

「あぁ ボクは莫迦な男さ 妖魔の君に美しさに惚れた莫迦な ......っ」

{それ以上 自分を卑下しないの♡ }

とイグレーシアはレスタスの唇を一気に塞ぐ


んんっ ......んん......。

 

{このイヴェールは守り手よ 私のこのへのお土産 いや ヒト風に言えば形見かな。

とうとう最後まで貴男にも懐かなかったわね 私に似て頑固な仔だから}


「何時までレスタスを 虜にするつもりだ 今生の別れか? それとも化け物の分際で

一丁前に 愛の囁きか あぁ? クソ妖魔が」

と団長がいきった声をあげる

{もう時間もない これに入って さぁ}

と彼と一匹と産着にくるまれた赤子諸共、宿り木の蔓で覆ってしまう

{あぁ わたしの ......レイン かあさまに最初で最後の笑顔を見せて}

と蔓が完全に覆う瞬間 産着の赤子はにっこり とびっきりの笑顔を見せて

ちっちゃい手を伸ばす 

そしてイグレーシアと指先が触れた瞬間 完全に宿り木は二人を覆う


イグレーシアァァァーーっ。


 レスタスの声が彼女に届いたかどうかは判らない。

ほんの少し蔓の隙間から見えた彼女の本当の姿は考古学者の卵の彼ですら見たこともない

美しい”獣”となり


騎士団に突っ込んでいく


「うおっ 是程とは 侮ったか? 一同退け 退かんか 陣に飛び込め」

隊長が叫ぶも 

「もう間に合いませぬ 我等が命運 これまでかと」

「うぬぅ しかしヤツも あれが、奥の手らしい 

なれば、これも女神リーゼがお示しになられた事

”女神リーゼのご意思のままに”」

と総隊長イレック・ユリーゼンが叫ぶ

一同もこれに続く

”女神リーゼの ......ご意思の ......ままに......。”


後の言葉は凄まじい能力ちからの奔流にかき消され紡ぎ切ることは出来なっかった

後に残るは銀色の優しい風。


 それもやがて散り一人の美しい妖魔と一個騎士団は完全に消滅した。

瞑府:ネキュリアでのある日ある時ある場所での出来事

折しも赤子の季節一巡りの生誕のお祝いをした翌日であった。


 宿り木の繭は冥府から人界へ まっすぐ 迷うこと無く出口に向かう

数瞬後背後から凄まじい衝撃・轟音・閃光が追ってくる。


 あのイグレーシアの宿り木の繭でさえひしゃげ潰れかかる

そこで彼レスタスは意識を手放し

次に目を開けた時は ”アレクシア公国” の教会管轄の救護院に保護さてれていたのである。


「うん ここは? ボクは? あの仔達は? 」

「えぇ 心配いりませんとも ちゃん赤ちゃんとあとは猫ちゃんかしら 無事ですよ

でもこのから離れようとしないし 離そうとすると えらく暴れるもんですから

仕方ないですね 規則違反ですけど 一緒に別室ですよ でも今御側に」

と言って救護師が産着そのまま抱いてきてくれた

先程の惨劇を閉じ込めるような可愛い寝顔 スヤスヤ 吐息はボクの髪や

頬を優しくくすぐった。


「あぁ このはね ボクにすら懐こうとしないんだ はは困ったもんだよ

エサやり一つ出来やしない 全てイグレーシアが世話してたからね」

と乾いた声。


「今、レモン水をお持ちしますわ 誰か早くこの殿方に御召物と軽いお食事を

此処は教会の救護院です 全て寄進金で賄って居りますからお代は入りませんわ 

それと奥様はどうかされましたか? このはまだ赤子だしそれに

先程 ”イグレーシア” と御婦人の名をお呼びになられていらしゃいましたが?

 

「いや 彼女は身を呈してボク達を守ってくれたんだ

情けないことにボクはそんな男なんだよ」

と重くゆっくり首を横に振る。


「そうでしたか 不躾にすみませんでした これからどうされますか? 」

と職員は尋ねてくる。


 人界こちらの住まいは既に無く全て魔界あちらの家に荷物やなけなしの財を置いてきている

「そうだね ボクは考古学者でね 躰を動かすのは苦手でねそれにこのの世話もある

住まいも有るが ちょっと訳有りでね今は手の届かない場所にあるんだ

もしよければ、

暫く、此処の事務においてくれないかな 書類仕事なら得意だ」

と申し出ると 

「まぁ ちょうどお誂え向きのがありますわ」

どんな厄介事を抱えているか分からないから

他人の事情には深く立ち入らない

それがこの世界の暗黙の了解ルールである。


 と救護院の資料整理等の事務方が、一席空いているらしい

「良かった このも此処において置いても? 」

「勿論、此処は 救護院です 男手一つだと何かと大変ですし

お嬢さまはお美しいですから 弄りがい もとい、育て甲斐があります

うふふ 救護師冥利に尽きますわね あらこの紅い水晶はどうしたのかしら? 

このがしっかり掴んでいたのだけれど 綺麗な紅ねぇ」

と娘を良く見ると右手に小さな紅い透明な水晶を握っていた。

 

 この紅はまるで ”イグレーシア” の血を思わせる

そういえば ぼんやりと記憶していたが最後に指が触れ合ったとき

イグレーシアから娘に少し紅い霧が移ったような気がしていた。

強大な能力ちからを持つ人外の彼女の事である


 今際いまわに何か娘に託したのかも知れない

「多分、妻の形見の何かだろうボクが預かろう ......っと うわっ

”イヴェール” これは玩具おもちゃじゃない 返せ」と

と先程までじっと丸まっていた飼い猫の ”イヴェール” がさっと口に咥え自分の胸の長い体毛に

埋めてしまった。

「あらあら この仔イヴェールっていうのね素敵なお名前」

とにこにこ顔


 因みにこの世界は魔精ようせいや魔術、占星術、錬金術、等大気中のマギを利用した

多数の術とマギことわりがある世界、それでいて冒険者ギルドなどもあり

妖魔まものも当たり前のようにヒトと共存している

そんな剣と隠秘学オカルトと幻想の異世界:デュナミートあり

彼らがいたのはある大陸のアレクシア公国の王都ナイラールの一角であった。


 ボク、レスタスは聖騎士団の雇われの考古学者であり

魔界で妻と出会いそして婚姻したのある 再びあの家を訪れる可能性が高いのは

目の前の赤子すなわちボクの娘であった



 なぜボクが再び訪れることは叶わないと自覚したのは

大きな理由があった


 先ず、ボクはあまり躰が丈夫なほうでは無く 仕方なしに魔導考古学のみちに進んだ

しかし、肝心な野外研究フィールドワークも単独では行けず

冒険者の一行パーティーに頼んで従いていくか出来なかったのである

彼らは守ってはくれるが

あの遺跡、この遺構と興味の赴くままには当然出来ない

丈夫な躰さえ有れば冒険者一行パーティーに頼らずにまた費用もかからずに行けたのである。


でも、ほんとは騎士団に入りたかった

格好いい鎧や大剣を振り回したかった

皆の、先陣に立って閧の声を上げてみたかった

しかし躰はそれを赦してはくれなかった。


 でもそれでも騎士団付き魔導考古学者という肩書を得て、魔界オルティア入りを果たし

そこで仮住まいを決めてボクなりに野外研究フィールドワーク生活していた

そんなとき 美しい妖魔イグレーシアに出逢ったのだ。


 うねる銀の髪先はゆるく巻いて 

果物を彼女の自由意思で動かせる様であった髪を、使って器用にもぎ取り

指を果皮に這わせる するとスルリと綺麗に剥け

そのまま艶っぽい手付きで口に運んでいた

白銀のドレスは華のように地面に咲き可愛い紅のパンプスの先がチラチラ

見えかくれする

幾重ものレース、フリルは華奢な躰を鮮やかに彩る

そんな豪華な服でさえ

にじみ出る彼女の雰囲気は霞ませていた。


{そこの 只人よ そんなに妾が珍しいか? }

美しい少女の”妖魔”は金色の瞳でボクを見据える

思えばボクはあの時既に彼女の虜に嵌まっていたのかも知れない。


「あぁすまない 君の美しさに見とれてね つい研究の手が止まったんだ 

不躾に見つめた無礼を赦してくれないか? 」

{ほう 妾を妖魔と知っての上での謝罪なら たいした度胸ではないか

ふつうなら 真っ先に妾に剣を向けるモノと相場が決まっていて

真っ先に妾の餌に成り果てるのも 相場と決まっていたのだがな}

としたり顔

この会話で彼女は相当高位の妖魔であることは今の言葉から推察出来た。


「生憎とボクには、君を屠る剣もこの身を守る盾もない

君が怒りに任せてボクを喰っても、ボクにはそれを甘んじて受けるしかないんだ」


{妾も、いつまでも貴様と問答をしたくない 分かるだろう 剥いた果物が

外気に触れて不味くなってしまうからの 妾がこれを食べ終わり

次に貴様を屠るまで待つか それとも、今直ぐ此処を立ち去り

これを食べ終わるまでに妾の視界から消え去るか、何方を選んでも善いのだぞ}

と彼女は果物を口につけた

「今は、ボクに非がある 身を退き君の視界から消えるのが賢明と見える

本当に済まなかった」

と踵を返し立ち去る時

 

 彼女は、

「妾は明日もこの時間にここにいる 今度は食べている最中でも無く食べ終った直後でもない

もぎ取る”直前”に声をかけよ 妾の髪は我が身の一部

手より素早く魔導機械より強いぞ チャンスを誤ったらこの髪の餌食となるやもだが

チャンスが有れば怪我無しに話を進められるやもしれぬ

もし、其方がこの”遊戯”に勝てば其方の名を教えよ、その次には妾の名を教えよう

ではな ようよう去れ 綺麗なブルーラベンダーの髪の小僧}

とまた”ゆっくり”と果物を含んでいた。


 ボクはそれから毎日彼女の”遊戯”に挑戦し続けた

幾度も”大怪我”しながらも”彼女”との会話の距離を詰めつつ

互いの名を知り簡単な出自を言い合える距離までは近寄ることが叶った。


そして、野外研究滞在も最後の日

「あとはいくらカネを出そうがこれ以上は、御前さんの研究には

付き合ってられねぇな 俺等は”冒険者”だ 

冒険者が動く理由ってカネだけじゃねぇんだよ  

分かるだろ ”刺激” がほしいんだよな

御前さんが 研究の合間に逢瀬を愉しんでいる あの少女の妖魔とかさぁ

何ならあの 女の”討伐”を契約に一筆加えてもいいんだぜ

なぁに 一行で事は済むんだがなぁ なぁどうよ? 

カネは今までの支払いで足りてるぜぇ」

と大剣持ちの下卑た大男は卑しい提案をしてきた。


 下品に舌舐めずりしたその彼の舌には 蛇の鱗のような入れ墨が見える

「なんだよ じろじろ見るんじゃねぇよ キモチワリィなぁ」

「すまん」

「けっ軟弱モンが ......」


 ボクも”かつて騎士になりたかったのである 刺激を欲しがっている気持ちが

分からない訳ではない いやむしろ痛いほど伝わってくる。

しかし

「それは、やめてくれボクはあくまで彼女と話をしたいだけだ 

たとえ、血気逸って彼女に仕掛けても 君達の命の保証までは出来ない」

彼女は高位の妖魔であることは、ここ三十昼夜の遊戯で痛いほど判っていた。


「なにおぅ 俺達も見縊みくびられたもんだぜ まぁ契約は契約だ 明日いっぱいまでは

貴様の恋愛遊戯れんあいごっこに付き合って言うことを聞いてやる

それから後は、俺達の新しい雇い主次第だ おっと俺達の口を黙らそうって言ったって

そうはいかんぜ これと”情報”は別口だ 此処にあの女の妖魔がいるって情報を

妖魔狩り専門の荒くれ共に高く売りつけてやる そん時こそ暴れられるってもんだぜ なぁ」

と一同下卑た笑みを浮かべていた

彼らとの会話はそれっきりである。


 ボクは彼女イグレーシアではなく”彼ら(やとい の ぼうけんしゃ)”の命を

心配したのは結局、最後迄イグレーシアには話すことが出来なかった。


{レスタスよ 最後に妾の躰の”何処か”に触れて見せろ

出来たなら 話相手ぐらいにはなっても善い 人界の事を話す権利を一つくれてやる}

「あぁ ”イグレーシア” ボクは酔狂で君の遊戯に付き合っていないことを

証明してみせる」

{善いとも 人外のわたしの挑戦に只人のそれも剣も盾も無き只の男がどれだけ

迫れるか見物だな}

そして遊戯は続く そして日が替わる直前

{ふふ やはり無理だったか 最初の出逢いの時素直に お前を喰っておけば良かった

妾も心残りせずにひと思いに糧として お主と一緒に...... 。}

ややイグレーシアの頬が赤くなる そして最後の台詞は聞き取れなかった


 ボクももう追い疲れ最後の 体力を絞り出す その時強い風等が

吹いたこともない此処魔界に突然吹き荒れ 彼女に覆いかぶさる様に倒れ込む

意図せず動きは流石に彼女も読めなかったらしい。


一緒に倒れ、そして彼女が地面に付かないように手を差し伸べたが

運動は得意でないボクは手を外しそのまま地面に付いたつもりだった ......が


ふにゅり と柔らかい感触そして同時に硬い感触も伝わってきていた


{ふわぁに(なに) をしゅる(をする) わらわの 大事な処に触れおって 

ひゅるさん(赦さん) }

と涙顔

「うわぁーー すっ済まん」

と冷静に状況を確認しようと手元をみて再度驚いた

彼女の相応の双丘を服の上から鷲攫みにしていたばかりではない

谷間に見えかくれする 黒い宝珠のようなモノにも触れてたのだ


{おのれぇ 〜 〜 こうなった以上責任は取ってもらうからぁ〜 

うわぁ〜ん レーシアの 大事な処に触ったぁ〜 }

と童女のように泣きじゃくった


 ボクには何がなんだか状況がつかめない

{レスタスの 莫迦ぁ莫迦ぁ これ求婚の証しなのぉ 

いきなり ”求婚” してきてどういつもりなのぉ 

こんな”小汚い”ブルーラベンダーの髪の ”妾好み”の優男にいきなりぃ

うわぁ〜ん  莫迦ぁ莫迦ぁ}

と言っていることも支離滅裂であった。


 ぽかぽか ”軽く” レスタスを叩き

と髪の間からしゅるり と白銀の蔓、漆黒の小薔薇の蔓薔薇が

一本飛び出して来て 目の前に 迫る 今まで見たこともない

彼女にぼくは覚悟を決めた ......が痛みも襲って来ない


{ねぇ レスタス”私”の宝珠ここに触った以上 責任とってくれる? 

私ね 実はね 最初からね 貴男のこと見初めていたの

こんな素敵な髪の男の子 もう誰にも渡さない 今まで”イジワル”しちゃって

ごめんなさいね}

と尊大な口調とは違い”素”の彼女はうぶな少女であった


 それはボクにも言えることだが

研究が好きで学院生活でも女子には縁がなく

噂で同性が好きなのではとも噂されますますボクの回りから

女っ気など無くなっていた。

そんな男女が数昼夜の遊戯ゲームを経ていきなり 婚姻である

どうしていいか分からないのは当然だった。


 彼女は可愛い唇を突き出し目を瞑る 

{んーっ 貴男のお口 ...... もう女の方から言わせないでよね}

何をせんとしているのかは学院時代良く講堂の裏や

誰もいない聖堂でそういう行為を”偶然”見ていたのでなんとはなしにわかるが

いざ自身が実行すると学問のようにはゆかず

モジモジしていると


 髪から出てきた蔓薔薇でボクを優しく絡めいきなり接吻を迫り

ボクは産まれて始めて 女性”から”唇を奪われてしまう

唇をうばわれたのも接吻をしたのも始めてで顔が火照ったのを感じていた

そして、その時の柔らかい感触はボクの一番の思い出になった


「兄貴よぉ どーすんだあれ ”妖魔”とあの優男接吻してら

うらやま もとい どうしますかね」

「これは、いい口実が出来たじゃねぇか あの妖魔の少女は

使いみちがある 早速首魁ボスに知らせねぇとな」

「口実って どんな? 」

「莫迦か? これで堂々とあの妖魔の少女を堂々と”討伐”出来るってな

しかもあの胸に見える黒い宝珠 ありゃ神代級遺物だぜ

首魁ボスも大喜びだろうよ 指輪に加工してもらうんだよ

理由? 理由ならいくらでも付けられるだろ

少女の妖魔の”虜”された 魔導考古学のセンセを助けるってぇ大義がな」

「さすが兄貴 頭いいな でヤツの家には書き置きしてきやした 

契約満了ってね」

「おうそれでいいぜ 早速この情報を俺等の ”紅い星の仔” にもって帰るぞ」

「これでオレも堂々と、あの妖魔を潰せるしな ここ30昼夜は退屈で死にそうだったからな

こんな恋愛ごっこ見せられてもつまんね ずらかるぞ」

と雇われ冒険者達は人界に引き上げていく


「レスタス 貴様ッ 妖魔の”虜”になって 呆けたか

此処オルティアに残りたいだと あげく、婚姻の儀までしおって

えぇい そんな”ヤツ”は  聖騎団 蒼天の翼付きからこの俺自ら解任するっ

能力を買っていたが自ら立世りっせチャンスを棄てるような愚かな事を

此度は、他の所用で来ておる 季節が一つ巡ったらまた来る

それまで、考え直す猶予をくれてやる これでチャンスを見て

妖魔ヤツの心の臓を刺せ」

と総団長イレック・ユリーゼンは聖銀製の小振りの短剣を渡される

ボクは、ひと目見てこんな”なまくら”ではイグレーシアの肌に赤い一筋すら疵を負わせられない

そう直感したが、外面上は受け取っておく

「ふん レスタス このことは聖教の重鎮共には報告は

しないでおいてやる よく頭を冷やして置けよ ではな」

と言って宮廷魔術師が作る転送の陣に彼らは消えていった。


{なぁに その”なまくら”ぁ これでこの私を刺せですって 冗談は寝てから

言って貰いたいものね 

ねぇ これで私を思いっきり刺してみて♡ }

「えっ 君を? 」

{うんっ♡ いいから}

と及び腰になっていると

と間髪入れずに彼女は短剣を自らヒトなら心の臓のある左胸に突き立てて

思わず目を瞑る

指の隙間からそうっと覗くも”血”一つ付いてはいない

彼女が引き抜くと哀れな短剣の刃の部分はドロドロに溶け

短剣の意味すら喪っていた

{だから 無駄って言ったのよ まったく只人って莫迦ね でも貴男だけは別

ねぇ レスタスぅ お口頂戴♡ }

と腕を回し上目で”おねだり”を 迫られ

「我が姫君の御所望は 接吻かな? 」

とボクなりに芝居がかった言葉を投げると

{えぇ 我:魔獣イグレーシアは 此処に我が夫の接吻を所望である

嬲る様な激しい接吻で我を虜に}


 と彼女も芝居がかっていたが 魔獣イグレーシア と言う時

心無しか芝居でない 或る種の恐怖と畏れをボクが感じたのか

ピクリと小童のように震える。


{怖がらくていいの 貴男は私の所有もの

外観は少女であるが妖魔の年齢等只人には分るはずがない


んんっ...... くちゅくちゅ... くちゅりくちゅり

{ねぇ ここも触って}

と唇付近から聞こえる湿った音とともに

更におねだりを要求してくる

ボクは、胸の谷間の”宝珠”に軽く指を這わせる


んんっ......あぁん レスタスぅ 好き 好き そのままでいて


彼女は腕を回し、暫し貪るような接吻からボクを解放してくれなかった


そして、ボクはだけになった短剣をどうしようか

考えあぐねていると

{ねぇ 此処オルティアは とーっても 危険よ

だから 私の血で新たに短剣拵えてあげる}


と彼女は螳螂蜂の鎌で指を切り

刀身が溶けたごと自身の血で包み込み

新たにと刀身が一体化した透明な赤黒い短剣を造り渡される

{これね 私と貴男 それとね 私の”直系の血脈”の者しか

扱えないの 貴男はすぐ失くしそうだから いえ 違うわね

これに惹かれる下賤げせんな妖魔共に奪われないよう

体内に入れてあげる}

と短剣を胸に押し当てる


苦痛もなくそれは、胸に沈み掻き消えた

「それって ボクが妖魔を招くって事」

{良いじゃない 別に 此処は只人が生きていくには大変だし

それに、自分の身を守れるくらいに強くはなってよ}

と甘く囁いてくる

「君が言うなら 努力するさ」

{ねぇ あと季節が一巡りしたら 取って置きの”お土産”をあげる

今は術式の準備中でね これ失策れないのそれまでは 

我慢して}

と何やら意味深な含みのある言葉をかけられる

 ボクも男である いつまでも彼女の庇護のままというわけには行かない

ちっぽけな男の矜持を奮い立たせるには、十分だった。


 それからは、常に低級の妖魔との緊張感ある野外研究フィールドワーク生活が

はじまった。

此処オルティアに来ても遺跡やら遺構巡りはやめられないでいたのである


 家で

ボクと彼女イグレーシアと不器用な婚姻生活が幕を明ける

ヒトと妖魔である

価値観も違えば、倫理観も異なる

時には大喧嘩をして彼女が家を空けた事もあった

でも それでも彼女はくらい杜の中でボクに見つかりやすいように

蔓薔薇を、纏わせたり わざと大きな声で伸びをしたり

ときには 嘘泣きでボクを誘導してくれるのである

その健気な姿はヒトとなんら変わりはしなかった。


 最初に出逢った頃のように 遊戯をしたり、一緒に下級の妖魔を討伐したり

ボクの野外研究フィールドワークに付き合ってくれたり

更に互いの内面の奥深くまで惹かれ合っていく

褥を共にして 二人の愛の結晶が産まれるのには時間が

かからなかった。


そうして、季節の巡りは又一巡する

{いよいよ 明日は 再誕の儀ね これでようやく レスタスも

定命のことわりから外れ 妖魔の仲間入り

短剣もこのに託せるくらいには貴男も強くなった

でもね、 いえ ......なんでもないの ただ...... }

「ただ? 」

ボクは彼女がひどく寂しそうな憂いを帯びた顔にドキリとする

{なんでもないの ねぇ 私を抱っこして 貴男のその腕で}

彼女はいつもよりひどく怯えていて震えていた

高位の妖魔である彼女がである


「急にどうしたの? ”いつも”そうしているじゃない」

{明日は野外研究フィールドワークには行かないで 再誕の儀が終わっても

ずっといて}

「あぁそうするさ このもようやく季節一巡りだからね

お祝いをしよう ヒトの間では季節が丁度一巡して同じ季節が巡ってきたら

お祝いをするんだよ こうやってね」

 とボクの亡き母からおそわった

プディングに果物で飾った豪華なお菓子を切り分け

最初に赤子の口へ 食べることは出来ないが可愛い鼻をぴくぴく動かす

次に その切れ端を彼女に食べさせ、最後にボクがその残りを口に含んだ

{素敵ね 只人ってこんな素敵な習慣があるのね やはり貴男を

一緒になって良かった}

「おいおい まだこれからがあるだろ」

と過去形の言葉を否定した

今思えばあの時、彼女は先を予見していのかも知れなかった


 そして夜の帳が淡くなっていく

もし再誕の儀を無事済ませることが出来たら

いつまでもイグレーシアと娘と共に暮らせるかと思っていた

......が 聞きおぼえのある声はそれをも赦してはくれなかった


「レスタスっ!! 待たせな 本当は季節一巡めでくるつもりだったが

準備やら何やらで 季節二巡目になってしまった

で化け物はとっくに始末したんだろうな って おい

その赤子はどういうことだ? 妖魔とヒトの”忌み仔”ではないか 

教会を愚弄するか この異端め!! この化け物め レスタスを虜にしたばかりか

妙な術式を発動させているではないか? どういうことだ」

「イレック殿 お耳を」

と術師らしき女が耳打ちをする

「何と虜にしただけでは 飽き足らず 下賤げせんな妖魔共の

仲間にするだとぉ ゆっ赦さんぞ 」

と騎士団は得物を構えた

{お主は そのと一緒に妾のうしろへ}

とボクと赤子をかばう

  

{おのれ!! 人間どもよくも妾を”瞑府”まで 引きずり出させおって

アヤツは妾の夫であり 妾の所有物でもある 絶対手放さんぞ

クソ騎士共 女神:リーゼの狗めらがっ!! }

お凡そ少女の紅い小振りな唇から出る言葉ではなかった


......。


 そこで、現実に帰る

すこし微睡んでいたらしい



 ボクは救護院で必死でカネをため、此処 アレクシア公国 ナイラールの

救護院が近く中心都市にも近い

一角に中古物件の骨董店を買い取り 骨董店を営み

赤子は幼女になり幼女は美しい少女になる

ボクの持てる全ての学識を与え お転婆ではあるが学識豊かな

イグレーシア似の美しい少女:ネフレインに

男手一つでどうにか育て上げることが叶った

イグレーシアに唯一ボクが自慢出来る事になるだろう


 中途半端な再誕の儀、加えて彼女イグレーシアとの強引なパスの切断

それらはマギを乱しさらにあるものを彼女が寝ている間に

継承した後はもう寝台から起き上がるのでさえ難儀になるほど

ボクの躰は衰えていった

 イグレーシアの短剣がどうにか、いままでボクを保たせていたのは明白だった


 それを彼女に継承したボクに、残された猶予は少ない 

じき葬送師しにがみが魂を刈り取りにやってくるだろう

心穏やかにイグレーシアの元に逝くつもりだったが

”限れた” ボクの命はイグレーシアを滅した ”憎き” 仇敵の名を

ボク:レスタスとイグレーシアとの愛のカタチ ”ネフレイン” にもどうしても

伝えておきたいという浅ましい考えを起こさせるには十分だった。


 浅ましい感情だと言うことは判っていた

...... 。


でもそうしないと 散っていったボクの最愛の妖魔ひとが浮かばれないでないか

...... 。


 ボクはもう寝台から起き上がることもままならない

今日も相変わらずボクを世話してくれる

そんなネフレインにボクはイグレーシアを重ねていた


 うねる銀光沢色の蒼っぽい銀髪はイグレーシア 君に

色違いの部分の淡いブルーラベンダーは ボクに

淡い金の瞳は イグレーシア 君に

半妖の君は 能力ちからを出す時左目がアッシュグレイに変化し

うねる髪から、三本の蔓薔薇が出てくるんだね でもこれは君が機嫌が悪くないと

出てこないから”滅多”に見ることが出来ない。


 蔓薔薇の一本は白銀の蔓、漆黒の小薔薇でイグレーシア 君と同じだね

後は、白銀の蔓に蒼の小薔薇 君らしくて素敵だね


今日は頑に懐こうとしなかったイヴェールが ボクの横で丸くなっている

 

 あぁ イグレーシア ボクの愛しき妖魔ひと

もうすぐ君の元に逝ける。


「とっ 父さま? 父さまぁ〜っ」

薄れゆく意識のむこうで動揺した、少女の声が聞こえる。 

床に落ち割れる花瓶

溢れる水。


 あぁ ネフレイン泣かないで 

君の後見人にはボクの支援者である

クィンタクル候爵家に全て委ねてある 

君の出自を知ってなお、後見人になってくれる

 

 どうして悲しい顔をするのかな

いまボクは やっと肉体のくびきから解かれ 

愛しイグレーシアと 共に

愛しネフレインを永遠に見守れるのだから。

ボクの意識は遠くなっていった。


 こうして一人の男の物語は終わり

新たに少女の物語が始まる


これは、一人の少女の揺れる淡い恋心が

大陸と世界も巻き込む

 何処かの大陸、何時かの時代の淡い恋愛譚 そんなそんな物語。








次回、 半妖の少女 お楽しみに

次回から 主人公”ネフレイン”の揺れる恋愛

の物語が開幕致します


 一部、拙著:オルティア・レコードのキャラクターや魔物の名が出てきますが

名と設定を借りているだけであり一切関連は有りません

また、オルティア・レコードとのつながりも一切有りません


 活動報告には 詳しい登場人物のプロフィールを

掲載してあります ネタバレが含まれますので

ご注意願います。


次回の投稿時にネフレインの設定画を みてみん にも投稿予定です

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