『4番』
「やっぱり混んでんね。和葉、迷子になっちゃだめだよ?」
「なるか馬鹿!…なんで今更男バスの応援なんて」
「いいじゃん、あの男バスが県大会だよ?更に準々決勝!すごい快挙なんだし」
「私らとは違ってね……って、ごめんって綾瀬」
あの敗北から1週間、親友の水野綾瀬に誘われて、男バスの県大会の応援に来た私達。
バスケをやめると決めたことは、もう綾瀬には言ってある。
そのとき綾瀬は、一瞬驚いた顔をして、「そっか」とだけ言った。
「あ、もう始まってる…っていうかもう2ピリ目じゃん!……うそ、ダブルスコア…?」
14-35で、うちが負けていた。
得点板に気を取られていると、ワッと会場が沸き上がった。
コートに目を移すと、一人の選手がスリーを決めてガッツポーズしていた。
その選手のユニフォームに書かれた番号は、4。
私は友達の応援も忘れ、彼から目が離せなくなった。
誰よりも走って、声を出して。
なにより、県大会の準々決勝だっていうのに、誰よりも楽しそうにバスケをしていた。
それはいつか、私がなろうとしていた『4番』そのものだった。
ディフェンスに走っていく背中で揺れるその数字は、誰よりも彼に似合っているような気がした。
試合の結果は41-72でうちの負けだった。
選手達は、涙を堪え、スタンドに礼をして、足早にコートを去っていく。
本当なら、よく頑張った、って声をかけるとか、隣の綾瀬のように精一杯拍手を送るべきだったのかもしれない。
でも私の頭の中では、うちの男バスのどんなプレーより、彼のコート内での一挙一動が何度も繰り返された。心から楽しそうな顔、チームの活気を引き出す声、みんなを引っ張る背中。
コートから捌けていくその背中を見て、驚く程にすっきりと答えが出た。私に足りなかったもの。私がああなれなかった理由。答えは、『4番』を背負うに見合うだけの才能が、私にはなかった。それだけのことだった。だからこそ、キラキラ輝くそれを持った彼は、彼の背中の数字は、私の脳裏に強く焼き付いた。
その後の試合で彼のチームは負けてしまったようだったけれど、間違いなく私の中で、その日のヒーローは、あの4番の彼だった。




