シャトルラン
焦らずにはいられなかった。
階段を駆け降り、保健室の扉を勢いよく開ける。
「玲那!!」
なぜ、とっさに出た言葉が彼女の名前だったのかは自分でも分からない。
でも、振り向いたのは髪の短い玲那ではなく、髪の長い結だった。
「あれ、春?なんでこんなところにいるのさ?」
結がぽつんとした顔で僕に問いかける。
「そっちこそ、ドラムの練習してたんじゃないのか?」
そうだ。
てっきり結はもう部室でドラムの練習をしていると思っていた。
すると、結は誤魔化すように笑って、
「いやーさ、練習してたはしてたんだけどー、破れたシンバルで指切っちゃってさぁ〜、、」
と自分の親指を前に突きつけて見せてきた。
血まみれだった。
たしかに、部室のシンバルが破れてるのは前々から危ないなぁ、とは思ってたけど、、
「結ちゃん、そんな見せなくていいから!はい、消毒するよ?」
結城先生があきれたような顔をして結の腕を軽く引っ張る。
そして、思い出したように僕の方を見て言った。
「それで、春くんはどーしたの?玲那ならさっき屋上に行ったよ?」
「屋上、ですか?ありがとうございます。」
屋上?急にどうしたんだろう?
今度は丁寧に扉を閉め、すぐさま階段を駆け上る。
さっきは下りだったからまだ余裕があったが、上りともなると文化部の僕には相当な体力消費となった。
これじゃあまるでシャトルランだ、、
シャトルラン。
年に一度ある、この世で一番大嫌いな行事。
その中でも特に嫌いな種目。
嫌いな行事の中の更に嫌いな種目。
ほんと、シャトルランなんて誰が考えたんだよ。
シャトルランを生み出した人、誰か知らないけど一生恨んでやるっ!
そんなくだらないことを考えていると、あっという間に屋上に着いた。
いつもは鍵がかかっているはずの屋上の扉が開いていた。
ゆっくりと扉を開ける。
真っ赤に染まった空。
さっきまではピンク色だった空が茜色に染められていた。
それを見つめる後ろ姿。
綺麗に整えられた短い髪の毛が風になびいていた。
とても美しかった。
いや、そんな言葉であらわせるものじゃなかった。
この時がずっと続けばいいのにと初めて思った瞬間だった。
でも、そんな綺麗な景色はやはり長くは続かないものであるということを再確認した瞬間でもあった。
読んで頂きありがとうございます。
アドバイスや感想などありましたら、遠慮なくコメント下さるとありがたいです(`・∀・´)