クール
「あれー?春くんじゃーん。どうしたのー?」
玲那との会話を終えて大人しく椅子に座って待っていると、結城先生の声が聞こえた。先生は保健室の扉を少し開けて、その隙間からのぞくようにこちらを見ていた。
その姿はまるで小動物が天敵から身を隠しているようで可愛らしかった。
「ちょっと頭痛が酷くて。休ませてもらえませんか?」
先生は扉を全開に開けて保健室に入った。
静かに扉を閉める。
「いいよー。じゃあ、とりあえず熱測ってねー。」
先生は体温計を差し出した。
そして、デスクに向かいノートパソコンを開いた。
今時期、体調を崩す生徒が多いからか、先生はとても忙しそうに見えた。
真剣な顔でタイピングをする。
その姿はとても美しかった。
先生の姿に見とれていると、玲那は少し頬を膨らませてこちらをにらみつけてきた。
僕はどうしたのだろう?と思いながら首をかしげる。
玲那はプイッとそっぽを向いてしまった。
なんか、子供みたいだな、そう思った。
「あ、熱はかり終わったら右側のベッド開いてるから、そこで休んでねー。」
そんな変なやり取りを玲那としていると、後ろから先生の声が聞こえた。
ほんと適当な対応だなぁ〜、と思った。
が、適当な対応でもいいだろう、と先生が思うほど先生と距離が縮まったと思えばそれは嬉しいことに他ならないのであった。
それは一年前のこと。
高校一年生の僕はいろいろあって精神的に病んでいた。
リストカットに手を出す寸前まで病んでいた。
そんな僕を癒してくれたのは先生だった。
先生は、なんでも相談に乗ってくれた。
相談というより、話を聞いてくれた。
先生は僕の話を誰にも言わなかった。
担任の先生にも、親にも。
それがなによりも安心できた。
先生は僕の話を聞くたびに、僕の頭を撫でてくれた。
そして、
「大変だったね。」
たった一言、そう言った。
先生に初めてこの言葉を言われたときは、自分の中の何かが一気に軽くなったような気がして、涙が溢れた。
止まらなかった。
「大変だったね。」
そのたった一言が僕の心を癒してくれた。
結城先生の前で、僕は何回も涙を流した。
それでも、先生はただ何も言わずに僕の頭を撫でてくれた。
僕に寄り添ってくれた。
そんな先生、多分この世に結城先生以外に存在しないと思う。
それ以来、結城先生は僕の唯一信用、信頼できる先生になった。
相談にものってくれるし、熱がなくても休ませてくれる。
そして、何より美人。
クールビューティーという言葉が一番当てはまると思う。
さばさばした感じがとても綺麗でかっこいい。
好きというより、僕の憧れの存在だ。
そんな結城先生と、他の生徒よりは親しい仲になれたのはなにより幸せなことなのだ。
そんな過去の回想をしていると、体温計の音が鳴った。
35.56°
平熱だ。
体温計を先生に手渡す。
「やっぱり、平熱だよねー。まぁ、ゆっくり休みな。」
先生は分かりきっていたかのように体温計に目をやり、少し微笑んでみせた。
やっぱり、クールだ。
ベッドに横になる。
毎回思うが、保健室の枕は固くて寝心地が悪い。
いい夢が見れそうにないなぁー。
そんなことを思いながら、僕は眠りについた。
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